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5-1. ガラス (7)

基本的な製法はフロートガラスと同じですが、熱処理を加えて急冷することでガラスの表面に張力をかけて強化したガラスを強化ガラスと呼びます。フロートガラスの3〜4倍の強度が得られます。このガラスの場合、割れた時には普通のガラスの様に尖った危険な破片となるのではなくて、表面に張力がかかっているので細かいガラスの粒となります。つまりガラス自体が強化されていることに加えて破壊時の安全性も高いので、自動ドアや建物の地上階部分などに使用され、万が一、人がぶつかって割れたとしてもフロートガラスと比べて怪我のリスクが減らせます。併せてフィルムなどを貼ることによって、破壊時に粒が人に降ってこない様な工夫も一般的になされます。但し逆にいえば粉々になってしまうので、防犯性能という意味では劣ります。
防犯性能を期待する部位については、合わせガラスを利用します。これは1枚の板を複数枚のガラスを合わせて、間にフィルムを挟むことでつくられます。そのフィルムが破り難いので防犯性能が高いというものです。

5-1. ガラス (6)

このようにガラスの歴史は、濁ったガラスから透明に、小さなものから大きな板状のガラスに、そしてそれに伴う製法の発展によって語られます。さらに現在では透明なガラス1つをとっても、求められる性能に応じて様々な種類が開発されています。
特別な性能を求めない建物の一般部に使用するガラスは先述したフロートガラスです。ガラスは透明だというイメージがありますが、100%透明というわけではなく含有する金属によってよく見てみると若干、緑がかっています。日本のガラスメーカーのものは金属含有量が少ないので比較的透明ですが、東南アジアなど海外のものは金属が多く含まれて強く緑がかっているものも多く、それを利用して建物の意匠とする設計もよく見受けられます。

図5-1-5:香港のビル

図5-1-5:香港のビル

日本人の建築家は透明感にこだわっている人が多く、工事現場で実際にガラスを置いてみて、反射などの具合も含めてガラスの種類(フロートガラスでも成分によって見え方が少しずつ違うので)を決定することが度々あります。

5-1. ガラス (5)

現在、透明なガラスとして最も一般的に使われているものはフロートガラスと呼ばれているものです。その製法は1959年にイギリスのピルキントン社が開発したもので、溶かしたスズの上に溶かしたガラスを流し込んで成形するというものです。スズの比重がガラスの比重よりも重く、ガラスがスズの上に浮かぶのでフロートガラス(浮かぶガラス)という名前がついています。ガラスの上面は重力で自然にフラットに、下面も溶けたスズの面なので完全に平行でフラットな面が両面で得られ、透明なガラスが出来上がります。ガラスの厚みは張力と自重の関係で自然と6.8mmになるそうです。
今でも古い建物を訪れると木枠に歪んだ景色が見られることがありますが、それはロールアウト工法といわれるローラーで熱したガラスをならす製法でできたもので、どうしても凸凹ができてしまいます。それを磨いて仕上げたものが磨きガラスと呼ばれ、透明ですがどうしてもフロートガラスの透明感には及びません。とはいえ、現在でもその製法では防火、防犯用途の網入りガラスや敢えて表面に模様を彫込んだ型板ガラスなどが製作されています。

5-1. ガラス (4)

現在でもそうですが、ガラスは100%透明であるというわけではありません。窓のガラスに目を近づけてガラス面を見れば、うっすらと色が見えるのもわかるかと思います。鋳造法で作られたガラスはどうしても分厚く、建物に使われていましたが十分な光を通せていなかったようです。
鋳造法とともに、古代ローマ時代には吹きガラスによる製法が発明されました。当初は鋳造法と同様に型の中でガラスを吹くことで型の形を得ていたものが、空中で吹くことによって丸くて薄いガラスを作る宙吹きの技法も開発されました。現在でも吹きガラスとして知られているものです。

図5-1-3:吹きガラス

図5-1-3:吹きガラス

この技法によって容器の様な球形をしたガラスは製作できる様になりましたが、この薄いガラスが建築に使えるように板状のものにするのには、更に時代を下って4〜7世紀まで待ちます。クラウン法と言われるその方法は、上述の吹きガラスをつくった状態からそこに穴をあけ、竿をグルグル回すことによって遠心力で円形に広がるものでした。このようにして薄くて板状のガラスができ、建物内により光をもたらしました。クラウン法で作られたガラスを組み合わせたものはロンデル窓と呼ばれ、独特の風合いをもった窓として現在でも年代物はプレミアがついてオークションなどで売買されています。

図5-1-4:ロンデル窓

図5-1-4:ロンデル窓

5-1. ガラス (3)

一部の伝統工芸を除いて現在はほぼ機械化されているガラスの製造ですが、それはほんの最近、20世紀に入ってからのことで、歴史の大半は手仕事によるものです。ガラスの製造には高熱で溶かすことを必要としましたが、石炭や石炭のなかった近代以前では、木を燃やすことで熱を得ていましたので、ガラス工場は森林を消費しながら移動していたそうです。
エジプトやメソポタミアから数千年時代を下って、古代ローマ時代には建物にガラスを使い始めたようで、ポンペイの遺跡「フォルムの大浴場」の天窓に使われた記録があるようです。重々しい石の組積造の建物に光をもたらすガラスの効果は当時としては相当、画期的だったと想像できます。窓を開ければ風と光が通っていたものが、風を通さずに光だけを通すガラスは環境を制御する装置として、窓の役割が大きく変わったと言えるでしょう。その当時は砂型に溶けたガラスを流し込んで、自然に冷やすのを待つという原始的な製法のものでした。鋳型を作って流し込むので鋳造法と呼ばれているものです。