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9-1. 図面 (5)

その抽象化のプロセスですが、縮尺が小さければより抽象化されますし、縮尺が大きければ逆に実物に対してより近い表現になってきます。

図9-1-1:断面図200

図9-1-1:断面図200

図9-1-2:断面図50

図9-1-2:断面図50

上の2つの図は現在、私たちが進めているプロジェクトの一部ですが、それぞれ1/200と1/50の図面です。先述の通り、表現している内容が大きく異なっており、つまりその図面が意図する内容が違うということです。1/200の図面では建物全体の構成を示しています。建物の高さや階数、階高、天井高などです。一方で1/50の図面では具体的に材料が何であるか、構造体がどのような形で入って床を支えているかなど、より具体的な情報が記載されています。それならば1/50で全体を描いてしまえば1/200の図面などは必要ないのではないか、大は小を兼ねる的な発想になりそうです。確かに1/200の図面の情報は1/50の図面からも読み取れますが、記載されている情報が過多なのでパッと必要な情報を読み取ることが困難になってきます。図面は設計者からその図面を読む人へのコミュニケーションですので、コンセプトを示すという意味では、やはり1/200の図面の方が物事をクリアに伝えていると言えるでしょう。

9-1. 図面 (4)

もう少し具体的な例を挙げながら話を進めたいと思います。
一般の方がもっともよく目にする図面は不動産の折り込みチラシなどの広告や家探しの時の間取り図と呼ばれるものだと思います。これはいわゆる平面図というもので、建物を水平方向に切断して上から眺めた図です。他にも建物を鉛直方向に切断した断面図や建物の外観を水平方向から投射した立面図がありますが、平面図を含めてこれらを一般的に基本図と呼びます。
図面には縮尺という概念があります。説明するまでもなく、実際のサイズである1分の1で図面を描いてしまうと、紙媒体に描ききらないので、それを適宜100分の1や50分の1に縮小して表現します。ところで図面は線で描かれるわけですが、線には太さがあります。実際にはモノのエッジには太さなんて概念はないのですが、2次元の図面に表現する際にはどうしても線の太さが視覚化する上で必要となります。現在、皆さんがいる場所を100分の1、あるいは1,000分の1の縮尺で紙の上に鉛筆で描くことを想像してください。なんの抽象化もしなければ、間違いなく紙が真っ黒になってしまうでしょう。タイルの目地や一本一本のフローリングの線、フローリングの木目を表現することは不可能です。
いずれにせよ縮尺を与えて図面に表現するということは、程度の差はあれ抽象化のプロセスは外せないということです。

オフィスビル経営の基本Ⅲ 経営者個人の課題と専門家の必要性②

2.ノウハウ面での課題

優れた専門家はこの不動産業界での情報、ノウハウ、実績を多く有していますが、だからといってその見解を鵜呑みにするようでは経営者とはいえません。専門家のノウハウを引き出しつつも、最終的には経営責任を有するオーナー様が判断し、その結果を受け入れなければならないからです。オーナー様は専門家を超える気で勉強せねばなりません。
とはいえ、オーナー様が全ての専門分野を研究し尽くし、ノウハウをマスターするには2つの点で課題があります。

1つめは、調査に関するノウハウです。オフィスビル経営の基本Ⅲ 経営者としての心構え⑬で解説した「募集開始日」「現空期間」「下限賃料」「成約情報」などはオーナー様個人が調査するにはハードルが高い情報です。たとえば、下限賃料について本当に正確な情報を得るには、「一部上場企業の関連会社が入居を希望しているとして、いくらまでなら賃料交渉の余地があるか」とずばり聞いてみるしかないのですが、相手にとっては非常に答えにくい内容であり、それも競合ビルのオーナーからの質問であれば正確に答えてくれる可能性は限りなく低いでしょう。この手の問い合わせは誰にでもできるというものではありません。「成約情報」に至っては、業者のなかでもその情報精度にかなりの格差があります。こういった情報を優れた専門家に提出してもらうことは、分析の確度をあげるためにも大切なことであるといえるでしょう。

2つめは、分析に関するノウハウです。募集物件条件表をみても、多数の競合物件の多岐にわたる項目を分析し、そこから順位をつけていく、あるいはそれに基づいて「何をどうすれば更に順位をあげることができるか」について検討していくわけですが、こういった分析を過去にどれだけ真剣に行ったかという数と質が差となります。他の小資本で行える事業であればオーナー様ご自身で試行錯誤を繰り返していくのも有効ですが、不動産経営では失敗をするわけにはいきません。経験を積むまでは優れた専門家による分析結果を聞いておくのも勉強になるでしょう。

9-1. 図面 (3)

一般的な意味において、建築物で表現される空間はもちろん3次元の空間ですが、一方、図面で表現される世界は2次元なので、どうしてもその内容を省略、あるいは抽象化せざるを得ません。ましてや図面ですら1分の1で表現出来るのは部分的な内容ですので、多くの図面にはその対象物を小さく描かれています。その抽象化、省略はいくつかの方向性があるように思われます。
極端なことを想像してみましょう。図面というのは平面図や断面図、立面図といったようにある面を水平に投射した像であるわけで、一般的に私たちが眺めている遠近法的な世界ではありません。一切、省略がない図面を想像するとなると、その場所を水平にスパッと切って上から写真を撮れば良いわけです。その写真の視点が無限遠からならば、遠近法ではなくて、水平に投射した像とほぼ同一です。
その場合、色があるでしょうが、一般的には図面には色がありません。輪郭を線で表現して、奥行き方向の表現もありません。上の写真をモノクロにすれば色は捨象されますが、材料の質感は残ります。縮尺の小さな図面において素材感を線で表現することはありますが、それも実際とは違ういわば「記号化した」表現です。

9-1. 図面 (2)

実務的な意味でも我々にとっては図面が最終成果物です。つまり契約上で施主から支払いを受ける際には図面提出を前提としたフェイズ毎に行われるということです。設計・監理という言葉があります。設計はもちろん図面を作成する仕事で、それをもって建築確認申請を行い、現場が始まります。監理は現場で建築物が作られていくフェイズですが、あくまでも作るのは施主と契約した工務店であり、設計者は図面通りに工務店が作っているかどうかをチェックする仕事です。そういう意味でも図面というものは、建築家にとっての基本的な成果物であると言えます。その図面をもって工務店と施主が契約しているので、形式的には現場監理の段階で建築家が図面外のことを工務店に指示するとなると、それは越権行為です。あくまでも図面として既に成果物が出来上がっているからです。現実的には、図面通りに作ろうとしても作れないだとか、不具合がありそうだということが現場の段階で分かることも多々あるので、それはフレキシブルに対応することになります。