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6-1. 机 (7)
この原稿を書いているのもそうですし、この原稿が掲載されているものもいずれもコンピューター上でのことです。現在では書類の作成や管理は100%近くコンピューターによってなされていると言っても良いでしょう。いわばデスクワークの殆どは今やコンピューター無しでは出来ないということでしょうが、いつ頃からこのような傾向になったのでしょうか。
内閣府と総務庁による調査結果をグラフ化したものが、上掲の資料です。この調査は世帯ベースの調査なので、正確にオフィスでどの程度使われていたかということは追えませんが、大雑把に状況を掴む意味では良い資料だと思います。パソコンの普及率が80年代まで10%台前後が続いていたのは、一部の専門家のみの利用だったと考えられますが、90年代後半になると右肩上がりのカーブで急激に普及しています。思い返せば、95年にwindows95が発売されて、ニュースでも大々的に取り上げられました。私事ですが、特にコンピューターとの関わりも、ましてや触ったこともない我が家にIBMのパソコンが届いたのも、ちょうどその頃でした。
6-1. 机 (6)
このようにアール・デコにおいて机の意匠のラディカルな転換があったその後、デザインの潮流としてはモダニズムやポスト・モダニズムといった時代が続きます。その当時の権力者の趣味を反映していた意匠をつくっていた時代からは変わって、建築家が自らの建築に置くための、建築観を反映したデザインの机をデザインしている例が見られます。
1つの極端な例がデ・ステイルというオランダの運動を推進したG・T・リートフェルトのこの机です。この運動はモンドリアンやテオ・ファン・ドゥースブルフといったメンバーとともに、水平と垂直といった限定された要素によって作品を構成するというある種の抽象主義を進めたものでした。
上のリートフェルトの机も幾何学的には長方形と円といった要素、色も白黒のほか三原色(赤・黄・青)で構成したものです。机とともに椅子も同様にデザインされ、更には建築物としてシュレーダー邸という住宅が設計されています。
このように建築の中で家具が位置づけられ、建築家の概念を強く表象するようになりました。その一方で、我々が現在使用している机は別物のようにも思えます。
6-1. 机 (5)
20世紀に入ると建築や室内装飾の世界にアール・デコ[Art Deco]という様式が登場します。最も流行ったのは1920年代で、それまでのアール・ヌーボーから打って変わって、工業製品が世の中に多く出回るようになり、それに刺激を受けて、幾何学をモチーフにデザインが構成されています。日本でも旧浅香宮邸(現・東京都庭園美術館)がアール・デコの秀作として有名です。
私見ではありますが、机に関して言えばこのアール・デコは机のあり方をラディカルに突き詰めている意匠が多くみられると考えています。というのは、それまでは装飾で様々な様式を実現してきたものの、アール・デコという円や四角といった単純な幾何学な組合せで、机という小さなオブジェを構成するには違った思考が必要だからです。それまでは気が付かないうちに繰り返していた当たり前な構成を、幾何学の組合せで再構成することに成功しています。それらは即ち、机は足が4本、あるいは両側で支えられなくても良いということや左右非対称であっても構わないということ、あるいは平面的に四角くなくても構わないということです。
6-1. 机 (4)
フランスではルイ16世の治世にフランス革命が起こった後も、共和制や帝政、王政復古など政治体制が安定せず、コロコロと時代が変わりました。机の様式もそれに伴って、帝政様式、ルイ・フィリップ様式、第三帝政様式などと様々な意匠がなされていましたが、趣向が変化していっただけでラディカルな変化というものはあまり見られません。
言うなれば意匠の遊戯とでも言える状況のクライマックスが、アール・ヌーボーの机と言ってもよいように思えます。
アール・ヌーボー[art nouveau=新しい芸術]では、昆虫や植物など自然界にあるモノをモチーフに建築や家具などを自由に構成しました。それまでは王室や皇帝のための机だったものから、共和制の時代となっていたので、クライアントはどちらかと言えば金持ちの民間人だったでしょう。そのため様式というよりは、作家個人の想像力を自由に働かすことが出来たため、このような造形も可能になったのでしょう。しかし、この場合においても机の本質、即ち平たい天板があるという点は担保しつつ、足の部分や収納の意匠を操作するということで、それまでの机とは大きくは変わりません。
6-1. 机 (3)
フランスに関していえば、その後の机の変遷は主に権力者の趣向の変遷と言ってもよく、原則的な部分では大きな変化はありませんが、装飾的に様々な変化を遂げています。
ルイ15世様式の机はその前の重厚な机から軽やかな印象になっています。これは当時のロココ趣味が反映されていて、足が美しい弧を描いています。また突き板の技術もこの頃には完成しているようで、表面材を様々な方向に貼り分ける意匠ということもできるようになっています。上の写真では見られませんが、象嵌の技術も16世紀から次第に発展してきて、この時代の家具の装飾の特徴を作っています。
この時代になるとロココ趣味も終って、新古典主義に変わってきています。大きくは足の部分と天板+引出しの部分に分節されて、直線的で装飾が少ないものになっています。足は地面に着く方向に向かって細くなっているのは、力学的にも理に適っていて、かつ軽快な印象をつくっています。