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8-1. 高さ制限 (7)
このように単純なキューブ状の建物だと割と単純に影の形を追えますが、建物の形が複雑な場合や敷地の形状が不整形の場合、複数の用途地域にまたがっていて日影の条件が異なる場合など、現実の敷地ではかなり複雑な状況があります。その場合はトライ・アンド・エラーで検証しては、ダメならば建物を修正して再度検証、という作業を繰り返す必要があります。ただ、現在では「逆日影」という、日影規制に関して敷地の条件からどのような建物を建てることが可能なのか、というCADのプログラムがあり、それを援用することで複雑な敷地に対しても予めどの程度の建物が建てられるのかという予測が出来るようにはなっています。
さて、高さに関する制限の残り1つは「高度地区」と呼ばれるものです。今まで述べた規制が基本的には建築基準法に基づいた規制でしたが、「高度地区」は主に都市計画法に基づいて定められたものです。
8-1. 高さ制限 (6)
先週の「斜線制限」と「絶対高さ制限」のほか、建築物の高さ制限には「高度地区」と「日影規制」があります。
「日影規制」はその建物が周囲の敷地に落とす影を制限する規制なので、直接的に建物の高さだけを規制するものではなくて、建物ボリューム全体の形状やプロポーション、配置を含めて規制されるような内容です。具体的に規制される内容は用途地域ごとに建物の高さ日影になる時間などが異なります。1例ですが「第一種低層住居地域で軒高が7mを超える、または階数が3を超える建物が規制の対象になり、その内容は平均地盤面から1.5mの高さにおいて敷地から5m〜10mの範囲で3時間以上、影を落とさないこと」といった内容です。字面だけで見ると何だかよく分かりにくいですが、下図を見て頂ければ何となく想像が出来るかと思います。
今、画像の下側が北で敷地に白いキューブの建物が建っています。時間ごとにでる影のアウトラインを引いていますが、その影を測定している高さは地上から1.5mの箇所です。敷地から5mと10mのラインは角が丸まった四角形で図示されています。この図は1時間ごとの図なので、例えば9時から12時まで日影となっている箇所については、3時間以上は日影であり続けるということです。それを濃いグレーで、2時間のエリアを薄いグレーで描いています。この図では3時間以上のラインが5mの範囲を超えておらず、敷地より5m離れた範囲では3時間以上この建物によって影になることはないということで、制限をクリアした建物だと言えます。
8-1. 高さ制限 (5)
このように大きく3種類の斜線による高さ制限がありますが、2003年に「天空率」という考え方で斜線制限の緩和が受けられるという条項が建築基準法に追加されました。
天空率とはある地点に半球を置いた時に、半球の中心から建物の外形ラインを結ぶことでできる半球上のシルエットの割合のことです。例えば、東京タワーの足元に立った時には圧迫感を感じるものですが、遠くから見ている分には殆ど圧迫感は感じません。それは対象物の絶対的な大きさというよりも、観察者の視点を中心とした相対的な大きさが心理的な圧迫感には大きく影響するということです。
斜線制限については、例えば敷地いっぱいに建っている建物の上部が斜線によって切られていれば、それはそれで法規に準じていますが、むしろ建物の平面をスリムにして斜線を超える建物の高さが建っていたとしても、敷地内に空地をとっていた方が環境としては快適な場合も多々あります。そういう考え方に適応できるのが、天空率という発想です。具体的な運用に付いてはとてもテクニカルで、専用のCADソフトを使って計算をしたりするのですが、天空率の導入によって都市における建物ボリュームのあり方が広がったと言えるでしょう。
8-1. 高さ制限 (4)
もう一方の隣地斜線については、道路のように高さの算定の基準となる道路幅員はありません。直接、隣地に接しているので用途地域によってある程度、一律に決まっています。第一種、第二種低層住居専用地域については前述の絶対高さが定められているので隣地斜線の設定はありませんが、その他の住居系地域で敷地境界線上、地上20mの高さから1:1.25の割合で斜線を引きます。その他、商業系、工業系の用途地域では32mの高さから1:2.5の割合で斜線を引く、といった具合です。道路斜線と同様に建物が隣地境界からセットバックした分は、隣地側にラインをセットバックしてそこから同じように立ち上げます。
また北側斜線は建物の真北方向を基準に斜線を引きます。隣地の日当りを考慮したものなので、住居系地域では適用されますが、商業、工業系の地域では適用されません。第一種、第二種低層住居専用地域で5mの立ち上がりから、1:1.25の割合、第一種、第二種中高層住居専用地域で10mの立ち上がりから、1:1.25の割合の斜線を引くことになります。
8-1. 高さ制限 (3)
建物の敷地は道路、または隣地のみに面しています。「斜線制限」には種類が3つあって、それぞれ「道路斜線」、「隣地斜線」、それに方位に関する「北側斜線」です。高さ制限の基本的な考え方は、環境として周りの土地に日当り、通風や風景といった意味で迷惑をかけないという事です。敷地の奥に行けばいくほど周囲の敷地から離れるので影響も少なくなり、その分は高く建てても良いが、敷地境界に近い位置にはある一定の高さの制限をかけましょう、ということが斜線制限です。
「道路斜線」についてはその敷地が面している道路の幅員に因るので、道路の反対側の地上レベルから1:1.25あるいは1.5の割合で斜線を引きます。その斜線を超えることなく建物を設計すればクリアです。1:1.5の斜線の地域で4mの道路に接していれば、道路境界上では6mの高さまで建てられることになります。また、セットバックによる斜線制限の緩和ということがあります。建物を道路境界から離したとすれば、道路の反対側にも同じ距離を取ってから斜線を引くというものです。先ほどの条件で、建物を道路境界より1m離したとすると、道路の反対側にも1m離すことになるので、全体の距離が6mになります。つまり道路境界から1m離した地点では6×1.5=9mの高さが建てられるということです。