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5-3. タイル (5)
現在のウズベキスタンのサマルカンドの中心にあるレギスタン広場は、イスラム的なタイルが大々的に使用された有名な例の1つです。広場には3つの神学校が面しており、それぞれがブルーを基調とした見事なタイルの装飾が建物の表面を覆っています。紺碧の空を背景としたこの建物が、周囲の殺伐とした砂漠の風景の中で聳えています。
キリスト教世界ではモザイクタイルを使用してイコンの表現をするので、自ずとその画題は一定の枠の中に納めることになります。つまりベースとなる建物の内側、天井のヴォールト部分や軒蛇腹部分など、主にインテリアの部分に対してモザイクタイルの表現が集中されます。一方でイスラム世界の場合は幾何学モチーフのために、そのモチーフを無限定に繰り返すことができるために、建物の部分にとらわれることなく建物の表面全体に広げることができます。そういったこともあり、インテリアを超えて外観までタイルが敷き詰められていると考えることも出来るでしょう。
5-3. タイル (4)
モザイクが強力な象徴作用を見事に活かしたのは初期キリスト教における教会建築です。現在でもイタリア、ラヴェンナに残る4世紀前後の教会建築のインテリアでは、ドーム型やヴォールト型の天井は細かいモザイクによって描かれたキリストのイコンやキリストにまつわる寓話によって覆われていて、外の世界とは全く違うキリスト教の宗教的世界を見事に象徴しています。当時の人々がその教会に入って、美しい光と色の世界に身を置けば、きっとキリストの奇跡を信じることは難しいことでは無かったでしょう。
その後、時代が下って中世ゴシック、ルネッサンスなどの時代では、西欧ではモザイクを初めとするタイルによる建築の装飾はあまりみられなくなるように思います。一方で中近東では8世紀頃にイスラム教が起こり、イスラム世界ではタイルを全面的に使用した建築が多く見受けられます。(キリスト教も本来はそうだった筈ですが…、)イスラム教では偶像崇拝が厳格に行われていたために、絵画やモザイクなどで人物像を表象することはありませんでしたが、その反動かどうかは分かりませんが、タイルを全面的に使用した色彩や幾何学の表現が好まれたようです。
5-3. タイル (3)
タイルの歴史を調べてみるとその始まりは諸説あるようですが、いずれの説も紀元前まで遡り、人類とタイルとは有史以来の付き合いだと言えるでしょう。
タイル以前に登場したのは日干し煉瓦で、メソポタミア文明において紀元前7000年頃に存在していたようです。現在でも中近東や北アフリカでは建材として度々使われています。土を固めて天日干しにしただけの日干し煉瓦から、その後タイルに近い、焼き固めた焼成煉瓦がみられます。
一方でタイルは紀元前2650年頃のエジプトのピラミッドに見られるようです。地下廊下に水色をしたタイルが貼られていたようですが、銅を含む砂漠の砂を原料としたタイルだったようです。紀元前7世紀のアッシリアでは様々な彩色が施されたタイルが発見されているようで、その頃には意図的にタイルに色を与える技術が発見されていたのだと思われます。
その後、西欧における文明では、古代ギリシアや古代ローマの遺跡で細かいモザイクタイルを使った建築装飾がみられます。床や天井を単なる面にするのではなく、人や動物を描いたモザイクは建築物の一部を別のものに象徴する作用があると解釈しも良いでしょう。
5-3. タイル (2)
本稿では広義の意味よりも狭義の素材の意味が加わったものとしての、いわゆる一般的なタイルについて稿を進めたいと思います。吹き付けタイルや屋根に使われる瓦も広義の意味ではタイルですが、オフィスビルに使われることは稀ですのでここでは扱いません。
さて、このタイルの素材は土を固めて焼成し成分が溶け固まって出来上がりますが、土の成分や焼成の温度によって、陶器質、せっ器質あるいは磁器質となります。煉瓦も土を固めて焼いたものですのである意味ではタイルに近い素材かも知れませんが、タイルとの違いは厚みのある煉瓦はそれを積み重ねることによって壁そのものを構成するので、モノを覆うという意味でのタイルではありません。煉瓦タイルというものがありますが、それは厚みをもたせずに壁に貼付けるものなのでタイルということ扱いになります。
何はともあれ、タイルは陶磁器の食器と同じ原理で作られます。つまり一般的にタイルに付けられている色はタイルを焼成する時に釉薬が化学反応を起こして出来るものです。現在では既製品のタイルは安定した色味を出していますが、古いものをみると1つ1つ微妙に違う色合いがあるのが分かります。
5-3. タイル (1)
5. オフィスビルの素材
現代のオフィスビルではタイルと呼ばれる素材は割合色々な場所で使われています。トイレなどの水廻りに使われるのはもちろん、外装に使われることもあります。また、エントランス空間で床や壁に大判のタイルが使われたり、共用部にPタイル、執務空間にタイルカーペットが床に敷かれたりします。一般的にはタイルと言えば、陶磁器質の薄っぺらい素材をタイルとして連想しますが、上述のように実は様々な素材に対してタイルという呼称が付いています。
そもそも英語でいうタイル[tile]というのは、フランス語の[tuile]から伝わった言葉で、元を辿ればラテン語の[tegula]という言葉とのことです。その元々の意味は「焼成粘土によって覆われた屋根」という意味で、それが転じて現在では、様々な形の薄いモノが規則的に表面を覆っている時にそのモノを広義に「タイル」と呼んでいます。つまりいわゆる陶磁器質の素材という意味でのタイルは狭義のタイルであって、広義には素材の縛りはありません。そういう意味でPタイル(=プラスチックタイル)やタイルカーペットという呼称が成立します。