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1-1. 都心/オフィスビル (5)
郊外の住宅がたびたび建築家や社会学者のテーマに扱われて、都心のオフィスビルにはその機会が少ないというのは幾つか理由があるかと思います。
住宅の場合はオーナーが自分自身のために建てることが多いですので、没個性的な商品化住宅で満足できないとなれば(商品化住宅なりに個性を出そうとはしているようですが。)建築家に設計を依頼することもあるでしょう。特に日本では若い建築家は戸建て住宅をスタートにして、そのキャリアを始めることが多いです。それが都心のオフィスビルからスタートするとはあまり想像できません。オフィスビルの多くは賃貸物件ですし、そうなると不動産市場における評価が設計を決める最大の要因となるでしょう。各建物で個別の、個性的な価値を創造しようとする建築家に依頼するというよりは、オフィスビルは商品化(パッケージ化)されていないにも関わらず、ある意味で商品化住宅のように固定された価値に向かって設計できる設計者が求められるわけです。つまりオフィスと住宅とでは逆の立場、状況から、お互いに向かうようにベクトルが向いていると見てもよいかもしれません。
この連載では以上のような文脈から、中小のオフィスビルを考察するというあまり多くはない試みだと思います。なるべくテーマの制約をつくらずに、ざっくばらんに網羅的にトピックとして取り上げて、「オフィスビル」の全体像を浮かび上がらせるような連載にしたいと考えています。
1-1. 都心/オフィスビル (4)
場所を変えてみると、この状況と似たような光景が東京郊外の住宅地に見られます。もちろんオフィスビルと戸建て住宅というビルディングタイプ、規模などの違いはありますが、前述したようなあるエリアに集中して同程度の規模の建物が繰り返されている点は共通していて、言い方を変えれば両者共に「シムシティ」的です。そういう意味で、都心(業務地区)/オフィスビルの関係と郊外(住宅地)/住宅の関係はある程度、相似的であると思います。
ところが建築家(←この言葉についてはいずれ紙面を変えて書きたいと思っています。)や社会学者による郊外の住宅地に関する仕事(建築物、論評など)は多くみられる一方で、都心のオフィス街についての仕事は巡り会うことが少ないように思います。建築家がオリジナリティ溢れるアイディアをもって住宅を設計し、郊外の住宅地の在り方に再考を促すような作品はこれまでにも幾つもあります。少し前になりますが、東浩樹氏と北田暁大氏の「東京から考える―格差・郊外・ナショナリズム」(NHKブックス)という本では、東京郊外の住宅地が様々な切り口で解釈され、非常に興味深い内容でした。
1-1. 都心/オフィスビル (3)
それらの建物の用途は何でしょうか?私が眺めていたエリアは中央区。いわゆる「オフィス街」あるいは「業務地区」と言われているエリアなので、概ね「オフィスビル」と呼ばれている建物です。大雑把に全体像を描くとすれば、大通りに面したビルは敷地の区画が大きいので建物の平面も大きく、1階にはコンビニなどの商店かあるいはファミレスなどの飲食店が入っていることが多く、2階以上がオフィスとなっています。一方で大通りから1本内側に入ったビルは敷地の区画が小さくなって、1階にはよりこじんまりとした商店や、あるいはエントランス空間と管理人室やゴミ置場、駐車・駐輪場といったバックスペースのみで占められていたりします。その上には同様にオフィス。
このように大まかに描写できるようなある種の画一性、あるいはタイポロジー(類型・形式)が見いだせます。私が遊んでいたシムシティの建物群は、発展の段階が同じであれば同じグラフィックが繰り返されるものでした。私が超高層ビルの上で抱いた「シムシティ」的光景は、まさにこの同じオフィスのタイポロジーの繰り返しだと言って良いかと思います。
オフィスビル徒然 (2)
ここで書くまでもないかもしれませんが、「シムシティ」とはビデオゲームで、自らが市長となって街をつくっていくというシュミレーションゲームです。現在ではいくつもシリーズが出て複雑化しているようですが、私が遊んでいた当時は20年くらい前ですのでとてもシンプルで、建てられる一般的な建物は主に「住宅地」「商業地」「工業地」という3種類に分かれていました。都市が発展していくということは、即ち各々のエリアの建物が巨大化していくということでした。例えば住宅地であれば、戸建ての住宅街であったものが、高層マンションに変化していくというように。(その他、特殊な建築物として、警察署や消防署、スタジアムなどがありました。)ゲームをうまく進める戦略は、シンプルなグリッド状の街区に上述の3つのエリアをきちんと分けて街づくりを進めていくということでした。住宅地のすぐ横に工業地があると、公害で住民が悩まされてしまうでしょう、という話です。
プレイしているその画面上の街は、鳥瞰的に(正確にいえば、アクソノメトリック)描かれています。聖路加タワーから見下ろした画一的なグリッド状の街区の上に並ぶキュービックな建物は、まさに「シムシティ」的光景を見ているようでした。
1-1. 都心/オフィスビル (1)
1.イントロダクション
トゥループロパティマネジメント株式会社は、中央区の聖路加タワー40階に社を構えています。都内の超高層ビル(*)は60年代以降に開発された西新宿が最たる例ですが、複数の超高層ビルは群がるように建っていることが多いので、方角によっては隣りのビルしか見えないで、意外と景色が開けていなかったりします。一方でこの聖路加タワーの周辺には同じような超高層ビルは建っていませんので、月島や晴海を背にして、下町から山の手方面にかけて景色が一望できます。空気が澄んだ冬の日や雨上がりで大気中のチリが落ちている時には、遠くにはっきりと富士山を望むことが出来ますし、東京の街を赤く染めながら夕日が沈んでゆく様はとても美しいものです。そして足元に目を移すと、碁盤目状の道路に区切られた敷地の中で、四角い建物が規則正しく並んでいます。
その光景を初めて見たとき、私は「シムシティ」を思い出しました。
(*:超高層ビルの定義は厳密に決まっているわけではありませんが、通常、15階建て以上または100m以上の建築物を指します。)