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3-2. フランクロイドライト (4)

ライトはこのようなlily padの構造をGreat Workroomだけでなく建物全体に対して適用しています。Great Workroomではこのlily padは1つしか見えませんが、複数階にわたってこの構造を採用しているので、上下の継ぎ目(ジョイント)の力の伝達が問題となってきます。普通に葉の平面に柱を落としてしまうとピン(点)で結合することとなるため、とても不安定です。そこでライトは、柱を空洞にして葉に到る手前で広がる様な形状にし、上部構造の柱を差し込む構造体としました。そうすることである程度、剛(堅い)結合に近づけることができています。

図3-2-5:Structure

図3-2-5:Structure

ライトはこのような構造体のヒントをサボテンから得たという事です。サボテンのどこからヒントを得たのかは定かではないのですが、恐らく内側が水分たっぷりでスカスカなのに対して、外側が堅いということからでしょうか。ライトの建築は度々、有機的建築と言われます。それは落水荘のように自然を取り込み、調和するという意味もあるでしょうし、もう一方では自然の中にある事物からヒントを得ながらデザインをするということもあるかと思います。

3-2. フランクロイドライト (3)

図3-2-4:Great Workroom

図3-2-4:Great Workroom

サリヴァンの稿で見てきたオフィス空間と大きく違うのは、サリヴァンのオフィスでは建物全体を個室に分割していたのに対して、このジョンソンワックス本社では1つの大きな空間としてまとめていることです。会社側の要求は今となっては知る良しもありませんが、このようなオープンな大空間の中で執務するスタイルを取っているオフィスとしてはかなり早いものだったと思われます。ただ、2-3でみた19世紀中頃のアンリ・ラブルーストの図書館のように、大空間の中に机を並べて勉強するような空間が出てきていたので、それを例として参照してこのGreat Workroomの構想に到ったのかもしれません。
ラブルーストの図書館も同じですが、このような大空間を窮屈でなく、大らかな空間にまとめあげるためには、その大空間の屋根を支える架構が鍵を握ります。ラブルーストの例で言えば、それを当時最先端の鋳鉄の柱で繊細で包み込む様な空間を実現していました。ライトの柱は鉄筋コンクリート製のものですが一般的な工法のものではなく、鉄の金網で丸柱を補強したので根元で直径23cmという細さを実現できました。このような工法は当時の基準に沿っていなかったので当局から載荷試験を求められ、試験の結果、基準の5倍の強度があるということで建設が認められたという経緯もあります。

3-2. フランクロイドライト (2)

図3-2-2:ジョンソン・ワックス社外観

図3-2-2:ジョンソン・ワックス社外観

ジョンソン・ワックス社本社及び事務所棟は1936年に竣工した建物なので、ライト自身は69歳、キャリアの後半での作品です。日本でもカビキラーなどの商品でお馴染みのジョンソン株式会社のアメリカ本社の建物です。

図3-2-3:Great Workroom

図3-2-3:Great Workroom

この建築の一番の見所は上の写真に集約されています。直径23cmの細い柱が上にいくに従って徐々に太くなり、天井間近では「蓮の葉」のように550cmまで広がって屋根を支えています。この柱はライト自身にもlily pad(蓮の葉)と呼ばれ、このオフィス空間の主調を成しています。蓮の葉の上部は、天井高6.5mの大空間に十分で均質な光をオフィス空間に届けるべく大々的にトップライトとされていますが、それがまた、光の中で蓮の葉が浮いている様に軽やかな空間を作っています。殆どの住宅では重心がとても低く設計されていますが、このオフィスについては蓮の葉の部分、つまり重い部分を上の方に置き、そこに十分な光を落とすことによって、水の中から水面を見上げる様な浮遊感を獲得しています。

3-2. フランクロイドライト (1)

3. 近代以降のオフィスビル

フランク・ロイド・ライト(Frank Lloyd Wright)は、ミース・ヴァン・デル・ローエ(Mies van der Rohe)とル・コルビュジェ(Le Corbusier)と並んで、近代建築の3大巨匠と言われることもあります。3人の中ではライトは一番年上で、1867年に生まれ、1959年に91歳で生涯を終えています。日本には旧帝国ホテル(明治村に移築)や山邑邸、自由学園などの作品を残しています。一般的にはカウフマン邸(落水荘)を始めとする住宅作品やニューヨーク・グッゲンハイム美術館などが代表作として知られています。

図3-2-1:カウフマン邸

図3-2-1:カウフマン邸

若い頃には前述のルイス・サリヴァンの事務所に所属し、ライトが事務所外で個人的に住宅設計の依頼を受けていたことが発覚して事務所を辞することになりましたが、サリヴァンのことを”Lieber Meister”(親愛なる師匠・ドイツ語)と尊敬していたという事です。サリヴァン事務所の住宅の仕事の殆どはライトの担当の作品でした。
そのライトの作品履歴を見てみると、独立してからも殆どが住宅作品ですが、数少ない非住宅作品の中で非常に興味深いオフィス建築があります。

4-1. エレベーター (5)

エレベーターの登場は高さに対する建築の概念を変えたと言えるでしょう。通りとの関係を考えると地上階は変わりませんが、それ以上の階に関しては以前は地上との相対的な距離で価値が決まっていたのに対して、エレベーターはそれらを全て同じものにしてしまいました。「基準階」という概念が成り立つのもエレベーターがあってのことです。むしろ、価値を逆転してしまったと言っても良いかも知れません。現代の高層マンションなどは眺望の良さを売りにして、上階の方が高い値がついているので。

図4-1-4:Wainwright Building Elevator

図4-1-4:Wainwright Building Elevator

概念上は革命的なエレベーターでしたが、とはいえ一方で技術的には当初からそう簡単だったわけではありません。19世紀末に開発されたばかりの頃は、非常に遅かったそうです。この前も例に挙げたWainwright Buildingですが、現在なら1〜2機で間に合わせても良さそうな規模の建物に対して、4機のエレベーターが設置されていたのはこの速度のためです。その後、少しでも速度が改善される度にこの建物ではエレベーターを入れ換えていたそうです。建物を設計していてエレベーターの打合せをすることがありますが、現在でもメーカーさんが非常に速度にこだわっているのはそういう履歴があったためでしょうか。