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5-5. 耐火被覆 (5)

最近では耐火塗料と同様の薄さを実現する耐火シートというものも作られるようになっています。メカニズムとしては耐火塗料と同様に火災時に発泡するタイプのものです。既製品ですので耐火塗料との大きな違いはシートを巻くだけの施工となるので、耐火塗料のように職人の手によって仕上がる品質よりも安定するということです。また湿式ではなくなるので周辺に塗料を飛ばす心配もありませんし、工期的にも巻くだけなので多くの時間をかけずに済みます。ただし、やはりコストが高くつくので限定した場所での使用となることが多いようです。
シートではなくて乾式の工法で最もポピュラーなやり方は、ケイ酸カルシウム板を巻く工法です。畑の肥料にも使われるケイ酸カルシウムを主材料としていて、耐水性能などもあるので内装の水廻りや軒天、外壁の下地などにも使われます。板状のものを柱や梁廻りに巻く形になるので、吹付け系の仕上げとは違いきっちり箱型の仕上りになります。

図5-5-3:ケイ酸カルシウム板

図5-5-3:ケイ酸カルシウム板

以上の他にもいくつかの認定の取れた耐火被覆材があります。建築家は常々なるべく柱を細くみせたいといった思いがありますが、それは構造材と同時にこの耐火被覆での対応というのが大きく影響してきます。

5-5. 耐火被覆 (4)

また天然素材であるアスベストと違って、ロックウールは玄武岩や鉄炉スラグと石灰などと一緒に溶解させて生成させる工業製品で、吹付けのものもあれば成型されたものもあります。繊維状のもので扱い易いので防火区画を配管などが貫通する個所や外壁とスラブに隙間ができてしまう個所などに、このロックウールを詰めることで区画の性能を担保するといったような使用の仕方もしています。
また同様の吹付けの耐火被覆材でセラミック系の素材もあります。セメント、水酸化アルミニウム、炭酸カルシウムを主成分としていて、柱で20mm(1時間)〜40m(3時間)の厚さでロックウールよりも薄い形で認定が取れています。
以上は吹付けによる湿式の工法ですが、数十ミリの被覆の厚さが必要なので、柱が一回り太く見えたり、納まり上その厚さがネックになることがあったりもします。その場合は耐火塗料という塗装するだけで皮膜が数ミリ程度で良い耐火材があります。その塗り厚は母材となる鉄骨の断面や耐火時間によって変わってくるのですが、柱や梁で極力スリムにみせたい個所については耐火塗料を使うことは多くなります。コスト的には吹付けの被覆材の数倍になってしまうので、使用する場所を限定して使うのが一般的でしょう。耐火のメカニズムとしては、熱が加わった際に塗膜部分が発泡して断熱の層を形成するという仕組みです。ロックウールもそうですが、いわゆる断熱材のように中に細かい気泡を抱え込むことによって、熱が容易には伝わらない仕組みとするわけです。

5-5. 耐火被覆 (3)

先述のグラフで鉄とコンクリートとともに木材の強度についても描かれていました。木造耐火構造というのもあるのですが、幼稚園や老人ホームといった用途や防火地域における住宅といったようにとても限定された範疇での話となるのでこちらでは割愛して、鉄骨造に注力を注ぎたいと思います。
鉄骨造となると基本的には壁による構造はなくなるので、柱梁の軸組に床を架けるという考え方が一般的でしょう。鉄筋コンクリートの場合、国土交通省が出している告示(当時は建設省)ベースで仕様が決められていますが、鉄骨造に対する耐火被覆はその材料メーカーが個別に製品に対して認定を取る形で耐火の要件を満たしていることを証明しています。

図5-5-2:ロックウール

図5-5-2:ロックウール

まず最も一般的に使われていると思われるものがロックウール(岩綿)です。元々、アスベスト(石綿)が耐火被覆として利用されていたものが、健康被害の問題から1975年に吹付けアスベストが禁止されて以降、代替品としてロックウールが使用されるようになっています。見た目はアスベストとあまり変わりはありませんが、もちろん健康被害がなく、アスベストと同様に吹付けで施工が可能で安価であるということで最も多く使われているといえるでしょう。ただし上図の通り、あまり美しいものではないので仕上げをして隠れる個所に使われてあまり目にすることはないでしょう。あるいは駐車場といった元々意匠的に配慮がなされない個所などで見える場所に使われているところを目にすることもあるでしょう。

5-5. 耐火被覆 (2)

建物が鉄筋コンクリート造の場合、コンクリートそのものが熱にある程度強い素材ということもあって、中に埋設している鉄筋から表面までの距離(かぶり厚)と1辺の長さによって、耐火の時間が位置づけられており、例えば柱の場合だと1辺25cm以上でかぶり厚が3cm以上だと2時間耐火、1辺40cm以上でかぶり厚が3cm以上で3時間耐火、といったように決まっています。鉄筋コンクリート造の場合、耐火建築物であることよりも構造計算が成立する条件の方が厳しいことが多いので、それほど耐火被覆が意匠上クリティカルになってくることは少ないです。

図5-5-1:コンクリート、鉄、木材の熱と強度の関係

図5-5-1:コンクリート、鉄、木材の熱と強度の関係

一方で鉄骨造の場合には、鉄という素材が熱に対しては相対的に弱いので耐火被覆の材料の検討は必要になってきます。上図を見てみると、加熱に対してコンクリートが殆ど強度を低下させないでいられるのに対して、木材は加熱時間に比例して強度が落ちるということ、また鉄についてはある段階で急激に強度が低下してしまうということが分かります。つまり鉄骨造については、熱伝導率も高いですし、隙間なく耐火被覆によって鉄部分を覆うことによって、火災時の熱が構造体に伝わらないようにすることが耐火建築物としていかにシビアかということが分かります。

5-5. 耐火被覆 (1)

5.オフィスビルの素材

今回は少し建築プロパー向けの素材について、表に現れてくるシーンが少ないと思われる耐火被覆についての稿にしたいと思います。
以前に8-3で火災について論じましたが、その際には耐火建築物の定義、耐火構造や防火構造について整理しました。その折には耐火被覆については触れていませんでしたが、遮炎性(延焼防止)と非損傷性を担保するために「主要構造部を耐火構造」としたものを耐火建築物の要件としています。具体的にはその耐火構造の耐火性能はある場所が一定時間加熱された場合に「構造耐力上支障のある変形などの損傷を生じないこと」(非損傷性)、「加熱面以外の屋内面が加熱物燃焼温度以上に上昇しないこと」「屋外へ火災を出す原因の亀裂などの損傷を生じないこと」(遮炎性)が要件となっていますが、それは具体的な材料やそのものの寸法などによって厳密に位置づけられています。
まずは「ある場所」についての「一定時間」の内容ですが、場所については柱、壁、床、はり、屋根、階段と部位に分かれており、さらに壁については外壁か間仕切り壁か、耐力壁か非耐力壁かが区分されています。また、外壁の非耐力壁については、延焼のおそれのある部分(隣地からの距離による)かどうかについても区分されます。その各部位について、階数ごとに最上階から数えて上から4階まで、最上階から数えて5階から14階まで、最上階から数えて15階以上の階、というように高さ関係からも場所は位置づけられます。例えば20階建てのビルがある場合に、最上階から4階まで、つまり17階から20階まではその階からはすぐに人が避難できるので耐火の時間が短くても良いですが、6階以下の階は20階から避難して下りて来るのに時間がかかるために耐火の時間が長くなければならない、といったようなことになります。つまりそれらの場所に応じて、耐火時間が30分、1時間、2時間、3時間というように耐火構造の条件が決められています。