5-7. 鉄 (18)
先に筆者が設計した例で示したように、構造形式の選択および、鉄骨造の場合の鋼材の選び方などは力学的合理性やコスト面とともに空間そのものをつくるひとつの重要な要素です。より分かり易い例を以下に挙げてみます。
これはミース・ファン・デル・ローエ設計のドイツ、ベルリンにあるナショナル新ギャラリーで、1968年にオープンしたものです。ギャラリーといってもコレクションはほぼ地下に納めてあり、地上階は正方形のワッフル状の屋根とそれを角ではなく辺の途中で支える柱、そして内外を分節するガラスのスクリーンと極めてシンプルな佇まいをしています。地上部はファインアートの展覧会をするというよりも、現代アートの企画展をするのに適した場所と考えれば良いでしょうか。
屋根は正方形を分割してH型鋼で組まれたものです。柱の方もH型鋼ですが、X方向、Y方向にそれぞれにクロスさせたような断面形状をしています。先述の通り、H型鋼はウェブ方向の曲げについては強いのですが、その直交方向に対しては強くありません。そこでH型を90°回転させて組み合わせた様な鋼材としているわけです。ただ、一般的にはこういう場合には丸形鋼管や角鋼管の方が鋼材量との関係で言えば効率が良いのですが、あえてこのような断面とすることによって柱に影を落とすことによって、一般的な柱の大きさで、ぼってりとした重たい印象にならないようにしています。また接合部はピンになっているので、かなり厚みのある重々しい屋根が華奢なピンの接合で柱に乗っており、軽々しく持ち上げられているように見えます。ガラスの透明性や内部のプランの単純さも相まって、単純明快な構成が明確に現象として立ち現れている作品だと言えます。
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