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9-1. 図面 (9)

現在では業務上は殆どの図面はCADと呼ばれる設計用のアプリケーションを使ってコンピューター上で描かれますが、当然のことながら数十年前までは全て人の手によって紙の上に描かれていました。30代の設計者である私の個人的な経験としては、パソコン自体が高校生、あるいは大学生くらいの時に普及してきて、(インターネットを使うようになったのは大学生になってからです。)CADも大学の製図に使うようになってきた割と早い方だったように思います。ただ、私が行っていた大学の場合では、最初の課題は手描きで過去の名作住宅作品をトレース(複写)するというものでしたし、最初の自分の設計の課題も手描きが必須だったように思います。
というのも、コンピューター上では画面を拡大、縮小がマウスホイールをクルクル回転させるだけで出来てしまうので、図面の縮尺という概念が培われないという弊害があります。最終的に作られるものは、当然1分の1の実物大のものですので、それをどれだけの実感をもって図面に落とし込めるかということは、作図においてもっとも重要なファクターのひとつです。手描きで紙の上に直接描くという行為は、そういう意味でスケール感を養うのにとても重要です。実際に実務をする上でも、私の場合はCADで図面を描く前の段階で、度々手描きでスケッチをしています。

9-1. 図面 (8)

設備設計は給排水衛生設備や空調換気設備、消火設備などの設計を担います。給排水衛生設備とは、要するに水廻りのことで、浴室やキッチン、トイレ廻りの設備の設計で、空調換気設備はエアコンや換気扇関係の設備設計です。電気設計は電気が関連する設備を設計しますが、幹線、動力、弱電、電灯・コンセントから、通信設備(電話、インターネットなど)、火災報知器などのジャンルがそれに当たります。多くの場合、これら構造、設備、電気設計は意匠設計を元請けとして、下請け的に設計契約を結ぶことが多く、そういう意味で意匠設計が全体を統轄するので、意匠を総合設計と呼ぶこともあります。また工事の段階になると、施工者も建築、設備、電気と専門に分かれます。設計図上の意匠と構造はこの場合は建築に対応し、設備と電気はそのまま設計と施工が対応関係にあります。
形式上、このように分業がなされていますが、実際的に出来上がる建築物としては1つの大きなものです。図面上では分裂して表現されているものも、1つの全体をもった建築物として作られなくてはならないので、これらの図面をきちんと重ねあわせる作業が必要ですし、そこが元請けの施工者の実力として評価される部分です。

9-1. 図面 (7)

実施設計では基本設計で描かれた図面に対して更に詳しい内容が付加されていきます。先に挙げた図面の他、矩計図(断面図のスケールを上げたもの。断面詳細図ともいいます)、展開図、天井伏図、平面詳細図、部分詳細図、建具表などです。その他、必要に応じて建具詳細図や外構図、エレベーター図など、あるいは断熱材や耐火材の詳細を表現した図面などを作成することもあります。基本図の内容も、詳細図を検討することによって変更が加えられますので、それらを反映する作業があります。
ところで建築設計の分野においては、意匠設計および構造設計、設備設計、電気設計と、概ねこのように設計する内容に従って専門に分けることが多いです。規模が小さく比較的単純な住宅の設計などでは意匠設計が一手に構造と設備も担うことがありますが、一定規模以上の場合はこのように設計作業を分担します。意匠設計は全体のまとめ役で、関連する全ての事柄を調整します。構造設計はもちろん建物の躯体(構造体)の設計とその構造計算を行って、構造的にその建物が成立しているかを検証します。

9-1. 図面 (6)

ここで実際的な設計業務に沿ってまとめてみます。
設計監理業務は、基本設計、実施設計、設計監理の大きく3つのフェイズに分けるのが一般的です。基本設計で計画する建物の骨格を定めて、実施設計でその詳細を詰めて建築確認申請と工事契約が出来る状態まで仕上げます。設計監理は工事中に図面通り施工が進んでいるかをチェックします。
基本設計時には施主に対する成果物として、基本設計図書を提出します。その内訳は、計画説明書、仕様概要書、仕上げ概要表、面積表および求積図、敷地案内図、配置図、各階平面図、断面図、立面図などです。ここで大まかな計画の方向性と予算を確認出来るようにします。基本図面(平面図、立面図、断面図)の縮尺は規模によりますが、およそ1/200から1/100ではないでしょうか。これらはいわゆる意匠設計の図面で、その他構造設計と設備設計、電気設計の図面が加えられます。

9-1. 図面 (5)

その抽象化のプロセスですが、縮尺が小さければより抽象化されますし、縮尺が大きければ逆に実物に対してより近い表現になってきます。

図9-1-1:断面図200

図9-1-1:断面図200

図9-1-2:断面図50

図9-1-2:断面図50

上の2つの図は現在、私たちが進めているプロジェクトの一部ですが、それぞれ1/200と1/50の図面です。先述の通り、表現している内容が大きく異なっており、つまりその図面が意図する内容が違うということです。1/200の図面では建物全体の構成を示しています。建物の高さや階数、階高、天井高などです。一方で1/50の図面では具体的に材料が何であるか、構造体がどのような形で入って床を支えているかなど、より具体的な情報が記載されています。それならば1/50で全体を描いてしまえば1/200の図面などは必要ないのではないか、大は小を兼ねる的な発想になりそうです。確かに1/200の図面の情報は1/50の図面からも読み取れますが、記載されている情報が過多なのでパッと必要な情報を読み取ることが困難になってきます。図面は設計者からその図面を読む人へのコミュニケーションですので、コンセプトを示すという意味では、やはり1/200の図面の方が物事をクリアに伝えていると言えるでしょう。