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4-7. カーテンウォール (3)
18世紀中頃にはカーテンウォールの原型とも言えそうなものが作られていましたが、実際に現代のカーテンウォールの潮流の元と言えるモノは、19世紀まで時代が下ります。カーテンウォールの歴史を調べると、その初めのものとて取り上げられるのは1851年のロンドン万国博覧会で建設されたクリスタルパレスです。
前稿で西洋の建築物の多くは壁構造であったことを書きまたが、産業革命以降鉄を製錬する技術が向上し、18世紀末から鉄橋など土木構造物に鉄が使われるようになり、19世紀に入り博覧会の建造物でも鉄が構造材として使われるようになってきました。
ところで今、建築物ではなくて「建造物」と書いたのは、当時はクリスタルパレスのようなビルディングタイプの建物は建築物として認められていなかったからです。建築物といえば、宮殿であったり、宗教的な施設であったり、それまでに存在していたビルディングタイプのものでした。産業革命や市民革命以降、美術館や図書館、駅や工場といった新しいビルディングタイプが求められるようになり、それらは既存の様式を流用する形で対応することが殆んどでした。
一方でこのように鉄で構造物が出来るようになっても、まずは橋などの土木構造物に利用され、また既存のビルディングタイプではなくて、どのように扱えば良いか曖昧な新しいビルディングタイプに利用されました。その最たる例がクリスタルパレスでした。 鉄の架構のみならず、ガラスのカーテンウォールによる極めて高い透明感も、当時の既存の建築物とは余りにも違いすぎたために、建築物とは認め辛い様相だったのでしょう。
4-7. カーテンウォール (2)
そもそも歴史的に、日本建築においては木造が主たる構造形式だったので、柱梁による架構を組んで、外壁が板戸や砂壁の様な軽いモノで作られるということはさほど驚くべきことでもありませんでした。一方で西洋建築においては、石や煉瓦による組積造の建物が主流だったので、外壁が分厚く、重たいことは当たり前でしたし、それに伴って窓も小さいものでした。石よりも木が建材としてより広く使われていた北欧やスイスなどでも,ログハウスのようなものは木の組積造と考えて良いですし、柱梁の架構形式にしていたとしても、冬の厳しい気候への配慮から壁を分厚くつくって、十分な断熱性能を確保するということがなされていました。
このように壁に建物の荷重を伝達する構造形式は、構造材として鉄や鉄筋コンクリートが使われるようになるまで、長い間繰り返されて来た形式です。壁が荷重を支えているために当然カーテンウォールの様なことは出来ませんでした。
もっとも荷重を外壁に担わせるのを止めたからといって、建物に外壁の必要がなくなる訳ではありません。今度は主構造にぶら下げられる、軽い素材で外壁をつくる必要があります。窓の素材としてガラスが古くから存在していたことは、「5-1. ガラス」の稿でも触れていますが、そのガラスをサポートするための枠、アルミや鉄で枠がつくれない当時は木製しか選択肢がありませんでしたが、カーテンウォールをつくれる様な十分に大きく育った木は西欧においては中世以来不足していたといわれています。
直接的にそのせいかどうかは定かではありませんが、世界最初のガラスのカーテンウォールは18世紀にオスマン帝国で作られたといわれています。下記の写真はそのオスマン帝国のものではありませんが、ルーマニアのブカレストに残っているもので、きっと近い様な形で世界最初のガラスカーテンウォールも製作されたものと推測されます。
4-7. カーテンウォール (1)
4. オフィスビルの部分
前回に壁について書きましたが、建物の外観については閉じた部分が壁とするならば、開いている部分は開口部です。開口部には大まかに扉と窓、あるいはガラスのカーテンウォールの様な場合も開口部という扱いになります。
カーテンウォールというのは、組積造のように自重とその他の建物の荷重を外壁が伝えるのではなくて、建物の躯体の荷重は受けない、非耐力壁の外壁です。名称もそうですが、カーテンのように躯体からぶら下がっている壁である、と考えれば良いでしょうか。一般的にカーテンウォールといえばガラス張りの建物を想像するかと思いますが、PCやALC板のカーテンウォールもあります。有名な例で言えば、東京都庁舎の外観はPC板のカーテンウォールで構成されています。
まずはいつも通り、どのようにしてカーテンウォールができてきたかという変遷から辿りたいと思います。
4-6. 壁 (3)
壁を立てると当然ですが、内側と外側が出来ますが、実際に外部に面する壁はいわゆる外壁です。風雨を避けるのはもちろん、都市部においては火災を予防するためにも外壁の性能は求められます。また意匠上、外観を構成する要素でもあります。
都市計画によって指定されている区域にもよりますが、市街地で耐火建築物としての性能を求められる場合には、外壁には耐火構造であることが求められます。耐火構造というのは、所定の部位が火災で一定の時間熱を加えられたときにも、非損傷性、遮熱性、遮炎性が担保出来ているということです。具体的には一定以上の厚みのコンクリートであったり、ラスモルタル、セメント板であったりします。住宅など小規模の建物に比べれば、オフィスビルのような一定以上の規模の建物ではこのような火災に対して求められる性能は高いので、意匠的には制限されてしまっています。
また、外壁には扉や窓といった開口部が穿たれますが、これらに対しても火災予防の観点から色々な水準で規制が欠けられています。その詳細はここでは割愛しますが、いずれにせよ建物の外観は様々な法的条件をクリアした上で成立していますので、それらを念頭に建物を眺めるだけで様々な発見があるものです。
4-6. 壁 (2)
建物の構造形式によっては、壁が構造的な役割を担っていることもあります。鉄筋コンクリート造の壁構造だと当然、壁が垂直、水平力を受けますし、ラーメン構造や一般的な鉄骨の軸組構造だと線材を組み合わせたような架構形式なので、その部分には荷重はかかりませんが、部分的にRCの壁をつくって水平力を負担するようなことも考えられます。これらは構造壁と呼ばれます。建物の構造の一部を担っているということで、インテリアを改装する際にも簡単に壊すことは出来ない壁です。
一方で構造壁ではなくて、スペースを区切るためだけの壁は間仕切り壁と呼ばれます。現在では殆どの間仕切り壁は軽鉄と呼ばれる金属製の壁下地材を組み、そこに石膏ボードや珪酸カルシウム板などを貼って、塗装あるいは壁紙などをして仕上げます。
過去にはベニヤ板などで間仕切り壁を作っていたようですが、火災予防のための内装制限がかかっていることが多いために、不燃材である軽鉄下地と不燃のボードで間仕切り壁を構成するのが現在では主流となりました。