新着情報

9-1. 図面 (4)

もう少し具体的な例を挙げながら話を進めたいと思います。
一般の方がもっともよく目にする図面は不動産の折り込みチラシなどの広告や家探しの時の間取り図と呼ばれるものだと思います。これはいわゆる平面図というもので、建物を水平方向に切断して上から眺めた図です。他にも建物を鉛直方向に切断した断面図や建物の外観を水平方向から投射した立面図がありますが、平面図を含めてこれらを一般的に基本図と呼びます。
図面には縮尺という概念があります。説明するまでもなく、実際のサイズである1分の1で図面を描いてしまうと、紙媒体に描ききらないので、それを適宜100分の1や50分の1に縮小して表現します。ところで図面は線で描かれるわけですが、線には太さがあります。実際にはモノのエッジには太さなんて概念はないのですが、2次元の図面に表現する際にはどうしても線の太さが視覚化する上で必要となります。現在、皆さんがいる場所を100分の1、あるいは1,000分の1の縮尺で紙の上に鉛筆で描くことを想像してください。なんの抽象化もしなければ、間違いなく紙が真っ黒になってしまうでしょう。タイルの目地や一本一本のフローリングの線、フローリングの木目を表現することは不可能です。
いずれにせよ縮尺を与えて図面に表現するということは、程度の差はあれ抽象化のプロセスは外せないということです。

9-1. 図面 (3)

一般的な意味において、建築物で表現される空間はもちろん3次元の空間ですが、一方、図面で表現される世界は2次元なので、どうしてもその内容を省略、あるいは抽象化せざるを得ません。ましてや図面ですら1分の1で表現出来るのは部分的な内容ですので、多くの図面にはその対象物を小さく描かれています。その抽象化、省略はいくつかの方向性があるように思われます。
極端なことを想像してみましょう。図面というのは平面図や断面図、立面図といったようにある面を水平に投射した像であるわけで、一般的に私たちが眺めている遠近法的な世界ではありません。一切、省略がない図面を想像するとなると、その場所を水平にスパッと切って上から写真を撮れば良いわけです。その写真の視点が無限遠からならば、遠近法ではなくて、水平に投射した像とほぼ同一です。
その場合、色があるでしょうが、一般的には図面には色がありません。輪郭を線で表現して、奥行き方向の表現もありません。上の写真をモノクロにすれば色は捨象されますが、材料の質感は残ります。縮尺の小さな図面において素材感を線で表現することはありますが、それも実際とは違ういわば「記号化した」表現です。

9-1. 図面 (2)

実務的な意味でも我々にとっては図面が最終成果物です。つまり契約上で施主から支払いを受ける際には図面提出を前提としたフェイズ毎に行われるということです。設計・監理という言葉があります。設計はもちろん図面を作成する仕事で、それをもって建築確認申請を行い、現場が始まります。監理は現場で建築物が作られていくフェイズですが、あくまでも作るのは施主と契約した工務店であり、設計者は図面通りに工務店が作っているかどうかをチェックする仕事です。そういう意味でも図面というものは、建築家にとっての基本的な成果物であると言えます。その図面をもって工務店と施主が契約しているので、形式的には現場監理の段階で建築家が図面外のことを工務店に指示するとなると、それは越権行為です。あくまでも図面として既に成果物が出来上がっているからです。現実的には、図面通りに作ろうとしても作れないだとか、不具合がありそうだということが現場の段階で分かることも多々あるので、それはフレキシブルに対応することになります。

9-1. 図面 (1)

9. その他のこと

このコラムでは「オフィスについてのあらゆること」を書くと謳っていますが、特定のジャンルにはカテゴライズして書き難いトピックもありますので、そんな内容は「その他のこと」という章を設定してまとめることにしました。その1つ目のトピックは図面についてです。
私たち、建築設計の仕事の成果物は基本的には図面であると言っても良いでしょう。もちろん建物を設計しているのでいわゆる建築家の作品というものは、建築された建物であることには間違いありません。いわゆるデザイナーやアーティストと最も違うことは、最終的な作品を自分の手で作るわけではないですし、1分の1のサイズの試作品を作れるわけではないということだと思います。
例えばルネサンス時代の画家も自分でアトリエや工房を持って、自らのスタッフに指示を出して作品を仕上げていたという意味では自分の手で作品が出来上がっているわけではありませんが、いずれにせよ最終的な出来上がりの作品に直接手を加えているわけです。自動車のデザインや小さなプロダクトのデザインも自分の手で作るわけではないですが、最終的に製品として出荷される前には数多くの原寸大の試作品で検討が出来るでしょう。一方、建築物で原寸大でサンプルをつくるなんてことは、とてつもなく贅沢なことで、まず予算がそれを許しません。

8-2. 面積 (5)

法的に緩和されている場合と違って、あえて床をつくらずに容積率として算定されないように対応を考える場合もあります。よくあるのがオフィスビルなどにおいて、階段が屋外階段になっている例です。利用の実態としては概ねエレベーターを使うことが殆どで、そういう場合には階段は外部でも構わないであろうという発想で、法的には屋外の避難階段の規定を満足していれば良いことになります。この場合はあくまでも屋外ということで、容積率には算入されません。(当然ですが、屋内の階段は算入されます。)また、天井高が1.4m未満の箇所も容積に算入されないので、あえて部分的に低い場所をつくってそこを収納にしたり、採光のための奥行きのある窓をつくったりもします。
ところでこのような容積率という考え方ですが、世界的にみてもわりと考え方は共通しているようで、ヨーロッパや中東、中国でも同じ様な制限のかけ方をしているようです。以前にニュースでみたのですが、中東のどこかの国で延床面積の規定はあったけれど高さの規定がなかったために、階高10m以上の超高層が建ってしまった、なんていう笑い話みたいなことを聞いた記憶があります。(ネット上でそのニュースをみつけられませんでしたが…。)
また、中国は地方によっても違うようですが、階高が3.6m以上の吹抜けは床面積を1/3増しで計算する、というローカルルールも聞いたことがあります。これは後から増床されることがあるので、予めそれを見込んで算入しておくというスタンスのようです。また容積率といった時に、本当に空間の気積を容積として計算するという制限のかけ方もあるようです。