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2-1. オフィスのルーツ・日本編 (2)

もう少し言葉「事務」を細かく見ていきます。
「事務」という言葉自体は古くから漠然と仕事一般を指す言葉として成立していたようです。それぞれの漢字の意味も広辞苑に因れば、「事:1、こと。ことがら。できごと。2、おこない。しごと。3、つかえ従うこと。4、個別的・具体的な現象。」「務:つとめること。はたらくこと。仕事。つとめ。」となっていて、大まかに仕事全般を指すということです。仏教では形而上的な真理や理法を示す「理」という言葉に対応する形で「事」(上述4の意味)が位置づけられていて、「務」の方でいえば、例えば禅宗では掃除などの労務を修行の一端として「作務」という言葉もあるので、語源を辿れば仏教的な世界から来ているのかもしれません。
特に明治以降に英語の[affair]や[business]の対訳として「事務」が当てられるようになり、より一般化したとのこと。また「言海」という初の国語辞典(近代国家が国語を辞典としてまとめることは、当時の西洋列強のトレンドでした。)が編纂され、その中に取り上げられることで一般化したものと考えられます。

2-1. オフィスのルーツ・日本編 (1)

2. オフィスの歴史

本連載で取り上げる「オフィスビル」についてですが、今回はその呼称を手がかりにオフィスの歴史を探っていきたいと思います。
「オフィス」を日本語にすれば、当たり前ですが「事務所」という言葉が対応するかと思います。例えば、建物を建築する時に建築基準法に則って届出を出す必要がありますが、その際に用途を書く欄があり、それには「事務所」という用途を書くことになります。その言葉の中身は広辞苑での解説の通り「事務を取り扱う所。オフィス。」ということです。
過去に読売新聞の記事内「編集手帳」において高島俊男さんという中国文学者がエッセイで書いておられるようですが、「事務所」という言葉は1882年に鳩山和夫(鳩山由紀夫・邦夫氏の曾祖父)が法律事務所(当時は代言人事務所)を開設する際につくった造語とのことです。1876年に代言人が試験をパスして得られる資格として位置づけられたものの、法律事務所と呼ばれるその事務をする場所をつくったのが彼が初めてと言われています。

1-1. 都心/オフィスビル (5)

郊外の住宅がたびたび建築家や社会学者のテーマに扱われて、都心のオフィスビルにはその機会が少ないというのは幾つか理由があるかと思います。
住宅の場合はオーナーが自分自身のために建てることが多いですので、没個性的な商品化住宅で満足できないとなれば(商品化住宅なりに個性を出そうとはしているようですが。)建築家に設計を依頼することもあるでしょう。特に日本では若い建築家は戸建て住宅をスタートにして、そのキャリアを始めることが多いです。それが都心のオフィスビルからスタートするとはあまり想像できません。オフィスビルの多くは賃貸物件ですし、そうなると不動産市場における評価が設計を決める最大の要因となるでしょう。各建物で個別の、個性的な価値を創造しようとする建築家に依頼するというよりは、オフィスビルは商品化(パッケージ化)されていないにも関わらず、ある意味で商品化住宅のように固定された価値に向かって設計できる設計者が求められるわけです。つまりオフィスと住宅とでは逆の立場、状況から、お互いに向かうようにベクトルが向いていると見てもよいかもしれません。
この連載では以上のような文脈から、中小のオフィスビルを考察するというあまり多くはない試みだと思います。なるべくテーマの制約をつくらずに、ざっくばらんに網羅的にトピックとして取り上げて、「オフィスビル」の全体像を浮かび上がらせるような連載にしたいと考えています。

1-1. 都心/オフィスビル (4)

場所を変えてみると、この状況と似たような光景が東京郊外の住宅地に見られます。もちろんオフィスビルと戸建て住宅というビルディングタイプ、規模などの違いはありますが、前述したようなあるエリアに集中して同程度の規模の建物が繰り返されている点は共通していて、言い方を変えれば両者共に「シムシティ」的です。そういう意味で、都心(業務地区)/オフィスビルの関係と郊外(住宅地)/住宅の関係はある程度、相似的であると思います。
ところが建築家(←この言葉についてはいずれ紙面を変えて書きたいと思っています。)や社会学者による郊外の住宅地に関する仕事(建築物、論評など)は多くみられる一方で、都心のオフィス街についての仕事は巡り会うことが少ないように思います。建築家がオリジナリティ溢れるアイディアをもって住宅を設計し、郊外の住宅地の在り方に再考を促すような作品はこれまでにも幾つもあります。少し前になりますが、東浩樹氏と北田暁大氏の「東京から考える―格差・郊外・ナショナリズム」(NHKブックス)という本では、東京郊外の住宅地が様々な切り口で解釈され、非常に興味深い内容でした。

1-1. 都心/オフィスビル (3)

それらの建物の用途は何でしょうか?私が眺めていたエリアは中央区。いわゆる「オフィス街」あるいは「業務地区」と言われているエリアなので、概ね「オフィスビル」と呼ばれている建物です。大雑把に全体像を描くとすれば、大通りに面したビルは敷地の区画が大きいので建物の平面も大きく、1階にはコンビニなどの商店かあるいはファミレスなどの飲食店が入っていることが多く、2階以上がオフィスとなっています。一方で大通りから1本内側に入ったビルは敷地の区画が小さくなって、1階にはよりこじんまりとした商店や、あるいはエントランス空間と管理人室やゴミ置場、駐車・駐輪場といったバックスペースのみで占められていたりします。その上には同様にオフィス。
このように大まかに描写できるようなある種の画一性、あるいはタイポロジー(類型・形式)が見いだせます。私が遊んでいたシムシティの建物群は、発展の段階が同じであれば同じグラフィックが繰り返されるものでした。私が超高層ビルの上で抱いた「シムシティ」的光景は、まさにこの同じオフィスのタイポロジーの繰り返しだと言って良いかと思います。