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4-8. 階段 (1)

4. オフィスビルの部分

小、中規模の賃貸用のオフィスビルを設計する場合には、貸せる部分を成る可く大きく確保しようとします。当然のこととなっていますが、基本的に賃料のベースが専有面積となっているからです。平面図を眺めると、居室あるいは事務室となっている部分以外では、エレベーター、エレベーターホールや廊下、給湯室、トイレといった箇所が集中的に固められていて、またバルコニーや階段などがあります。
建築基準法上、階段は屋外にして床面積としてカウントしなくても良いので、容積率を出来るだけ居室として使いたい時にこのように階段を屋外に出すケースはとても多いです。ここで書くまでもなく、階段は上下階を移動するためのものですが、その上下移動が中層以上の建物となると一般的にエレベーターによることが殆どとなっているために、階段が日常的には使われなくなってきます。場合によっては、そのビルの階段がどこにあるかが分からないという方もいるのではないでしょうか。

9-1. 図面 (13)

日本の風土で考えれば、建築物も時間とともに建替えるものですが、西欧の社会では未だに半永久的に持続するものとしての認識の上に建築があるように思われます。(ここで詳述はしませんが、「世界遺産」のオリジナリティに対する考え方というのが好例でしょう。)とは言え、物理的に建築物というものは、当然のことながらその姿形を留めたまま永続するものではありません。人間の一生を定規にすれば永続するような見かけになりますが、実際には朽ちて風化していくものです。事実、ローマ時代の建築物はルネサンスの時代には多くは残っていなかったでしょうし、そこに残っていないからこそ憧憬を抱き、再生しようとする意思が働くのだと思います。
その場合、なにを根拠にして再生を試みるかということは、建築の場合では図面であったということです。1000年の時を経れば堅牢な石で築かれた建物も崩れてしまいますが、一方で紙の上に描かれた図面はその時を経て、紙が風化したとしても、それが伝える建築という概念は保存されていると言えるでしょう。

9-1. 図面 (12)

パラーディオの建築四書は450年前のものでしたが、ある程度以上の規模の建物を作るとなると図面がないと建てられません。人類が建物を建て始めた頃には図面などはなかったでしょうが、資料として残っていないだけで、ある時期からは確実に作図を始めたわけです。ルネサンスの意味するところは「再生」で、ローマ時代を理想としてその再生を目指していたわけですが、ローマ時代にヴィトルヴィウスが記した[De Architectura](日本語では「建築書」と訳されています)がルネサンス時代に再発見されました。遅くとも図面という形式はローマ時代には成立していたことが分かります。建築の形式を考えれば、恐らくギリシア時代にも図面は作成していたように思われます。

図9-1-8:De Architectura

図9-1-8:De Architectura

上の図は1521年にイタリア語(原典はラテン語)で出版されたものです。
ちなみにこのヴィトルヴィウスの建築書の構成を見てみると、建築設計とともに、材料の扱い(大きな石の持ち上げ方とか!)や都市計画など、施工から建築より広いものまで範囲として取り扱っています。更に言えば、軍事的な技術や水車など産業技術に関わる技術も合わせて記述されていて、建築と呼ばれていた概念の広さを伺えます。

9-1. 図面 (11)

ここで少し古い図面を見てみましょう。

図9-1-6:建築四書

図9-1-6:建築四書

上図はルネサンス後期マニエリスムの時代にイタリア、ビツェンツァをベースに活躍したアンドレア・パラーディオの著作「建築四書」の表紙です。初版が1570年ですので450年ほど前に出版されたもので、その後も重版を重ね、数多くの翻訳書として現在でも手に取ることが出来ます。ローマ時代に記された一部の例を除けば、もっとも古い建築書の1つと言っても良いでしょう。
壁、天井、階段、柱、扉、窓、フレーム、屋根、ディティールと9つの部分に分けて記述され、多くの彼の作品の図面が図版として添付されています。版ごとに本としてのレイアウトは違うようですが、いずれにせよ初版時には4冊の本として製作されたので「建築四書」というタイトルが付いているようです。

図9-1-7:ロトンダ

図9-1-7:ロトンダ

上の図はパラーディオの代表作である通称「ロトンダ」と呼ばれている別荘です。十字形の平面の上に右半分は断面、左半分は立面を表現した図面になっています。ロトンダの場合は基本的に4方向に同じ立面が作られているので、この図面だけで基本図面の必要な部分を充たしていると見てもよい図面となっています。

9-1. 図面 (10)

手描きで図面を描く際にはいくつかの道具を使用します。宮崎駿のアニメ「紅の豚」に飛行機の設計をする少女が登場しますが、そこで製図台が使われていました。ドラフターと呼ばれる台なのですが、過去には設計事務所といえば多くのドラフターがならんでいたものでした。

図9-1-3:ドラフター

図9-1-3:ドラフター

上図は19世紀に使われていた建築家のドラフターです。基本的には平行、直角を簡単に取れるように定規が駆動する仕組みとなっています。ドラフターはそれなりに大きなものですが、より簡易なものとしてはT定規というものがあり、製図台に対してTの上辺をひっかけて平行をとり、それに三角定規を当てて直角をとるようにします。
描く道具は鉛筆、あるいはそれを下書きとしてその上にインクで清書することがありました。清書する際にも線の太さなどが図面上の重要な表現になるので、烏口という道具を使ってインキングをしていました。

図9-1-4:烏口

図9-1-4:烏口

私たちが学生の時代にはペンにインクが入っているロットリングという製図用のペンを使っていました。

図9-1-5:ロットリング

図9-1-5:ロットリング

これは製品名ではなくドイツの会社名なのですが、この製図用のペンが代表的な製品なのでそのまま通称となっています。