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5-3. タイル (3)
タイルの歴史を調べてみるとその始まりは諸説あるようですが、いずれの説も紀元前まで遡り、人類とタイルとは有史以来の付き合いだと言えるでしょう。
タイル以前に登場したのは日干し煉瓦で、メソポタミア文明において紀元前7000年頃に存在していたようです。現在でも中近東や北アフリカでは建材として度々使われています。土を固めて天日干しにしただけの日干し煉瓦から、その後タイルに近い、焼き固めた焼成煉瓦がみられます。
一方でタイルは紀元前2650年頃のエジプトのピラミッドに見られるようです。地下廊下に水色をしたタイルが貼られていたようですが、銅を含む砂漠の砂を原料としたタイルだったようです。紀元前7世紀のアッシリアでは様々な彩色が施されたタイルが発見されているようで、その頃には意図的にタイルに色を与える技術が発見されていたのだと思われます。
その後、西欧における文明では、古代ギリシアや古代ローマの遺跡で細かいモザイクタイルを使った建築装飾がみられます。床や天井を単なる面にするのではなく、人や動物を描いたモザイクは建築物の一部を別のものに象徴する作用があると解釈しも良いでしょう。
5-3. タイル (2)
本稿では広義の意味よりも狭義の素材の意味が加わったものとしての、いわゆる一般的なタイルについて稿を進めたいと思います。吹き付けタイルや屋根に使われる瓦も広義の意味ではタイルですが、オフィスビルに使われることは稀ですのでここでは扱いません。
さて、このタイルの素材は土を固めて焼成し成分が溶け固まって出来上がりますが、土の成分や焼成の温度によって、陶器質、せっ器質あるいは磁器質となります。煉瓦も土を固めて焼いたものですのである意味ではタイルに近い素材かも知れませんが、タイルとの違いは厚みのある煉瓦はそれを積み重ねることによって壁そのものを構成するので、モノを覆うという意味でのタイルではありません。煉瓦タイルというものがありますが、それは厚みをもたせずに壁に貼付けるものなのでタイルということ扱いになります。
何はともあれ、タイルは陶磁器の食器と同じ原理で作られます。つまり一般的にタイルに付けられている色はタイルを焼成する時に釉薬が化学反応を起こして出来るものです。現在では既製品のタイルは安定した色味を出していますが、古いものをみると1つ1つ微妙に違う色合いがあるのが分かります。
5-3. タイル (1)
5. オフィスビルの素材
現代のオフィスビルではタイルと呼ばれる素材は割合色々な場所で使われています。トイレなどの水廻りに使われるのはもちろん、外装に使われることもあります。また、エントランス空間で床や壁に大判のタイルが使われたり、共用部にPタイル、執務空間にタイルカーペットが床に敷かれたりします。一般的にはタイルと言えば、陶磁器質の薄っぺらい素材をタイルとして連想しますが、上述のように実は様々な素材に対してタイルという呼称が付いています。
そもそも英語でいうタイル[tile]というのは、フランス語の[tuile]から伝わった言葉で、元を辿ればラテン語の[tegula]という言葉とのことです。その元々の意味は「焼成粘土によって覆われた屋根」という意味で、それが転じて現在では、様々な形の薄いモノが規則的に表面を覆っている時にそのモノを広義に「タイル」と呼んでいます。つまりいわゆる陶磁器質の素材という意味でのタイルは狭義のタイルであって、広義には素材の縛りはありません。そういう意味でPタイル(=プラスチックタイル)やタイルカーペットという呼称が成立します。
5-2. 石 (9)
最後になりましたが、建築用の石材として最も初めに思いつくのはきっと大理石だと思います。大理石もその成分から石灰岩の部類として類別されるようですが、ライムストーンのような凝灰岩としてではなくて、変成岩のうちの石灰岩と考えて良さそうです。石灰岩がマグマの熱によって変成作用を起こし結晶化したものが大理石である、とのことです。
日本語の大理石という名称は10〜13世紀あたりにチベットあたりにあった大理国に由来し、そこで大理石が多く産出されたからといいます。とはいえ、現在では日本での大理石の生産は多くありませんが、一昔前は日本各地、特に山口県でも大理石を産出していました。
欧米語では大理石はだいたい「マーブル」といった呼ばれ方をしますが、これはトルコにあるマルマラ海から由来しているとのことです。現在では高級建材として珍重されている大理石ですが、西欧の観光地となっている様な古くて著名な建築物の多く(例えばギリシアのパルテノン神殿やローマの遺跡群など)は大理石が全面的に使用されています。イタリアやギリシアなどは火山が多いことを考えてみると、石灰岩が変成作用を受けて生成するということで大理石が多く産出するのだろうと想像出来ます。
5-2. 石 (8)
ついでの話ですが、フランスと言えばワインの産地です。ぶどうを育てる土壌はワインの味を決める重要なファクターで、とりわけ発泡ワインの高級品であるシャンパンはシャンパーニュ地方の土壌がなくてはならないものです。パリと同様にシャンパーニュ地方、ランスやエペルネーといったシャンパンの生産地の地盤は石灰石の岩盤で出来ています。石灰を多く含んだ土壌は非常に水はけがよく、日照などの条件とともに繊細なぶどうをつくり上げるそうです。
ランスの街の少し外れにPommeryという有名なシャンパンのメーカーの工場があります。表通りからみるときれいな芝が広がり奥に城が垣間見えます。この工場はガイドツアーをやっていて、実際のシャンパンの製造工程を見ることが出来ます。
シャンパンはこのキレイな城の真下、地下のカーブで熟成されています。先述したように地盤は石灰岩の岩盤で出来ていますが、ここもPommeryが来る前は採石場だった場所で地下には石が掘られた後の複雑な大空間が広がっています。岩盤で出来ているために十分に堅牢ですし、石灰岩なのでシャンパンを保存するための温度や湿度の条件が年中安定して整っているとのことです。ちなみに第二次世界大戦中には防空壕としても活用されたとのことです。