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6-2. 椅子 (2)

このように日本では馴染みの薄かった椅子ですが、世界の文明に目を移せば人類と椅子は長い付き合いがあることが分かります。紀元前3000年辺りから始まっているエジプト文明の時代のパピルスに、既に明らかな椅子の表現があります。

図6-2-2:パピルス

図6-2-2:パピルス

上図は右に女王と思われる人が座っていて、左の面々は彼女に従属する女官だと思われます。この時には椅子は権力を象徴する玉座として機能し、皆より高い位置に置かれます。楽な姿勢で上から人々を見下ろすという位置関係は、そのまま身分の位置関係も象徴しています。また描かれた椅子は単なる台ということではなく、背もたれが付いているものです。
また、下図はエジプトの玉座のレプリカの写真ですが、背もたれだけでなく肘掛けも付いており、いかにも椅子らしい姿形をしています。現在の我々が見ても即座に「椅子」と認識できるものですが、過去5000年に渡って椅子というもののタイプはあまり大きく変化していないということだと思います。

図6-2-3:Sitamun Chair

図6-2-3:Sitamun Chair

6-2. 椅子 (1)

6. オフィスの設え

あけましておめでとうございます。本年の連載も引き続きよろしくお引き立て頂ければと思います。
2014年、1回目のトピックは「オフィスビルの設え」として「椅子」をテーマにします。6−1では机について考察しましたが、オフィス内ではそのセットとなる椅子についてです。今回もまずはオフィスという枠を外して、椅子そのものの歴史から見ていきたいと思います。
日本では長らく床座の文化であったことから、椅子の歴史はあまり長くないようですし、椅子が存在はしていたものの、あまり普及はしていなかったようです。現在でも時代劇などを見ていると出てくる、床几(しょうぎ)が折り畳み可能な携帯用の椅子として利用されていたようです。これは古墳時代の出土品からも発掘されているとのことです。

図6-2-1:床几

図6-2-1:床几

また面白いエピソードがあります。19世紀の半ば、ロシア使節プチャーチンの秘書として日本を訪れたゴンチャロフがその著書『日本渡航記』に記したところによれば、ロシアと日本政府の要人が会談する際にまず床座にするか椅子座にするかが話し合われた。そして、ロシア人が畳の上に5分と座れなかったのと同様に、日本人が椅子の上に5分と座れなかったとのことです。姿勢というものは面白いもので、その人の日常が否応なく表れるシーンだということですね。

4-3. トイレ (15)

言うまでもなく、日本ではトイレを和式と洋式と呼ぶように、日本に元々在った便器の形式は床に便器があってしゃがみ込んで使用するものでした。このような形式は日本だけでなく、アジア、中近東、アフリカにも見られる形式です。そもそも何もないところで(例えば、野外で)用を足すとすれば、しゃがみ込む仕方が人間の姿勢として最も自然なのでしょう。ただし便器の形は様々でどちらが前か後ろか分からないものも多く、間違えてしまうと便器の外に落としてしまうこともあったりします。個室の扉に入って、扉を背にするか、扉に向かって座るかという違いもありますし、ホースが付いていてウォシュレットのように水でお尻を洗うといったトイレ、また水を流すのもタンクがあってスイッチがあるのではなくて、自分でバケツに水を汲んで流すといったものなど、場所によってほんとうに多様です。
世界のどこであっても人がいるところには欠かせないトイレは。このように時間的、地理的な多様性があり、洋式便所のグローバル化の一方で、人の生理的な営みの一部ということもありローカルな特色も依然として生き続けています。特に日本の場合は、洋式便器を受け入れる一方でウォシュレットという日本独自のシステムを組み込みました。その様な欧米文化に対する姿勢が、これまた日本的であると言える面白い事例だと言えるでしょう。

4-3. トイレ (14)

フランスには建材の見本市で「BATIMAT」というイベントがあり、建築関連のあらゆる商品がそこで展示されており、今年は偶然、浴室関連商品の特集が組まれていました。日本での便器のシェアはTOTOとINAXの2社で大半が占められている一方で、欧州ではかなりの数のメーカーが様々なデザインの製品を出しています。つまり日欧の大きな違いは、日本の便器はデザインもさることながら、ウォシュレットや暖房便座などの便器特有の機能を付加することによって製品を刷新し、それが多くの人々の日常に受け入れられているのに対して、欧米では便器としての最小限の機能を充足した上で、後はデザインで製品の良し悪しを競っているという、市場環境の差が歴然としています。特殊な機能ではなくデザインで他社と差異化を計っているということは、日本に比べて多くのメーカーが参入しやすい環境です。
その「BATIMAT」にはTOTOも出展していましたが、高機能を売りにしているということもあり他社と比べると相対的に価格は高く設定されており(最高額商品で10,000ユーロ=140万円程度)、会場の中でも際立ったプレゼンテーションでした。

4-3. トイレ (13)

ところで日本では用を足した後にお尻を拭くトイレットペーパーも洋式便器の導入と同時期に使われるようになったようで、それ以前は籌木(ちゅうぎ)と呼ばれる木のへらが使われたり、カエデの木が便所のすぐ側に植えられていることも多かったようです。
本稿の冒頭にトイレの場合は歴史的な時間の流れもさることながら、地域による習慣の差が大きいと言ったことを書きました。現在では大抵、トイレは個室として在ることが世界的には共通しているようですが、やはり便器の形などに未だに地域差が反映されている点が見られ、とても面白いところです。
日本に居ると一般的になっているウォシュレット(これは正確にはTOTOの商品名で、本来ならば「洗浄便座」とでも言った方が良いのでしょうか。)や暖房便座などは、まさに日本の特有のトイレの形式と言えるでしょう。2010年時点で日本での普及率は70%を超えているほど一般的になっていますが、海外に行くと殆どありませんので、マドンナが来日時に「日本の暖かい便座がなつかしい」といった旨の発言をしたとのことです。