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2-3. 近代/ビルディングタイプ (2)

そういう意味で物販をする店舗ということだけでは「ビルディング・タイプ」として位置づけるにはいささか茫漠とし過ぎています。店舗というだけでは空間的には殆ど型を見いだせないからです。ただ、例えば郊外のコンビニを想像してみて下さい。そうすると大雑把にみなさん同じ光景を想像するかと思います。通りに面して駐車場や駐輪場があり、平屋の四角い建物が通りからはセットバックして建っている。ガラス張りの店舗は外から内側がよく見えて、フラットな屋根の軒先にはお店の看板がある。このようなある種の型に嵌まったものは郊外型のコンビニというある種の「ビルディング・タイプ」を示していると言えます。

図2-3-1:コンビニ

図2-3-1:コンビニ

また映画館という「ビルディング・タイプ」を考えれば、スクリーンに向かって多くの席が並んでおり、暗転するために閉じられた大空間がある。背後には映写室があり、ロビーが付随しており、券売の窓口がある。といったように、室(スペース)の構成(組合せ)が型に嵌まっていることが理解できるかと思います。

2-3. 近代/ビルディングタイプ (1)

これまでは近世までのオフィスを通覧してきましたが、これからは近代のオフィスビルについて書いていきます。
それに先立ってビルディング・タイプという概念を紹介します。建築設計を専門にしている人にとっては聞き慣れた言葉ですが、一般的にはあまり使われないかと思います。以前に10+1という建築雑誌で特集された際には「使用目的から見た建築の類型をさす」という短い説明がされていますが、「用途」との関係から考えてみれば分かり易くなると思います。例えば事務所というのは「用途」です。そこにいる人がその場所で何をするかによって「用途」は定義されます。物販をするのであれば店舗になりますし、映画を観るのであれば映画館です。「用途」には建物は必要ありません。屋台で物販をしても店舗ですし、屋外シアターにしても映画館となります。「ビルディング・タイプ」は日本語にすれば「建物の型」です。私たちが「ビルディング・タイプ」という時には、「用途」を伴ったある種の建築の形式を指しています。

2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (10)

そして聖ジェロムの2枚の絵やJean Miélotの絵に共通しているのが、なぜか本が散乱しているということです。これは当時の実際の状態というよりも、美術史では様々な角度から本を描いて技巧を見せるためだとか、画面に動きを出すという風な説明がよくされます。もちろん絵なので当時の状況を正確に描いているとは言えないでしょうが、一方でこのように描かれているということは、多かれ少なかれこのような状態であったという理解も出来ます。つまり設えとしての棚は十分に用意されているものの、意外とそこに納まる本はそれほど多くなかったのでしょう。また2-2-6の絵でみられるように、空いたスペースにはフラスコや分度器の様な雑多なものが納められていたようです。
これまでルネサンス時代までのオフィスをみてきましたが、建築的な室内の特徴としては「設えられた棚」というものがオフィスを象徴するもので、あとは家具がオフィスの機能を充足していたと見受けられます。このような建築としてのニュートラルな室内というのは、現代のオフィス空間にも続いているように思われます。次回以降は近代のオフィス空間を検証したいと思います。

2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (9)

さてここでようやくルネサンスのオフィスの室内風景に戻ります。
先にみた聖ジェロムの2枚の絵に共通しているのは、壁一面が棚に覆われているということです。現代的な感覚では家具が建物に設えられているということはごく一般的なことですが、当時の家具の位置づけを考えるとこれは一考に値します。というのは、家具というのは建築から独立するものであり、例えば時代は違いますがフランスのブルボン王朝では季節毎にパリのチュイリュリー宮からベルサイユやフォンテーヌブローに移動する際には、家具も一緒に移動するモノでした。当時の建築を見てみると建物に設えられるモノと言えば、アルコーブ状に壁に穿たれた寝台や暖炉(暖炉は建物に設えられざるを得ないですし。)程度のものでした。壁は開口部以外は壁紙やタピスリーで装飾されていました。その事実を顧みると、先の2枚の絵にみられる「壁に設えられた棚」は機能的にもイコンとしても、空間としての「オフィス」を示すものだったと言えるでしょう。

2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (8)

図2-2-7:st jerome

図2-2-7:st jerome

これも聖ジェロムの絵です。1450年にニッコロ・コラントニオ[Niccolò Colantonio]というイタリア人画家の作品です。
先に聖ジェロムはライオンと伴に描かれるという旨を書きましたが、それはなぜかというとライオンの足に刺さった刺を聖ジェロムが抜いてあげて、それ以来そのライオンは聖ジェロムの側から離れなかったという逸話があるからです。
さて、話を室内風景に戻します。この聖人はローマ時代の後期の人物ですが、描かれているのはルネサンス期です。そこには1000年の差がありますので、当然ですが当時のルネサンスの画家にはこのような室内風景を描くに際してローマ時代の室内は知る良しもありません。この場合には同時代、つまりルネサンス時代の風景が描かれているという理解が通説です。この絵ではあまり判然とはしませんが、建物の外観が背景になっている絵などをみると、それは一目瞭然です。即ちここで描かれている室内風景はローマ時代を描いてはいるものの、実際にはルネサンス時代のものと見ても良いでしょう。