5-4. カーペット (7)

図5-4-6:貴婦人と一角獣「視覚」」

図5-4-6:貴婦人と一角獣「視覚」

これら「貴婦人と一角獣」は中世美術館に展示されているので製作年代が中世かと思いきや、1484年から1500年にかけてフランドルで織られているそうです。15世紀末にはイタリアでは既にルネサンスが隆盛を極めていて、1485年にボッティッチェリが「ヴィーナスの誕生」を描き、16世紀に入ったあたりにはミケランジェロが「ダビデ」像を作っているような時代です。フランスでの本格的なルネサンスの到来はフランソワ1世がレオナルド・ダ・ヴィンチをフランスに迎え入れた1516年以降と位置づけられています。このような周辺国との関係を考えると、芸術的には少し流行からは遅れているとも言えるフランス芸術の中で、ルネサンスが到来する直前の15世紀末ということで中世美術館に展示されているのでしょう。
ところでこのタペストリーの発注者は、タペストリー内に描かれている紋章からフランスリヨンの貴族、ル・ヴィスト家だとされています。しかし先述の通り、製作されたのは上述の通りフランドル地方です。当時のフランドルは紡績産業の一大拠点だったようで、輸出入も多く行われていたこともあり、イタリアと並ぶルネサンス芸術が発展した地として知られています。「アルノフィーニ夫妻の肖像」で有名なファン・アイクやヴァン・デル・ヴェイデン、メムリンクなど多くのルネサンスの画家が誕生している地です。つまり技術的なレベルではルネサンスの水準まで達している地で製作されたものの、発注元であるフランスにおける中世的な主題を描いた、というその組合せがうまく作品として昇華されたのでしょう。

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