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5-1. ガラス (4)
現在でもそうですが、ガラスは100%透明であるというわけではありません。窓のガラスに目を近づけてガラス面を見れば、うっすらと色が見えるのもわかるかと思います。鋳造法で作られたガラスはどうしても分厚く、建物に使われていましたが十分な光を通せていなかったようです。
鋳造法とともに、古代ローマ時代には吹きガラスによる製法が発明されました。当初は鋳造法と同様に型の中でガラスを吹くことで型の形を得ていたものが、空中で吹くことによって丸くて薄いガラスを作る宙吹きの技法も開発されました。現在でも吹きガラスとして知られているものです。

図5-1-3:吹きガラス
この技法によって容器の様な球形をしたガラスは製作できる様になりましたが、この薄いガラスが建築に使えるように板状のものにするのには、更に時代を下って4〜7世紀まで待ちます。クラウン法と言われるその方法は、上述の吹きガラスをつくった状態からそこに穴をあけ、竿をグルグル回すことによって遠心力で円形に広がるものでした。このようにして薄くて板状のガラスができ、建物内により光をもたらしました。クラウン法で作られたガラスを組み合わせたものはロンデル窓と呼ばれ、独特の風合いをもった窓として現在でも年代物はプレミアがついてオークションなどで売買されています。

図5-1-4:ロンデル窓
5-1. ガラス (3)
一部の伝統工芸を除いて現在はほぼ機械化されているガラスの製造ですが、それはほんの最近、20世紀に入ってからのことで、歴史の大半は手仕事によるものです。ガラスの製造には高熱で溶かすことを必要としましたが、石炭や石炭のなかった近代以前では、木を燃やすことで熱を得ていましたので、ガラス工場は森林を消費しながら移動していたそうです。
エジプトやメソポタミアから数千年時代を下って、古代ローマ時代には建物にガラスを使い始めたようで、ポンペイの遺跡「フォルムの大浴場」の天窓に使われた記録があるようです。重々しい石の組積造の建物に光をもたらすガラスの効果は当時としては相当、画期的だったと想像できます。窓を開ければ風と光が通っていたものが、風を通さずに光だけを通すガラスは環境を制御する装置として、窓の役割が大きく変わったと言えるでしょう。その当時は砂型に溶けたガラスを流し込んで、自然に冷やすのを待つという原始的な製法のものでした。鋳型を作って流し込むので鋳造法と呼ばれているものです。
5-1. ガラス (2)
そもそもガラスと呼んでいる物体は何を指すのでしょうか。必ずしも透明で堅いものというわけではありません。化学的に1つの厳密な定義を与えるのは難しいようで、物質のある状態を指していたり、特定の物質の種類を指していることがあるようです。物質のある状態というのは、原子レベルの話になりますが、アモルファスとも言われる非晶質固体のことで、結晶のように並進的な長距離の秩序は持たないものの、短距離秩序がある状態ということです。天然に存在する鉱物の大半が非晶質ということで、ガラスも元はと言えば自然のなかで見つけられたものでした。もう一方の物質の種類ということであれば、ケイ酸塩を主成分とする物質を指し、それ以外を主成分とする場合にはその物質を指して○○ガラスと呼ぶことがあるようです。
歴史的にはガラスは建築物が使われるはるか以前から、人類に利用されてきました。火山から噴火した溶岩がガラス質状に固まった黒曜石が矢じりや石包丁として、天然ガラスは石器時代から活用されています。人がガラスを製造する様になったのは紀元前4000年、エジプトやメソポタミア文明でガラスのビーズがつくられていたという記録があるようです。

図5-1-2:メソポタミアのガラス容器
5-1. ガラス (1)
5. オフィスビルの素材
オフィスビルに限ったことではありませんが、言うまでもなく建物は様々な素材でできています。本章では建物に使われている各素材にスポットを当てて、オフィスビルを考察してみたいと思います。
そこでまず、本稿では「ガラス」について書きたいと思います。現代において一般建築はもちろんですが、特にオフィスビルにおいては、ガラスはなくてはならない素材です。建物内に多くの光を取り込み、開放的な空間を実現するために、外壁をガラス張りのカーテンウォールとするのは現代のオフィスビルのクリシェとなっていますし、先のミースの稿で紹介したシーグラム・ビルディングのようにモダニズムの建築を象徴する1つのイコンとなっているといっても過言ではありません。その一方で環境問題、特にCO2排出削減が世界的なテーマとなっている今日では、冷暖房など空調設備との兼合いの中で熱負荷の問題に一番晒されており、Low-eガラスや複層ガラスといった技術革新が現在進行形で進んでいる素材でもあります。

図5-1-1:シーグラム・ビルディング
今回も歴史の流れの中で建築の中でガラスがどのように扱われてきたかを追いたいと思います。
3-3. ミース・ファン・デル・ローエ (5)
先述の通り、この「ユニバーサル・スペース」はコンセプトとしては理解できますが、用途によっては無理があることもありました。その中で一番このコンセプトが嵌まった用途がオフィスビルだと言えるでしょう。

図3-3-6:シーグラム・ビル
1958年にニューヨークに竣工したこのシーグラム・ビルは、ミースが設計した数少ないオフィスビルの1つです。敷地の前面に対して大きな公開空地を設け、鉄とガラスでシンプルな直方体の建物ボリュームとしています。コアとなる部分にエレベーターと階段といった縦動線及び水廻りを集中して、外周周りは建築的には間仕切りのないオフィスをレイアウトしています。

図3-3-7:シーグラムビル内観
この内観写真を見て、現代的な感覚でいって全く違和感がないかと思いますが、まさにこの空間性がこのときから脈々と現代まで続いているからです。違った言い方をすれば、ミースによって既にオフィス空間の原型は完成されてしまったと言えるでしょう。僕のような現代の建築家は、この50年以上前に完成された空間を下敷きに設計をしているのですが、今後はそれを超えていくことが大きな課題でしょう。