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8-3. 火災 (10)
また一定の規模以上、あるいは用途によって直通階段が2つ必要なことがあります(2直階段)。いわゆる2方向避難と呼ばれている要件で、自分がいる位置と直通階段の間が燃えていたとしても、その逆方向で地上への避難が出来るようにするということです。用途的には先述と同様に映画館や劇場、一定規模以上のデパートなどに2直階段が義務づけられていて、また病院やホテル、共同住宅なども当該階が100m2あるいは200m2以上といった規模の場合に義務づけられています。いずれも大人数がその階に滞在しているということが想定されています。
また、その他の用途でも6階以上の階には原則義務づけられています。これは当然、火は上に廻りますので、上層の階の方が被災のリスクが高いためです。ここで原則と書いたのは一定の条件を満たせば、2つのうち1つの避難階段は「避難バルコニー」で代用しても良いということになっているからです。ここでは詳細には立ち入りませんが、よくマンションのバルコニーなどで足元に避難用のハシゴが設置されています。それが階段に代わる避難上有効なルートとされています。
8-3. 火災 (9)
また避難の安全上の観点から「直通階段」という概念があります。これはその階段を下りて行って直接、地上の屋外に出られる階段ということです。当たり前のことのように思いますが、火災が起こっていてパニックになっているときに、階段を下りて行ったのに屋外に出られなかった、なんてことがあったら本当に大変なことです。
ちなみに一定規模以上の建物には誘導灯(緑色のランプで人が走っているピクトグラム)の設置がなされますが、誘導灯は直通階段など避難上有効なルートに誘導するためのものです。
話がズレました。階段が直通階段となるには地上の屋外に出られるということがありますが、規模が大きな建物の場合、その階段までの距離が遠すぎて避難出来ないということでは本末転倒ですので、建物の各部分から直通階段までの距離が条件により定められています。その条件は主に建物の用途、主要構造部が耐火構造あるいは不燃材か否か、その階の階数で定められていて、例えばデパートの場合は建物の各部分から直通階段までの距離は30m以内にしなければならないということになっています。
8-3. 火災 (8)
ここまでは周辺の火災をもらわない防火、あるいは火災が起こった際に耐える耐火という2つの観点から論じてきました。火災が起こった際には建物が耐えられたとしても、何はともあれそこにいる人は避難しなくてはなりません。災害時に円滑に避難が出来るように、建築基準法あるいは東京都の場合ならば安全条例などで様々な規定が定められています。ここではそのエッセンスの一部を紹介します。
建物が複数階に渡る場合は階段が当然、建物には階段がついていますが、避難の観点から階段にはいくつかの規制が複合的にかかっています。1つには建物の使用人数が多い様な用途、または規模の場合は、階段幅を大きくしなくてはいけません。避難時には室内に滞在している人々が一気に階段に集まるために混雑しがちです。用途的には学校や劇場など、デパートなどの物販店舗ならば1500m2以上の床面積の場合には、140cm以上の階段の幅が必要となります。よくよく思い出してみると、デパートや学校の階段はゆったりと作られていますね。
8-3. 火災 (7)
また異種用途区画というのは、同じ建物に複数の用途がある場合にその用途間は区画しましょう、というものです。例えば、飲食店の火災の発生条件とオフィスの火災の発生条件はもちろん大きく異なるものなので、それらの火災のリスクを限定するために区画を求められています。
その他に各階毎に建物を区画する、水平区画(あるいは層間区画)と呼ばれているものもありますが、これらはそもそも耐火建築物の要件で床を耐火構造にしなくてはいけないので、ことさら水平区画と呼ぶ必要もありません。ただし、区画は立体的にも間違いなく区切られているかは必ず必要なので、平面的な区画に加えて断面的な区画の概念を考えるために、水平区画という考え方を導入しても良いでしょう。
また、これらの防火区画に付随する要件として、外壁に条件(実際には開口部の条件)があります。防火区画に接する外壁については、それらが接する部分を90cm以上は準耐火構造、あるいは50cm以上の準耐火構造の袖壁で分けなければならないというものです。これは言い方を変えれば、外壁はそもそも耐火構造なので、階を挟む窓同士が90cm以上は互いに離れなければならない、という風に読み替えても良いでしょう。つまり床から天井まで、外から見たときに純粋なガラス張りのカーテンウォールは実際には成立することができないということになります。但し、街中には多くのカーテンウォールの建物が見受けられますが、実はそれぞれに工夫がなされていて、外観上のガラス張りを実現しているということです。
8-3. 火災 (6)
ここまで書いてきた耐火や防火の考え方は、それぞれ材料の非損傷性や延焼防止によるものでした。また耐火にはその材料が燃えにくいことに加えて、燃え広がらない建物の構造を考えることが出来ます。そこである一定の規模を超える建物に対して、建築基準法において「防火区画」を義務づけています。「防火区画」とは火災が急激に燃え広がらないように、耐火構造の壁や床によって一定の範囲ごとに区画(空間を分けること)することです。つまり区画された1箇所で火災が発生したとしても、隣りの区画には容易に火が廻らないようにするということです。
具体的には防火区画には大雑把に、面積区画、竪穴区画、異種用途区画の3種類があります。
面積区画は耐火建築物あるいは準耐火建築物の場合に、500m2〜1500m2毎の区画が求められます。また11階以上の階にも100m2毎、あるいは仕上げを準不燃、あるいは不燃材とすることにより、200、500m2毎の区画を求められます。これは高層建物の場合は避難の時間が長くなるので、11階未満の階に比べてより厳しい区画が求められています。
竪穴区画とはパイプスペースや階段の吹抜けなど、建物の構造上どうしても階を跨ぐ空間において、当該部分とそれ以外の部分とを区分することです。当然、熱は上にあがるので、垂直に伸びる空間は火の廻りが早く、燃え広がり易いです。竪穴区画ではそのような火災に弱い場所を限定するものです。