新着情報

5-8. コンクリート (20)

最後にコンクリート技術のもう1つの側面として、プレキャストコンクリート(PCa)*を紹介したいと思います。一般的にコンクリートと言えば現場打コンクリートを指します。即ち、建物が造られるその場所に型枠を組んで施工するものです。もちろん様々なメリットはあるのですが、デメリットに注目するとコンクリートが固まるのに時間がかかるので、重層する建物については工事期間に対してコンクリートがクリティカルになってくることや、ある程度リサイクルをするものの木の型枠を利用するのでエコ的にあまり良くはないという点が挙げられます。また条件によっては、品質管理が難しいということもあります。そこで鉄骨などと同じような発想で工場でつくって持ってきてしまうというものがPCaです。
まず設計上の注意としては型枠を繰り返し用いて効率化するために、規格化される必要があります。そうすると木ではなく鉄で型枠を組むことによって森林資源の節約になります。また、工場内で作業をするので外部となる現場と比べて環境が安定し、品質管理が容易です。一般的にはPCaの方が現場打よりもきれいに仕上がります。また現場での作業は組み立てるだけとなるので、準備工に時間を要することになりますが、現地での作業は大幅にペースが上がることになります。
一方で輸送のコストなど別の要素も絡んでくることなので、一概にどちらが良いとは言い切れません。一般的には単位空間が連続するような学校建築などが比較的PCaをつかった構造になじむのではないでしょうか。

図5-8-15:函館みらい大学

図5-8-15:函館みらい大学

5-8. コンクリート (19)

ここまで力学的なコンクリート技術の可能性について考えているのですが、それらはコンクリートの組成からの発想です。ところでコンクリートの建物はそもそも自重が重いという特徴があります。2,400kg/m3です。ところで鉄は7874kg/m3ですからコンクリートよりも重いですが、そもそも断面積を小さくしているために長さあたりの容積を減らしているという特徴があります。建築に使われる主な梁材料としてH鋼を使っているのは、鉛直方向の荷重に対して、H鋼の形状が重さあたりの強度という点において優れているからです。(以前に「鉄」の稿でも多少述べています。)つまりコンクリートにおいても同様の発想が出来るのではないか、ということで考えられているのが「ヴォイドスラブ」というものです。

図5-8-14:ヴォイドスラブ

図5-8-14:ヴォイドスラブ

上の写真はコンクリートが打設される前の状況ですが、このように発泡スチロールの球体を並べることによって、断面的に中空の状態にします。そうするとその部分で考えてみればいわば鉄骨と同様にHのような形状が並ぶことになり、スラブ全てが梁として力学的に考えられるということです。一般的には梁の上にスラブが乗るという格好になり、梁が室内にでてしまいますが、この工法ならばスラブ全体の厚みは増しますが、一方で部分的に梁によって天井高が下げられるということが無くなってきます。
このようにコンクリートを型枠に流すという施工方法から、ある程度自由に形状をコントロール出来るのがコンクリートの特徴なので、力学的に有利な断面形状をつくるというのがコンクリート技術の1つの可能性でもあります。先般に紹介した、HPシェルなどもその一例です。

5-8. コンクリート (18)

コンクリートの組成として、セメント、水、骨材ということを先述しましたが、骨材を工夫することによってコンクリートを補強する技術が開発されています。その代表的なものがダクタルと呼ばれている超強度繊維強化コンクリートです。骨材に砂や砂利ではなくて、鋼繊維あるいは有機繊維が使われています。鉄筋コンクリートは引張りに強い鉄筋をコンクリートと融合していますが、発想的にはこれと同じで、鉄筋か繊維状になっているかの違いで引張りに対する補強をしていると考えてよいかと思います。コンクリートに比べるとダクタルは圧倒的に力学的には強く、鉄筋コンクリートの場合、鉄筋に対するコンクリートが被る厚さ(かぶり厚)が数センチ必要なので断面が大きくなりがちですが、ダクタルの場合はミクロに繊維がコンクリートを補強しているため、とてもスレンダーで強いコンクリートを実現しています。建築基準法上はまだ構造材料としては認められていないものの、キャノピーやデッキ材、ルーバーといった主要構造部ではない個所には利用されていますし、土木の分野では橋などに積極的に用いられています。

5-8. コンクリート (17)

その力学的特性を補うように考えたのが鉄筋コンクリートでした。例えば両端を柱でさせられている梁があったとして、その中心付近に鉛直方向に力がかかったとします。地球上では当然、重力があるので鉛直方向に荷重はかかります。その時に梁が弓のようにしなることを想像すれば、梁の上側には圧縮力がかかり、下側には引張り力がかかるのがイメージ出来るかと思います。そうすると普通のコンクリートであれば下側から裂けるように梁が破壊されてしまいます。その力を補うために引張りに強い鉄筋を入れてあげることによって、引っ張られる力に対して鉄筋が耐えて、破壊が防がれます。力学的にコンクリートの弱い部分を鉄で補うということです。英語でも[Reinforced Concrete]は「補強されたコンクリート」を意味します。
ところで話が変わりますが、麻雀をするとき初めに牌を並べて積みますが、2段に積む際に両手で牌の並びの両端を押さえつけることで、つるつる滑る牌を並べたまま浮かせることが出来ます。なんとなくそんなイメージをすれば良いでしょうか。プレストレス・コンクリートという種類のコンクリートがあるのですが、バラバラになり易い(引張りに弱い)コンクリートにPC鋼線という特殊なワイヤーのようなもので力をかけて強化するというものがあります。一般的にはコンクリートの施工は型枠を組んで、配筋をしてから、コンクリートを打設しますが、その前にテンションをかけたPC鋼線を仕込ませておきます。固まった後、それらを解放するとPC鋼線が縮む方向に力が加わるのでコンクリートに圧縮力がかかります。これはプレテンション方式ですが、コンクリート打設後にテンションをかけるポストテンションという工法もあり、いずれにせよ圧縮力を加えることで例えば梁のたわみを軽減するという力学的な効果が得られるわけです。

5-8. コンクリート (16)

ここまでは主に鉄筋コンクリートについて述べてきました。
そもそもコンクリートがなぜ固まるのかをおさらいします。まずコンクリートはセメント、骨材、水を混ぜてものが時間をかけて固まります。セメントは粉末状のもので、これに水を混ぜることで糊のような役目を果たして、骨材同士を繋いで固まります。一般的に骨材は細骨材として砂、粗骨材として砂利が使用されますが、骨材そのものは必ずしもそれらのものでなくても、あるいはなくても固まりはするわけです。そのように骨材なしでセメントと水を混ぜたものはモルタルと呼ばれます。ところでセメントの成分を化学的に捉えると、ケイ酸カルシウム、アルミン酸カルシウム、鉄アルミン酸カルシウムと呼ばれるもので、水を加えた時に水と水和反応という化学反応を起こして水和物を生成し、反応が進むとセメントゲルと呼ばれる結晶を形成するようです。化学的な説明は以上のようになりますが、いわば骨材が接着剤のようなモルタルで結びついている状態がコンクリートだと単純化して考えると、その力学的特性が引張りには弱く(糊が剥がれ易い)、圧縮には強いということは何となくイメージがし易いかと思います。