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7-1. 熱環境 (9)
このようにエアコンディショニングをする場合にはその効率を考えると、『徒然草』で書かれていたように夏を旨とした建築として開けっぴろげにする訳にはいきません。せっかく冷やした空気を逃がすことになってしまいます。どちらかと言えば、しっかりと熱をしっかりと閉じ込めるようにしなければなりません。その時の考え方が「断熱」です。
建物の内外を隔てる外周部は大雑把に床/外壁/屋根となり、外壁には一般壁以外に窓(屋根に天窓も有り得ますが…)があるでしょう。建物の断熱性能はそれぞれの外周部の素材の熱伝導率とその厚み、表面積などで決定されます。どのような素材であっても内外を隔てる厚みが大きければそれだけ熱伝導が小さくなります。また、そもそも熱伝導が低い素材であれば、厚みが薄くたって断熱性能は高くなります。よく使われる素材としてはスタイロフォームや発泡ウレタンフォームがありますが、これは乾燥空気の熱伝導率が極めて低い(0.0241W/m・K)ので、中身が詰まっている素材よりも発泡性の素材の方が結果として熱伝導率が低くなるためです。

図7-1-3:スタイロフォーム

図7-1-4:発泡ウレタンフォーム
また、例えばラジエターは装置の表面積を大きくすることによって熱交換の効率を上げていますが、逆に建物の表面積を少なくすれば、当然、全体の断熱性能もあがることになります。

図7-1-5:ラジエター
つまりあまり凹凸がない建物の方が断熱性能は良くなりますし、極論すれば球体は一定の体積に対して最も表面積が小さくなりますので断熱性能的には最も効率的な形態となります。この特性をうまく利用した建物が下図のLondon City Hallです。日射の関係で少し偏心していますが、建物の形態のベースは球体となっています。

図7-1-6:London City Hall
7-1. 熱環境 (8)
この物質の圧縮と膨張を利用して温度をコントロールするということが、エアコンの仕組みです。スプレーにおける圧縮されたガスをエアコンの場合は冷媒と呼びますが、室内機において冷媒を一気に膨張、即ち開放させることで室内に冷気を供給します。つまり開放された後の冷媒は気体となり熱(運動エネルギー)を備えた状態です。常に新しい圧縮した冷媒を外から入れるわけにもいきません。気体となっている冷媒は室外機内でコンプレッサーによって圧縮して温度の高い状態、即ち室内機と逆の作用をします。この冷媒をラジエターに通しファンを回すことで熱を室外機の外に排出します。このようにして液体に戻された冷媒を再び室内機に戻すというサイクルを繰り返して冷房を実現します。
また現在のエアコンには除湿機能があります。これは気温が下がれば露点も下がる、つまり結露をさせることによって水分を回収するという仕組みです。上述の冷房のサイクルにおいて室内機で空気を冷やす際に、その空気の湿度は飽和状態になりますので、自ずと除湿もできてしまうわけです。
7-1. 熱環境 (7)
例えば20℃の気体があったとします。分子は自由に動いている状態です。その気体をグッと圧縮したらどうでしょうか?分子は自由に動けなくなりますので、運動エネルギーが小さくなります。エネルギー保存の法則という物理の法則があります。極端に簡単にいえば存在するものは無くならないということでもあるのですが、要するにこの場合には運動エネルギーが減った分は別のエネルギーの状態に変換されるのですが、それが熱エネルギーです。即ち気体の温度は20℃から上昇します。狭いところで激しく分子がぶつかっているところを想像すると、確かに熱くなりそうです。(走っている車にブレーキをかけると摩擦熱が発生しますが、これも運動エネルギーが熱エネルギーに遷移するあり方の1つですね。)
逆の場合の方はこのような体験をしたことはないでしょうか。ペンキや虫除けのスプレーには圧縮したガスが入っています。それを噴射すると容器が冷たくなっています。あれは圧縮したガスが一挙に膨張し、熱エネルギーが失われるため冷たくなるということです。
7-1. 熱環境 (6)
開発当初のエアコンが気化熱を利用したものであったというのは簡単に前述しました。現在利用しているエアコンの仕組みも気化熱は関係しています。一般的に業務用も家庭用も、エアコンには室内機と室内機があります。冷房運転の場合、簡単に言ってしまえば、室内の熱を室内機で吸収し(結果として冷風が出ています)、室外機でその熱を排出するというサイクルです。冷房時の室外機前の熱風を受ける不快さは誰もが経験していることですね。
高校時代の懐かしい物理学の話になりますが、物質には個体/液体/気体という三態があり、分子の状態によってそれぞれの態を遷移します。分子が自由に動いている状態が気体で、緩やかに関係している状態が液体、がっちり結びついている状態が個体というイメージを持てば良いでしょう。その状態と言うのは熱が関係しているというか、熱(あるいはエネルギーと言っても良いでしょうか。)の状態によってその三態が決定されます。例えば気体は分子が自由に動いている状態、即ち運動エネルギーが高い状態で、逆に個体は分子が動いていないので運動エネルギーが小さい、低いとイメージです。

図7-1-2:物質の三態
7-1. 熱環境 (5)
エアーコンディショニングの技術の始まりは18世紀あたりから、気化熱を利用したものでアルコールやアンモニアなどを気化させるものでした。20世紀初頭に温度とともに湿度も調整できる技術が開発されましたが、鉄などの他の技術と同様に、印刷工場の製造過程を改善するために設計されていました。その後、徐々に建築や自動車などの熱環境を調整するために普及していったようです。先の谷崎潤一郎の文章は1935年のものですから、発明から約30年後には日本の公共空間にも一部は登場していたようです。

図7-1-1:エアコン普及率
とは言え、実際にエアコンが一般家庭への普及が始まったのは1960年代に入ってからのようで、80年代にかけて約半数の世帯がエアコンを使用する程度のペースです。黒澤明の1963年の映画「天国と地獄」では、金持ち社長がエアコンを所有しており、それがある意味で富を象徴しており、それほど家庭には稀なものだったのでしょう。またその頃の映画の夏のシーンを見てみると、ネクタイをせずに開襟シャツを着ていることが多いです。現在では夏場のクールビズの動きが進んでいますが、そもそも夏までネクタイを着用するのは冷房装置の普及がしていった60年代以降ということで、その時分にはエアコンがかなりオフィスの風景を変えたものだと思われます。