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4-4. 床 (1)

4. オフィスビルの部分

これまで4章ではエレベーター、自動ドア、トイレを「オフィスビルの部分」として書いてきました。厳密なことを言えば、「部分」と位置づけたこれまでのタイトルは少しずつ「部分」としての水準が違います。基本的には「部分」と「全体」の関係はツリー構造を成していて、「部分」の集合がまた高次の「部分」をつくり…、という関係です。

図4-4-1:ツリー構造

図4-4-1:ツリー構造

トイレやエレベーターというのをどのような意味で捉えるかということにもよりますが、オフィスビル(あるいはより一般的に建築物)全体を室(あるいは部屋でも良いですが)の集合として捉えた時に、トイレという空間は便器が設置された、ただの1つの室です。そのときに更に室は壁や床、天井といった部位として捉えられます。このような部分を指す場合には「部位」という言い方をするのですが、壁や床、天井といった部分は位置によってそのような位置づけを与えられるために「部位」と呼ぶのでしょう。即ち、いくら屋根に使う瓦を床の位置に敷いたからって、その床が屋根になる訳ではなく、あくまでも重力に対してモノが支えられる囲われた空間内の面は床なのです。非常に抽象的な言い方ですが…。

5-3. タイル (10)

その他、焼成方法や成形方法、釉薬の種類など細かな分類方法を上げれば切りがありません。
性能ではなく意匠性の観点に立てば、タイルについての重要事項の1つはタイルのサイズだと思われます。当然ですがタイルにはサイズがありますので、タイルとタイルが並んだ時の目地というのも意匠性の1つのポイントです。例えばモザイクタイルは15mmといったとても小さなタイルを並べているものです。それぞれのタイルの色を細かく変えるなどしてモザイクタイル独特の意匠表現を成立させていますが、その目地幅や色との関係で随分と印象が変わるものです。

図5-3-8:モザイクタイル

図5-3-8:モザイクタイル

また現在では過去にはあまり例をみなかった巨大なタイルが生産されています。コンクリートのように型に流し込む様なタイプの材料でない限り、概ね建材には一定の単位があります。その間に遊びをつくることで建物全体が地震などで動いた時にその建材が破壊されないようにつくられています。その遊びを埋めるのが目地で、そういう意味で目地は私たちの日常生活の中で至る所に自然と目にしているものです。その目地の間隔が2mピッチなどになると、かなり伸びやかな意匠表現ができます。

図5-3-9:大判タイル

図5-3-9:大判タイル

また、焼物であるタイルの特性とも言えるでしょうか、昨今では石に似せたタイルやフローリングに似せたタイルなども開発されており、今後も模造的なタイル素材はどんどん開発されていくのではないでしょうか。

図5-3-10:フローリング風タイル

図5-3-10:フローリング風タイル

5-3. タイル (9)

現在では日本国内はもちろん、タイルといえばイタリアの建材メーカーが多様な商品を出しています。その種類は本当に多様ですが、いくつかの水準で分類することが考えられます。
用途による分類としては、内装用か外装用か、また壁用か床用かというところで大きく分かれます。外装だと当然雨がかかりますので、撥水性が問題になります。また、床に敷くタイルは滑って転倒する恐れがありますので、滑り抵抗値の高いタイルが使われる必要があるでしょう。内装用でも特に水廻りに使われる場合だと、外装のように吸水しないものを選ぶ必要がありますし、濡れた床は特に滑りますので特に注意が必要になってくるでしょう。
タイル自体の質による分類もあります。磁器質、せっ器質、陶器質、土器質の4種類が考えられます。基本的には焼物の分類と同じで、磁器質は焼成温度が高く、表面が非常に緻密で硬く、吸水性が殆どありません。叩くと高い金属の様な音がします。陶器質は焼成温度が1000℃程度で、表面が多孔質で吸水性が高いものです。多くは表面に釉薬をかけることによって、意匠性を高め、吸水性を下げることによってタイルとしての品質を確保しています。磁器質と陶器質の中間的なものがせっ器質、陶器質よりも素地が荒く、焼成温度が低いものが土器質です。

5-3. タイル (8)

日本で、現在のいわゆるタイルが使われるようになったのは、明治時代になって洋館が建てられるようになってからだと言われています。以前にトイレの稿でも書きましたが、谷崎潤一郎の『陰翳礼賛』の文庫本にまとめられている「陰翳礼賛」あるいは「厠のいろいろ」というエッセイの中で、日本の厠と西洋のトイレを対比的に書いてある箇所があり、西洋のトイレについては、白い室内における白い衛生陶器の風情の無さ云々、という旨が書かれています。衛生陶器そのものもさることながら、恐らく水廻りにおける白いタイルというものもまさに西欧建築の1つのアイコンだったことが伺える一節です。
いずれにせよ日本におけるタイルの受容は、水廻りのための内装仕上げ材というかたちであったと思われます。国外ではリビングやダイニング、寝室など場所を問わずタイルが積極的に使われているのとは対照的に、未だに日本では水廻りでの仕様が主であるようです。これは日本の生活習慣に一因がありそうです。玄関で下履きを脱いで裸足で歩くのに冬のタイルの冷やっとした感じはあまり良いものではありません。今では室内ではスリッパを履いて生活するのも一般的で、そうすると室内のタイル張りも悪くないように思えますが、やはりタイルを受容した頃の習慣は未だに残っているような印象です。

5-3. タイル (7)

日本建築において、タイルは即ち瓦ということで、陶磁器が建材として建物の部分を覆うということは屋根しかなかったようです。1つには雨の多い日本の気候では最も効果的に水の侵入を防ぐのに効果的であった一方で、壁に使うにはうまく留める方法が無かったのかもしれないですし、あるいはほかの素材に比べて重くなってしまうので地震の多い日本には構造的に重量が増えることが有利ではないからかもしれません。
仏教伝来当初から寺院建築には瓦屋根を使うという潮流になったようですが、一方で世俗的な建築物の瓦の利用は一時、途絶えていたようです。当時は杮葺きなどの屋根よりも瓦の製作に手がかかったのでしょう。モニュメントとなる寺院のみに瓦が作られましたし、鬼瓦が製作されたのも、そのビルディングタイプとしての象徴性があってのことでしょう。
その後、室町時代には茶の湯の勃興とともに茶釜の下に敷く「敷瓦」が発展しましたが、屋根材を鍋敷きに使う茶の湯の遊び心が、その他の建築物の部位にまで広がって使われるようにはなりませんでした。