4-3. トイレ (8)

14世紀にヨーロッパ全土でペストが流行したことは、この都市の衛生状態とは無関係ではないと言われています。ヨーロッパの全人口の3分の1から3分の2の人口が亡くなったそうで、その割合たるや驚異的な数字です。1350年前後に書かれたボッカッチオの『デカメロン』は10人の貴人が10夜にわたってそれそれが面白い話をするという構成ですが、その背景となっているのはペストの流行で都市部には居られなくなったので郊外の邸宅へ逃れて退屈しのぎをするというのが前提となっています。
14世紀にこのような悲惨な状況であったにも関わらず、下水道の整備は遅々として進まなかったようで、パリの場合は19世紀中頃のオスマンのパリ大改造まで待つことになります。
その間フランスではブルボン王朝の全盛期などもありましたが、トイレに関して言えば相変わらずオマルを使用するか、外で用を足すということが普通だったようです。ヴェルサイユ宮殿にトイレがないという有名な話がありますが、それはおまるで済ませていたからです。貴人の場合には便の状況をみて健康を判断していたという話もあります。また婦人のスカートが大きく膨らんだ形だったのは、脱がずともそのまま用を足せるということもあったと言います。

図4−3−5:ヴェルサイユ時代のドレス

図4−3−5:ヴェルサイユ時代のドレス

最新記事40件を表示