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4-14. 窓 (16)

窓の位置を考えた時に壁や天井ではなくて、こんなところに!というのがアトリエワン設計の「ガエハウス」です。

図4-14-13:ガエハウス

図4-14-13:ガエハウス

大きくせり出した屋根の裏側、軒天に水平連窓が取り付いています。軒天窓とでも呼べば良いでしょうか。太陽光が直接入ってくることは当然ありませんが、建物周囲の緑などから反射した光が室内に入ってきます。ここにはインテリアの写真はありませんが、天井にあたる個所はシルバーの鋼板なので、室内に廻ってきた光はさらに反射するので、外観上は閉じたようにみえるところですが、じつに程よく外の環境が室内に入ってきています。またインテリア側からみると腰壁の高さにこの軒天窓があるので、周辺の住宅地の建て込んだ環境に対して直接対峙するのではなくて、足下廻りを見るような風景の取り込み方をしています。隣地側の植栽や前面道路などが見えてきますが、ちょっと不思議な距離感が魅力的な窓のつくり方です。
このように素材、開き方、位置などによって窓についていくつものパタンのあり方が考えられることがわかります。そしてそれらがとりもつ内外の関係のあり方は多様であることも分かります。引き続いて、具体的な建築物を通して窓のあり方を考えていきたいと思います。

4-14. 窓 (15)

窓の位置について話が戻ります。
普通の壁に穿たれた窓ではなくて、壁から飛び出した窓というものも考えられます。日本語で「出窓」と呼ばれますが、弓[bow]や湾[bay]のような平面から[bow window][bay window]と呼ばれます。

図4-14-11:出窓

図4-14-11:出窓

壁構造の間口を小さくしか取れない窓に対してより広い面で開口部を取れるようにということで、壁から平面的に突出することによって外部への接触面積を増やしています。
また、壁ではなくて天井(あるいは屋根)に窓が取り付くものを「天窓」といいます。採光を取るという意味では太陽の位置を考えると天窓は壁に取り付く窓よりも効率的です。

図4-14-12:パンテオン

図4-14-12:パンテオン

上の写真の例はローマにあるパンテオンですが、窓というよりもガラスが入っていないのでただの穴なのですが、全体のボリュームに対してドームの頂部に小振りな穴があいているだけで柔らかい光が建物のインテリア全体に廻っています。先述の内容と関係しますが、ドームの頂部にぽつんと穿たれた穴は、それこそある種の象徴性を感じざるを得ません。キリスト教が入る前のローマの神々を祭るために建てられた神殿なので、人ではなくて神の居場所としてつくられたことを考えると、その象徴性も納得です。

4-14. 窓 (14)

ここでまた話が脱線しますが、水平と鉛直の違いを考えておきます。鉛直方向とは即ち重力の方向をさします。水平はその方向から直行する面が考えられます。この鉛直方向に対抗して建物を建てる、つまり高い建物を建てるということについて、ある種の象徴性を帯びたものになるということは、古今東西を問わず私たちが感ずるところです。「天には神が存在する」といった類いのアレゴリーは世界中の地域に関わらず語られるようなことですし、現在でも超高層ビルの高さの世界一を競うということは、このある種の象徴に近づいていこうとする姿勢の現れのように思います。一方で水平方向は象徴性というよりも、より人間的なものを感じるように思います。鉛直方向は重力があるのでいくらジャンプをしても届かない高さはあるし、すぐに地面のレベルに戻されてしまいますが、水平方向は自らの足で移動して自分の手の届く範囲とすることが出来ます。
ここで水平連窓に戻るとして、視線を水平方向に連続できるというのは、周辺にある建物やランドスケープの要素を連続的に捉えることができるということです。基本的には私たちの世界は水平方向に広がっているものです。いくら鉛直方向に連続する窓をつくっても、すぐに天を見上げることになります。
水平連窓はこのような意味で、ヒューマニスティックな建築の言語だといえると思います。近代5原則の中で「自由な立面」の中でフォローできている範疇の内容のように思えますが、そこから切り離して1つの項目としているのはそのような強い意味があるからだと考えられます。

4-14. 窓 (13)

ここまで開き方や素材から窓のタイプを考えてきましたが、ここで位置について考えてみたいと思います。
まずは位置についての概論的なことを考えると、一枚の壁の真ん中に窓が取り付いていることを想像してみて、窓の両脇の壁は「袖壁」、窓の上は「下がり壁」あるいは「垂れ壁」、窓の下は「立上がり」などと呼びます。ごく一般的な窓は壁に穿つという意味では、周囲に壁の部分を伴います。ここでいくつかの例を考えると、立ち上がりのない窓が考えられますが、これを「掃き出し窓」と呼びます。箒などで清掃をする際に室内のチリを外に掃き出せてしまうのでそのような呼称が付いたのでしょう。天井高の高い部屋などで垂れ壁をつくらずに高い位置に付いている窓は「ハイサイドライト」で、排煙窓はいわゆるこのハイサイドライトであることが多いでしょう。また視界が空の方向に向くので、周囲の風景が限定されている時などに使われています。袖壁のない状態、即ち窓が水平に連続していくような窓は「水平連窓」といいます。ル・コルビュジェが近代5原則の1つとして提案していますが、その1つ「自由な立面」と表裏一体の格言です。先にも言及しましたが、西欧では壁構造が構造形式として主流でした。それが近代化のプロセスの中で柱梁の鉄筋コンクリート造が発明されたことで、壁に建物の荷重を負担させない形式が出現して、自由に立面がつくれるようになりました。水平連窓が技術的に可能になったことで、室内から水平に広がるパノラミックな景観が享受できるようになりました。

4-14. 窓 (12)

ここまで「引き違い」と「開き」の差を中心に開き方を考えてきましたが、その他の窓の開き方も基本的にはこれらスライド系と回転系の2つに分類されると概ね考えてよいかと思います。いくつか引き続き例を考えていきます。
「引き違い」が2枚の障子が相互にスライドする形式でしたが、1枚はスライドしてもう1枚はフィックスの「方引き」[single-hung sash]があります。スライドする1枚が戸袋を兼ねたようなフィックス側に動くというものです。水平連窓に対して部分的に開口部をつくりたい時などは、引き違いにする意味がないので方引きにしてしまうということがあります。
またスライド方向が水平ではなく鉛直方向の「上げ下げ窓」があります。上下に並んだ2枚の障子が互いにワイヤーで繋がれていて、一方を上げるともう一方は下がるという構造になっています。窓の荷重を受けながら上げ下げするのであまり操作性は良くないです。
また回転系で考えると、軸が下にあり内側に開く「内倒し窓」や外側にひらく「外倒し窓」があります。火災時の排煙の際に開かせる排煙窓には度々「外倒し窓」が使われています。
また、「ジャロジー」というのも回転系の窓として考えられるでしょう。ベネチアンブラインドのように羽を回転させることによって開閉するものです。特に気密性は良くないので気候の良い場所で元々使われていたものですが、浴室の換気のためなどに使用する例も見られます。

図4-14-10:ジャロジー

図4-14-10:ジャロジー

その他、内倒しと内開きを使い分けられる「ドレーキップ」や軸を上枠に付けて外開きの「突き出し窓」、スライド系と回転系を合わせたような「滑り出し窓」など開閉の仕方によるタイプは考えられます。