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4-1. エレベーター (1)
4. オフィスビルの部分
ここまでの連載ではイントロから始まって歴史の話を連続してきましたが、これからは週毎にトピックを横断して書いていきたいと思います。
オフィスビルという建築物は、オフィス空間以外の様々な部分によってオフィスビルという全体が成立しています。「4.オフィスビルの部分」では、その各部分にスポットを当てていきます。今回はエレベーターについてです。
最近「スペインで47階建て地上200mの超高層ビルにエレベーターを付け忘れる(!?)」というニュースが話題になりました。この建物は住宅だったようですが、当然、高層ビルにはエレベーターは無くてはならないものです。日本では各種指針や自治体の条例において用途を問わず5,6階以上の建物には設置が義務づけられています。また近年のバリアフリー対応の観点から、不特定多数の人が利用する様な建築物はもちろんのこと、集合住宅においても低層だとしても設置を推奨する方針が出されています。建築設計上は竪穴区画といって防災の観点からエレベーターや階段の階層を垂直に貫く穴は区画(壁などでその他の部分と分けられること)されますので、ビルを訪れたときなど一般の利用者は階段の姿を見ることはなく、エレベーターにすぐに乗って目的の階までいくという人が殆どではないでしょうか。
3-1. ルイス・サリヴァン (5)
1891年にミズーリ州セントルイスに建てられたWainwright BuildingはGuaranty Buildingと並んで初期のサリヴァンを代表する作品です。こちらの方が3年早く建築されています。プランはほぼ同じ形態ですが、立面の3層構成はこのWainwright Buildingの方がより強く出ているように見えます。実はこの「3層構成」[triepartie]は非常に古典的な立面の構成でもあります。ギリシア建築の基壇、柱部、頂部(軒蛇腹+ペディメント)といったファサードを想像すれば容易に想像できるかと思います。実はサリヴァンはこの3層構成を非常に重要視していて、高層ビルを設計する際にもこのファサードの構成を外しませんでした。その介もあって、高層ビルという新しい建築のプロポーションのあり方に対して、古代以来続く建築の構成のあり方を運用することによって、上手に安定感を与えていると言えると思います。
1893年にこちらもセントルイスに建てられました。この場合は敷地は南と東に接道しています。プランニングは他の2つと殆ど変わりませんが、敷地の方位に応じて基準階は相変わらず南に凹みをつくるようにしているので、通りに凹部が面するかたちになりました。通りに面してファサードをつくる、即ち壁を建てるということが古典的な都市建築の常套手段であったとすれば、この基準階への採光を重視したプランニングは相当な冒険です。これはサリヴァンの合理主義的な側面が全面に出てきていると言えるでしょう。
3-1. ルイス・サリヴァン (4)
メインエントランスから入って正面には4機のエレベーターが並んでいます。エレベーターについては稿を改めますが、19世紀後半に実用化されて建築の高層化を押し進めた原動力はエレベーターです。基本的な縦の動線はエレベーターが担っていたことでしょう。(但し、当時のエレベーターの速度は極端に遅かったようで、速度の改良に伴い度々、エレベーターを入れ換えたようです。)エレベーターの脇には階段が据えられています。
基準階のプランは中廊下型の動線を取った、南に対して開いているU字型です。当時、電灯がどの程度普及していたかは分かりませんが、恐らく自然光での採光を前提としているため、南側に凹みを作るかたちで採光を満足させていたものと考えられます。この凹みは同時に地上階のトップライトによる採光も兼ねています。
プランを見れば構造のスパンが見て取れます。凹み側ではそれをそのままを開口部の幅寸法としているのに対して、通り側の立面は構造スパンを2つに割った寸法を基準としていることが分かります。「形態は機能に従う」を鵜呑みにするのならば、この点に関して言えば矛盾とも言える対応です。やはり格言は格言としてあるのであって、それを原理主義的に運用するのではなく、立面全体のバランスをみて対応しているということは、サリヴァンの柔軟性を示しているのではないでしょうか。もし構造スパンでファサードを作ってしまうと、大味になってつまらないものとなっていたでしょう。ここには技術的な合理だけでは説明できない、建築に内在する構成やスケール/プロポーションという問題が一方にあるのです。
3-1. ルイス・サリヴァン (3)
「形態は機能に従う」を「機能さえあれば一義的に形態が決まる」と考える訳にはいけません。例えば外観で使用されているテラコッタタイルには、細かい装飾が施されておりこれは機能から説明しようとしても出来ません。また低層部と中層部のタイルを入れ換えたところで、彼の格言から外れるということでもありません。つまり、先述しましたが、この言葉を考える上では、その時代の雰囲気というか、文脈を考慮に入れることは不可欠です。現代的な我々の感覚で言葉尻を捉えてしまうと、彼の言わんとしたところを取りこぼしてしまいます。
上図の左が地上階、右が基準階の平面図です。この図で下方向が概ね北向きの方位となっています。つまり北と東に通りと面する角地で、北側がメインエントランスとなっています。地上階には通りに面して商業用途が入り、メインエントランスからは独立した入口が取られています。南西の角は奥まってしまいますが、南東方向からの細長いテナントとして、その真中あたりにはトップライトを開けることで奥まったテナントにも自然光を供するものとしています。
3-1. ルイス・サリヴァン (2)
ルイス・サリヴァンの言う「形態は機能に従う」とはどのようなことだったのでしょうか。このGuaranty Buildingは彼のこの格言を説明するのによく使われている建物です。外観を見てみると高さ方向に大きく3つの部分に分かれていることがわかります。1,2階の低層部にはオフィスのエントランスと通りに面した商業用途が入り、高い階高と大きな開口部が取られています。小さな庇で分節されている3階以上はオフィスビルが入り、鉄骨の架構の半分に合わせたピッチで開口部が取られています。また外装材のテラコッタタイルのデザインも低層部とは異なっています。最上部はエレベーターのオーバーヘッドを含めた階となるので、窓は中層部と同様に四角いものの、額縁の上部をアーチにし、更にその上には円形の開口部があります。このように内部の用途(機能)に合わせて外観(形態)も相応に対応していく、ということがサリヴァンの「形態は機能に従う」ということです。
現代的な感覚で考えてしまうと大したことは言っていない様ですが、少し前の新古典主義の時代を考えるとかなり先進的な発想だったと言っても良いでしょう。同時代の欧州ではアール・ヌーボーが興り始めたばかりであることを考えると、いち早く合理主義的な建築観が芽生えていたと考えても良さそうです。