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2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (4)
もう1点Jean Miélotが机に向かっている姿を描いた絵があります。
こちらの絵も同様に斜めの面に巻物状の紙をひっかけて作業をしている様子です。Jean Miélotが書いている紙の上には開かれた本がありますが、これは彼が写本をしているということを示しているものでしょう。先述の通り印刷技術がない時代ですから、本は全て写本によって製作されていたのですね。またこの机の場合には、机が建物の模造として作られていることも目を引きます。教会のインテリアなどにもみられますが、家具や室内装飾などが建築のミニチュアとして製作されることは当時にはよくあることだったので、その1つだと思われます。
室内の様子に目を移すと、床はフローリングのような細長い素材が張られ、壁際には腰くらいの高さの収納家具でしょうか。下段は開戸付きの収納になっており、中にも本が入っている様です。上部は本が開いて置ける様になっています。前回の絵もそうですが複数の本を同時に開けるようになっているのが、当時のオフィス環境の特徴と言っても良いでしょうか。
2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (3)
そこで家具としての[bureau]を少し考察してみたいと思います。
ラテン語源[burellum]という言葉は、中世に古いフランス語の[burel]や[bure]という言葉に転じたようです。そして現在も使われている[bureau]に変遷します。
その時代の実際の事務机は残ってはいませんが、少し下った15世紀後半の絵に描かれています。
描かれているのはJean Miélotという人で、現在のベルギー、当時はブルゴーニュ公国領で主に翻訳家として活動しました。当時は未だ印刷技術が発明されていませんので、本といえば[manuscript]と呼ばれる手書きのもので、テクストと共に多くの絵や装飾が描かれ、本自体も大変貴重な物として扱われて、彫金などで装飾されていました。
このような本を製作するための机[bureau]ということを前提にして考えると、Jean Miélotが向かっている机の形態が よく理解できます。現在の水平な面がある机ではなくて、その上に書くための面としての台が斜めに傾くように据え付け られています。その斜め面にはいくつかの穴が空いてあり、ペンを差したりインクを入れたりす るのでしょう。ただ文字を書くだけならば現在のような水平面のある机で良いのでしょうが、絵を描くようなものなの でイーゼルに近いつくりになっていたのでしょう。
2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (2)
ローマ帝国では4世紀前半にキリスト教が許容され、後半には国教化されましたが、そこでも[office]という言葉が見 受けられます。現在の日本語で「聖務日課」と呼ばれるもので、ラテン語で[Liturgia Horarium]または[Officium Divinum] と書かれます。依然として[office]は場所ではなく「事務」といった意味です。また、[divinum](divine)は「神から授 かった、神権の」という意味なので、[Office Divinum]はまさに「聖務日課」と訳せる言葉です。先の記事で「事務」 という言葉と仏教の関係を指摘しましたが、[office]とキリスト教にも近い関連性が見てとれるのは、興味深い事実で す。
さて英語では[office]という言葉は一般的ですが、もう1つ、[bureau]という言い方があります。[office]よりも公的 な機関を指す言葉として現在は使われています。音が随分違いますがこちらもラテン語源で[burellum]が転じて [bureau]となった様です。フランス語においては[bureau]という言葉がまさに事務所をさす言葉としてあり、[office] という言葉はフランス語の語彙にはありません。フランス語において興味深いのは[bureau]という言葉が「事務所」と 共に「事務机」をさす言葉として使われているところです。つまり言葉の変遷として、「地位」や「仕事」を指す言葉か ら意味が転じて「場所」や「家具」を指す言葉になったということが考えられます。
2-2. オフィスのルーツ・西洋編 (1)
前回は日本の事務所のルーツを辿ってみましたが、同様に西洋の歴史の中でも検証してみてみたいと思います。 [office]の語源を辿ってみると、[opus(仕事)]+[fice(facere=する)]というラテン語の組合せとして構成されています。 古代ローマでは既に[officium]という「サービス、儀式、義務」を意味する言葉が成立していたということで、現代の [office]という言葉の由来は2000年以上前、紀元前後に求めてもよさそうです。その際には現在のように場所を示す言 葉ではなくて地位を意味していたようで、例えばローマ後期やビザンチン帝国時代に下って役人のトップが[Magister Officium] (Master of Offices)と呼ばれていたということからも分かります。(現在の地位で言えば、省庁の事務次 官といったところでしょうか。)現在の英語にすれば、[office]というよりも[officer]という人を指す言葉です。 [Officium]が働く場所としての[office]が出てくるのは、もう少し時代を下ることになります。
2-1. オフィスのルーツ・日本編 (5)
「武士の家計簿」は江戸後期の加賀藩の御算用者、即ち会計事務の専門家であった猪山家の家計簿についての話です。映画はストーリーとして構成されていましたが、実際の原作の本は猪山家の家計簿を資料としたれっきとした歴史研究の書物で、当時の下級武士の生活を家計の視点からとてもよく描かれています。
さて御算用者は藩の財政を担う部署とのことでしたが、加賀藩についてはさらに農地の管理などより幅広く行政に関わっていたようで、100万石の加賀藩に150名程度の御算用者がいたようです。その仕事ぶりは映画のワンシーンとしても描かれています。
ちょっとした広間にところ狭しと長机を並べて、その上には硯と算盤、それに帳簿の様な書類があります。これをオフィス環境として考えてみると、正座での業務はかなり厳しそうです。とはいえ、当時は照明がないこともあって勤務時間は日中に限られているので、労働時間そのものは現在のそれに比べるとずいぶんと短かったようです。