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オフィスビル経営の基本Ⅱ 経営者としての心構え⑧

2.具体的な競合物件を選ぶ基準

満室になるレベルを把握したら、次は具体的に自分のビルと競合する他物件の調査です。とはいえ、首都圏には数え切れないほどのオフィスビルがあり、これを「自分のビルと同規模」という切り口だけで分類するのでは、見て回るのに何年もかかることになります。
そこで、まずは競合する物件を選ぶ必要があります。以下、競合物件を選定する基準をご説明いたします。

①地域
企業がオフィスを探す場合のエリアは意外と流動的で、都心エリア全域が競合になり得ますが比較のためにはある程度絞りこむ必要があります。自ビルの最寄り駅と同じ沿線の2~3駅。複数路線の利用が可能であれば当然、それらの周辺駅も含まれます。3キロ~5キロ圏くらいが目安でしょう。
②面積
仮に自ビルの基準階が50坪として、50坪のビルだけが競合とは限りません。企業が50坪のビルを探しているケースでも背景は様々で、必ずしもジャスト50坪という意味ではありません。自ビルを基準に上下に幅をもたせた範囲で選びましょう。
③築年数
ビルの劣化の度合いは、管理、メンテナンス、修繕工事の程度により差が出るので、実際の数字だけではわかりません。そのため面積同様、幅をもって選ぶ必要があります。自ビルが築10年としたら、築5年~築20年程度でしょうか。自ビルのメンテナンスに自信があれば、もう少し築浅のビルを加えてもいいでしょう。
④グレード
ビルの共用部分、設備などのグレードです。自ビルのレベルを10として多少低めの7~8から15くらいが範囲内ですが同じレベルか、それ以上のレベルのビルを対象にするのが理想です。これはビル経営にとってテナント審査にも通じる重要な意味があります。レベルの高いビルを競合とすることで、自分のビルにも優良企業に入居してもらうための努力をします。芳しくない企業の入居という事態を招かないためにも、グレードによる選定をしっかりしましょう。

オフィスビル経営の基本Ⅱ 経営者としての心構え⑦

STEP3.市場調査

ステップ2にて自分のビルの価値を客観的に評価し終えたら、次は、自分のビルが実際の市場でどのような位置にあるのかを分析するための市場調査を行いましょう。

1.満室になるレベルを把握する

市場調査で最も大切なことは、テナントのニーズを把握することです。オフィスビルの場合、どのようなビルであれば満室になるのか、を知っておく必要があります。

ここでポイントになるのは、市場調査と称してレベルの低いビルだけを調査しても百害あって一利も無いということです。
テナントさんはオフィスビルを決めるとき、多くの候補を実際に見に行きます。そして選ばれるのはそのなかで1番のビルだけです。駄目なビルの基準に合わせていてはいつまでも満室にはなりません。

そこで、景況に関係なく、一定の成績を収めていることが多い大手4社のビルで、自分のビルと規模が同程度のビルを基準にして、満室になるオフィスビルの基準をまず把握しておきましょう。大手4社とは、三井不動産、三菱地所、住友不動産、森ビルを指します。
これら大手不動産会社には長年にわたる実績に裏打ちされたノウハウの積み重ねがあります。中小オフィスビルの場合ですと、過去10年~20年の間に造られたビルで、10~20階、1フロア300坪以下の中高層ビルを規模の小さいものから10棟ほど、先ほどの物件調査書に結果を埋めながら見て歩きましょう。
これにより、たとえ自分のビルの近くに優れたビルが無かった場合でも、レベルの低いビルでよいと勘違いをする心配はなくなります。

7-2. 環境基準 (2)

このような建物に関する建築環境基準は日本国外でも違った形で普及しており、北米で一般的なLEED、フランスのHQE、英国を中心としてオランダ、スペイン、ドイツ、オーストリアなどで普及しているBREEMという環境基準があります。
LEEDやBREEMに関して筆者は門外漢なので詳述は避けますが、フランスのHQE(Haute Qualité Environnementale = 「高い環境品質」)の場合4つのカテゴリーに分けられた基準があり、それぞれの基準値を相応にクリアすればCASBEEと同様に認定機関によって建物に対する認定証が発給される仕組みです。その4つカテゴリーは「エコ・建設」「エコ・マネージメント」「快適さ」「健康」に分けられていて、それぞれに指標が設定されています。

「エコ・建設」
 C1:現在の建物と周辺環境の調和関係
 C2:建設プロセスと製品やシステムの関係
 C3:現場の環境負荷
「エコ・マネージメント」
 C4:エネルギー・マネージメント
 C5:水のマネージメント
 C6:廃棄物のマネージメント
 C7:メンテナンス・マネージメント
「快適さ」
 C8:温熱環境の快適さ
 C9:音環境の快適さ
 C10:視覚的な快適さ
 C11:嗅覚的な快適さ
「健康」
 C12:空間の衛生環境
 C13:空気の衛生環境
 C14:水の衛生環境

以上の14の指標の内、最低限7項目で「基本的なレベル」をクリアし、4項目で「効果的なレベル」、3項目で「非常に効果的なレベル」をクリアすることでHQEの認定が受けられます。

7-2. 環境基準 (1)

7. オフィスビルの環境

近年、CO2排出削減などの地球環境保全への関心の高まりを背景として、建築物の建設や運営に伴う環境負荷を総合的に評価しようという気運が高まっています。日本においては「CASBEE」という環境指標があり、「建築環境総合性能評価システム」と銘打っています。敷地境界などを仮想的な環境の境界と設定して、その内部の環境品質を[Q]としその外部への負荷を[L]としたときに、建築の環境性能を[Q/L]として位置づけて、それをS〜Cランクとして評価します。

図7-2-1:BEEに基づく環境ラベリング

図7-2-1:BEEに基づく環境ラベリング

境界の内外にはそれぞれの評価の指標が設定されていて、境界内ではQ1:室内環境、Q2:サービス性能、Q3敷地内の室外環境の3項目、境界外でL1:エネルギー、L2:資源・マテリアル、L3:敷地外の環境という3項目が設定されています。以上の項目の総合のQ/Lをみたときに、環境負荷[L]がより少なく、一方で敷地内、および建物内の環境[Q]が良ければ高評価になるという指標です。
またCASBEEは建物ごとに評価が与えられますが、その評価と認定は民間の建築確認申請機関が認定機関として行っています。

7-1. 熱環境 (12)

外壁周りの断熱の話はここで終わりではありません。開口部の周囲はガラスをサポートするサッシがありますが、断熱を語る上ではここは外せません。サッシには大きく、木サッシ、スチールサッシ、ステンレススチールサッシ、アルミサッシなどの素材が使われますが、それらは往々にして非常に高い熱伝導率です。
木の熱伝導率はそれほどでもありませんが、その場合には気密性能(空気をきちんと密閉できているか)がまちまちです。つまり断熱性能は悪くないのですが、空気を通し易いという意味で熱効率は劣ってしまいます。
上記のその他の素材の場合は熱伝導率が非常に高く、全体に対してそれほどの面積が無いように見えても断熱性能の点では大きく影響を与えるポイントです。(話が逸れますが、サッカーのゴールのポストとバーを合わせた面積がタタミ1畳分程度になるという話があります。幅が狭いように見えても長さがあるとそれなりの面積になるものです。)このように金属などを介して、局所的にでも大きく内外の熱を伝導してしまう箇所をヒートブリッジ(熱橋)と言います。
スチールやステンレススチールではあまり既製品にもなっていないですし、何の対応の術もなくそのままヒートブリッジになってしまいがちです。一方で殆どが既製品のアルミサッシでは外気側と室内側の部材を分けて、その間にゴム系の素材を挟み込むことで熱を伝えないようにした断熱サッシなど、サッシ部がヒートブリッジとならないような工夫が施されているものも開発されています。