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5-7. 鉄 (3)
まず隕鉄についていえば、紀元前3500年のエジプトにおいてビーズとして使われた記録があります。隕鉄は天国から賜ったものと見なされて、教会で祭られることもありましたが、道具としてとりわけ鋳造されて兵器として使われたと考えられています。エジプト以外にもヒッタイト(トルコ)やメソポタミア、インドにおいても同様の記録が残っているようです。
時期的には石器時代の後、青銅器時代の半ばあたりから以上の文明において鉄器の生産が始められたようで、次の時代の鉄器時代を迎えるという流れが考えられます。ちなみに意外にも中国に鉄が見つかったのは紀元前700から500年頃のようで、中央アジア地域から比べるとかなり後になります。日本には中国を経由して既に鉄となっているものを輸入していたので、鉄を自らつくれるようになるのはさらに後の時代となります。
これらの時代に製造されていた鉄の種類は錬鉄と呼ばれる、炭素の含有量が少ないものです。鉄鉱石としての鉄は酸化鉄としてしか地球上には存在せずに、鉄にするには還元して酸素を取り除く必要があります。還元の化学反応を起こすには高温状態にしなければならず、鉄鉱石を炉に入れて加熱することになります。炉を加熱する際に昔は木を炊いていたので、二酸化炭素、一酸化炭素が生成され、その炭素成分が酸化鉄の酸素を吸着して純粋な鉄を取り出すことになります。その温度が元々はあまり高くなかったので、炭素成分が鉄にあまり混じっていない錬鉄が作り出されることになります。炭素が混じっていない錬鉄が良いように思えますが、炭素量が少ないと固いけれど脆い鉄になってしまいます。
5-7. 鉄 (2)
さて、建築一般に使われる鉄については、鉄鋼や鋼材などと言われますが、これは鉄の種類を示しています。鋼(はがね)の元来の語源は刃金から来ており、読んで時の如くカタナをつくる鉄を指して刃金と読んでいました。刀をつくる際には鉄を熱して叩くことを繰り返して、刀の中にある炭素の量を調整し、不純物を取り除くことによって現在の意味での鋼に近い炭素量の鉄をつくったようです。その現在で言う鋼は0.3〜2.0%の炭素を含んだものを指しており、多かれ少なかれ炭素が含有することから合金の1つであると考えられます。実際に建築物で使われる鉄骨にはこの鋼材を用いますが、クロムやニッケルなどの添加物を加えることによって、特殊な材性を持たせるようなこともできるので、幅広い用途に使われています。ちなみに英語で考えてみると[iron]と[steel]という言い方がありますが、これは日本語において鉄=[iron]、鋼=[steel]と対応しています。
さてここで一旦歴史を振り返ります。このような現在使われている鉄鋼が工業的に生産できるようになったのは19世紀中頃の話で、一方で先述の隕鉄のように先史時代から人類は鉄を生活の中で様々な形で利用してきました。その流れはひとつには鉄の種類と製鉄の仕方を追えば良いでしょう。
5-7. 鉄 (1)
5.オフィスビルの素材
建築物を構成する素材として、一番始めに思いつくものは構造材料です。日本では主に木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造があります。(それ以外にも一般的にコンクリートブロック造などもありますし、実験的なものとしてアルミニウム造、竹造というのもつくられたことはあります。)これまででは2-3.「近代/ビルディングタイプ」の稿で僅かながら鉄について書きましたが、今回改めてオフィスビルを構成する素材としての「鉄」にスポットを当ててみたいと思います。
化学記号で言えば言わずもがな「Fe」の鉄ですが、現代においてはありとあらゆるところで使われています。金属の中でも最も身近なもので、例えば金属を種別するのに非鉄金属という言い方がありますが、鉄か鉄でないかが金属の分類の1つの考え方となるほどです。地殻の5%を占めるそうなので、相当量の鉄が現実的に身近に存在していると考えても良いでしょう。また地球に限ったことではなくて、宇宙にも鉄は存在し、隕石として地表に落下して来る隕鉄と呼ばれるものもあります。もちろん純度が高いものではないですが、製鉄技術がまだなかった先史時代では道具として使われたり、宇宙から落ちてきた異物であると分かると宗教的な意味合いを付与されて重宝されたようなこともあったようです。特にロシアやインドのムガール帝国などには流星刀と呼ばれる、隕鉄を材料とした刀剣がつくられて皇帝に献上されたりしたようです。実際には不純物も多く含み、刀にするには不適当な成分なようですが、やはりどちらかと言えば魔刀的な特別な意味合いがあったようです。
5-6. 壁紙 (9)
この考え方に則った時には、必ずしも世界遺産に登録されている建物が「完全性」や「真正性」を保持しているとは考えられないかもしれません。なぜなら建築当時の姿を必ずしも「完全」な形で維持しているとは考えにくいからです。むしろ伊勢神宮のように式年遷宮をしていた方が、建築当時の姿を今でも見ることが出来る保存の方法なのではないかとも考えられる訳です。
大幅に話がずれましたが、このように日本には穢れを避けて、真新しさに価値を見出す傾向はかなりあるように思います。パリでは19世紀に建てられたオスマニアンの建物は現在ではつくることが難しいですし、そのことで不動産的な価値も高くなっていますが、日本で築150年なんてことを考えてみると全く価値を見いだされないでしょう。不動産の世界ではやはり新築が最も価値のある状態で、以降は価値が減衰していくという考え方がなされています。
そんな建物において少しでも真新しさを取り戻す方法は、昔で言えば障子や襖を張替えて、畳を張替えることですが、現代の賃貸物件においては壁紙を張替えるということに繋がるわけです。壁紙を張替える一方で、以前は張替えられていた建具は木製なり鉄製になったり、で張替えがなされない形に変わった(逆流した)のはなんだか不思議なものです。
5-6. 壁紙 (8)
ところで話がずれますが、日本人の真新しい物好きは現代的な感覚というよりも、脈々と受け継がれているエスプリだと考える方が妥当なようです。欧米の価値観との違いを示す例として度々あげられるのが、ユネスコの「世界遺産」の価値観との距離です。当然、「世界遺産」(特に歴史遺産)の認定の枠組みは西欧的な観念から固められています。その認定要件を満たすためにはその価値の「完全性」と「真正性」を証明されなければいけないのですが、一般的に建造物の場合だと「真正性」を満たすために、それらを構成する材料がオリジナルでなければならないと言われています。
その価値観と対立するのが神道的な発想であり、20年に一度建て替えられる(式年遷宮)伊勢神宮です。伊勢神宮の場合は木造建築なので腐食などで耐久性を維持できないからといった技術的理由が与えられることもありますが、一方で年月が経つというのは「穢れ」であるということから常に清廉性を維持するために遷宮をすると考えられます。法隆寺の場合は世界最古の木造建築物として世界遺産に登録されていますので、必ずしも技術的に耐久性を維持できないという話ではないのです。