新着情報

5-2. 石 (7)

ところでパリの場合、19世紀までに建物の殆どはライムストーンによるものですが、その大量の石はどこからもたらされたものでしょうか。エジプトのピラミッドの場合は、あの石はナイル川を伝って遠くから運ばれたようですが、一方でパリの場合は古くは地産地消をしていました。実は古代ローマ時代のパリの地下は大きな採石場で、未だにその跡地として大きな迷路が残っており、誰もその地図を描くことはできていないと言います。2004年にニュースになりましたが、アーティストの団体が地下に400人規模の映画館を作っていたことが発覚しました。その後、その団体は霧散してしまったようですが、活動していた人は500人とも1000人ともいわれ、きっと未だに地下に潜んでいることでしょう。ちなみにヴィクトル・ユーゴーの小説「レ・ミゼラブル」でジャベールの追手からジャン・バルジャンが地下の下水道を伝って逃げていたのも、このパリの地下ですし、「オペラ座の怪人」がオペラ座から小舟に乗って隠れ家にクリスティンを連れて行くのもこのパリの地下です。現在では14区のカタコンプでこの地下を体験出来るほか、ビュット・ショウモン公園もパリが採石場跡地であることがよく分かる形態をしています。

図5-2-12:parc de butte chaumont

図5-2-12:parc de butte chaumont

5-2. 石 (6)

堆積岩のうち生物岩に分類される石灰岩と呼ばれるお馴染みの石があります。生物岩ということで、生物の死骸が堆積して生成される岩なのですが、一方で堆積岩のうち化学的沈殿岩と分類される化学的な物質が沈殿、堆積することによって生成される石灰岩というものもあります。生成の由来は違うものの、いずれも石灰、つまり炭酸カルシウムを主成分とすることから石灰岩としてまとめられています。但し、由来が違うことでミクロのレベルでの結晶構造は違うとのことです。
石灰岩は英語で言えばLimestone「ライムストーン」となります。ライムストーンが使われた最も有名な建造物はエジプトのピラミッドかもしれません。内部構造は他の石のようですが、あの外観のイメージはライムストーンで作られているといって良いでしょう。

図5-2-10:ピラミッド

図5-2-10:ピラミッド

ヨーロッパではライムストーンは一般的な石材で、いわゆる石の組積造の建物の殆どはライムストーンが使われていると考えて良いかと思います。薄いベージュの街並はこの石の素材の色に由来しています。

図5-2-11:オペラ通り

図5-2-11:オペラ通り

5-2. 石 (5)

前回まで、火成岩、堆積岩、変成岩のうち、火成岩について書きました。今回は堆積岩についてです。
堆積岩は礫、砂、泥、火山灰や生物の死骸が地表や海底で堆積して、圧力で押し固められて、あるいは化学的に反応して結晶化することで生成された岩のことを指します。堆積岩の分類は主に由来する成分で区分されることが一般的なようで、火山由来成分でできている火山砕屑岩、火山由来成分以外の砕屑岩、生物由来の生物岩、水中の成分が析出して固まった蒸発岩などがあります。
火山砕屑岩に分類される凝灰岩は火山灰などが堆積することで生成されるもので、建材として有名なのが栃木県で産出される大谷石です。灰が堆積したものなので石としては軽く、柔らかいので加工がしやすく、耐火性に優れているということで、石垣や石蔵の材料として重宝してきました。一方で崩れやすいので細かい意匠を施すものとしては不向きです。その素材を最も有効に活用したのがフランク・ロイド・ライトと言えるでしょう。彼が設計した旧帝国ホテルは全面的に大谷石を使用して、何とも表現し難い特徴的な意匠を実現しています。

図5-2-8:旧帝国ホテル

図5-2-8:旧帝国ホテル

ライトは日本で設計した他の仕事にも積極的に大谷石を利用して、大谷石を一躍、最も有名な日本の石の1つにしました。

図5-2-9:旧山邑邸

図5-2-9:旧山邑邸

5-2. 石 (4)

地表付近で溶岩が固まって生成される安山岩のうち、有名なものとしては黒曜石があります。石器時代などで矢じりや刃物に使われた石ですが、柔らかくて加工しやすいのとエッジが立ちやすいので刃物などに使われたのだと思います。磨けばキラキラと光るので宝石としても珍重されていたようですが、建材としてはあまり使われていません。
安山岩は吸水性が高いというその性質上、建材として使われるのはあまり多くないようです。日本では白河石と呼ばれる福島で取れる石がありますが、明るいグレーの色味で石塀や外壁に使われることがあります。

図5-2-6:白河石

図5-2-6:白河石

火成岩のうち、溶岩がゆっくり固まって出来る深成岩で頻繁に建材として使われるものが花崗岩、通称御影石と呼ばれるものです。地学的な定義は深成岩のうち、主成分が石英と長石で、有色の鉱物含有量は10%程度、と成分による分類がなされています。見た目としては全体的に白っぽくなるようです。建材としては、鳥居や城の石垣、橋に使われてきたようで、有名な建物で言えば国会議事堂は全て国産の花崗岩で出来ているとのことです。下の写真を見てみると、基壇部分と上部とでは別種の石が使われているのが分かりますね。恐らく産地の違いでしょうか。

図5-2-7:国会議事堂

図5-2-7:国会議事堂

通称で用いられる御影石の名称は神戸の産地に由来しており、それが一般化して他の産地のものにも使われるようになった、とのことだそうです。

5-2. 石 (3)

火成岩はマグマが冷えて固まったもののことを指します。マグマと言えば溶岩が思い当たりますが、溶岩はマグマが流体状に流れ出たものやそれが固まった岩のことを指しますので、火成岩の一種と考えても良いようです。地表に流れ出ずに地表付近で冷え固まったものが火山岩、地中の深くで固まったものが深成岩と呼ばれます。それぞれ固まり方が違うということは、成分、性質も違いますし、建築物に使う際には意匠性でも違いが出てきます。

図5-2-4:溶岩石

図5-2-4:溶岩石

例えば溶岩はタイル状に300角程度に切り出されて使われることが一般的です。急冷された岩は多孔質で水分を含みやすく保湿効果があります。日本ではまとまった塊としてよりも、砂利状に取れるものが多いようで、主に外構に使われます。タイル状になっているものは、中国で取れるものが多いようです。また、ヨーロッパではフランス中央部、水で有名なヴォルヴィックのあたりではとても黒い溶岩石が伐り出されます。クレルモン=フェランのカテドラルはこのヴォルヴィックの溶岩石の組積造でできており、街中で異様なインパクトを与えています。

図5-2-5:溶岩石のカテドラル

図5-2-5:溶岩石のカテドラル