新着情報

5-1. ガラス (9)

熱によるガラスの破壊を防ぐには、熱膨張を抑えるか熱伝導を良くするかということになりますが、ガラスの性質上、熱伝導を上げることは不可能なようです。一方で熱膨張を抑えることは、結晶化ガラスというものをガラス内に分散させることによって可能とのことです。ガラスは非晶質であるということを書きましたが、水が0℃〜4℃までは熱で膨張せずに収縮する(つまり水の体積は4℃が一番小さい)、といったことに近い物性をもった結晶化したガラスを混ぜることで耐熱性能を備えたガラスを実現しているとのことです。建物の延焼の恐れのある範囲にある開口部は火災時に火が廻るのを防ぐために「防火設備」とすること、という規定があるのですが、透明な開口部でその防火設備として求められる性能を満たすものがこの耐熱強化ガラスです。
同様な目的で網入りガラスが用いられることもあります。網入りガラスの場合、火災時にガラスは割れてしまうのですが、内包された金網によってガラスが金網から剥離しないので、火が廻るのを防ぐ役割を満たせるというわけです。

5-1. ガラス (8)

コップなども含めてガラスの大きな特徴は「割れる」ということです。「割れる」ということは、硬くて粘りがない物質が一瞬にその結びつきを失うということですが、その原因は外から強い衝撃を受けるか、急激に温度変化するかのどちらかです。日常生活の中でガラスが割れるといえば前者だと思います(グラスを落としたり)。後者は例えば、冷凍庫にグラスを入れておいて、熱湯を注いで割れるということです。物質は熱によって膨張収縮しますが、ガラスの場合、急に熱が加わった時に表面は膨張するけれども、それ以外の場所に熱がすぐに伝わらなくてそのままになってしますので、そのひずみで割れてしまうということです。これが建築物の場合、火災時にはガラスに急激に熱が加わることになりますので、熱膨張によって普通のガラスでは破壊されてしまいますが、火を廻らない様にする、あるいは割れて人に危害を加えない様にするためにも、熱に耐えられるガラスが場所によっては求められます。

5-1. ガラス (7)

基本的な製法はフロートガラスと同じですが、熱処理を加えて急冷することでガラスの表面に張力をかけて強化したガラスを強化ガラスと呼びます。フロートガラスの3〜4倍の強度が得られます。このガラスの場合、割れた時には普通のガラスの様に尖った危険な破片となるのではなくて、表面に張力がかかっているので細かいガラスの粒となります。つまりガラス自体が強化されていることに加えて破壊時の安全性も高いので、自動ドアや建物の地上階部分などに使用され、万が一、人がぶつかって割れたとしてもフロートガラスと比べて怪我のリスクが減らせます。併せてフィルムなどを貼ることによって、破壊時に粒が人に降ってこない様な工夫も一般的になされます。但し逆にいえば粉々になってしまうので、防犯性能という意味では劣ります。
防犯性能を期待する部位については、合わせガラスを利用します。これは1枚の板を複数枚のガラスを合わせて、間にフィルムを挟むことでつくられます。そのフィルムが破り難いので防犯性能が高いというものです。

5-1. ガラス (6)

このようにガラスの歴史は、濁ったガラスから透明に、小さなものから大きな板状のガラスに、そしてそれに伴う製法の発展によって語られます。さらに現在では透明なガラス1つをとっても、求められる性能に応じて様々な種類が開発されています。
特別な性能を求めない建物の一般部に使用するガラスは先述したフロートガラスです。ガラスは透明だというイメージがありますが、100%透明というわけではなく含有する金属によってよく見てみると若干、緑がかっています。日本のガラスメーカーのものは金属含有量が少ないので比較的透明ですが、東南アジアなど海外のものは金属が多く含まれて強く緑がかっているものも多く、それを利用して建物の意匠とする設計もよく見受けられます。

図5-1-5:香港のビル

図5-1-5:香港のビル

日本人の建築家は透明感にこだわっている人が多く、工事現場で実際にガラスを置いてみて、反射などの具合も含めてガラスの種類(フロートガラスでも成分によって見え方が少しずつ違うので)を決定することが度々あります。

5-1. ガラス (5)

現在、透明なガラスとして最も一般的に使われているものはフロートガラスと呼ばれているものです。その製法は1959年にイギリスのピルキントン社が開発したもので、溶かしたスズの上に溶かしたガラスを流し込んで成形するというものです。スズの比重がガラスの比重よりも重く、ガラスがスズの上に浮かぶのでフロートガラス(浮かぶガラス)という名前がついています。ガラスの上面は重力で自然にフラットに、下面も溶けたスズの面なので完全に平行でフラットな面が両面で得られ、透明なガラスが出来上がります。ガラスの厚みは張力と自重の関係で自然と6.8mmになるそうです。
今でも古い建物を訪れると木枠に歪んだ景色が見られることがありますが、それはロールアウト工法といわれるローラーで熱したガラスをならす製法でできたもので、どうしても凸凹ができてしまいます。それを磨いて仕上げたものが磨きガラスと呼ばれ、透明ですがどうしてもフロートガラスの透明感には及びません。とはいえ、現在でもその製法では防火、防犯用途の網入りガラスや敢えて表面に模様を彫込んだ型板ガラスなどが製作されています。