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4-14. 窓 (8)
建築の内外の関係を取り持つ要素として窓があるということを先述しましたが、窓の有り様によってその関係の取り持ち方はずいぶんと違うものです。そこで窓自体の構成とその素材などを考えてみようと思います。
ここで前提として窓の構成を考えておきたいのですが、窓に向かって見て内側から、ガラスなどに相当するグレージング、その枠であるサッシュ(あるいは障子)という3つの要素に大きく分けて考えることが出来るかと思います。グレージング部分にガラスがなくても窓と言っても良いでしょうし、枠が見えない(あるいはない)ものでも、要するに壁に穴が穿たれていれば窓として考えてよいところでしょう。
さて窓の種類の区分として、設計図上では枠の素材が一番大きな分類をする要素となります。これは工種が素材によって違うからです。設計図上ではSW, AW, STW, WWなどと記号で表記されるものは、それぞれスチールサッシ(SW)、アルミサッシ(AW)、ステンレススチールサッシ(STW)、木サッシ(WW)といったところです。これらの違いは意匠的なことはもちろんとして、窓としての性能が大きく違うと考えてよいでしょうか。アルミサッシの場合は工業製品で、型押出しで成形される製品なので精度が高いので、気密性や水密性に優れると考えてよいでしょう。一方で木サッシは木の材性が場所によってばらつきがあることもありますし、湿気などで反りなどが出てきて動く個所だと立て付けが悪いと動かしづらいということもあるかもしれません。しかし、材料自体はアルミやスチールに比較すれば熱貫流率が低いので、断熱性能には優れていると言えるでしょう。
4-14. 窓 (7)
ここまであまり窓らしい窓の話が出来ていませんが、ビルディングタイプとしてしっかりとしたインテリアをつくるものを考えてみたいと思います。ローマ人の都市の中で特徴的な建物の一つに公衆浴場というものがあります。字面だけみると銭湯のように思えますが、当時のローマ人たちはそこで1日の何時間も過ごし、入浴する前には必ず運動をして汗をかきそれを流すといったように、日々の生活の一部として存在していたようです。そこには貧富の差は存在せずに、読書、議論などが行われた社交の場でもあったようです。
さて浴場なので当然裸になるのですが(サンダルは履いていたようです)、さすがにそういう場所には屋根を架けて屋内化しておかないと冬は寒いでしょうし、何かしら不都合が出てくるでしょう。そして社交の場としての規模が必要だということで、外とのつながりが出入口だけという訳にもいかなかったようで、遺跡から想像した内観のスケッチなどを見てみると壁に穿たれた窓から象徴的な光が落ちてくる様子が想像できます。
ガラスの稿でも先述しましたが、浴場の窓にはガラスが嵌められていたそうです。ガラスを溶かして流し固めたものだそうですが、採光の一方で暖めた室内の熱が外に逃げないようにということから、窓にガラスが嵌められたのだろうと想像できます。
4-14. 窓 (6)
このようなアーチが全面的に使われた例として真っ先に思いつくのはコロッセオです。
円形の建物の全周に渡ってアーチが使用されていて、断面方向にはすり鉢状に、アーチが円の中心に向かって縮小されています。アーチの開く方向の力については、平面的に全体が円になっていることもあり、全てのアーチが互いに横方向の力を支え合っているという形で力学的には非常に安定しています。事実、コロッセオが建築されて以来、幾度となく大きな地震に見舞われていますが、倒壊することはないといいます。ただし、中性の時代を通じて、その膨大な量の石素材から他の建築物の建材として再利用され続けたために、現在のような建築当初のきれいな円形の形にはなっていないとのことです。ちなみに同じローマにあるバチカンのサンピエトロ寺院にも、コロッセオで使われていた大理石が転用されたそうです。
ところでこのコロッセオですが、収容人数が45,000人にもなるそうで、現在のスタジアムと比較してもかなり規模の大きいものです。建築計画上、このように多数の人間が一堂に会する建物を設計する場合には、人の流れをきちんと計画しなければ大きな事故を誘発してしまう可能性もあるのですが、その点でいえばこのコロッセオは全周開口部なので、一度に大多数の人の出入りを許容できてしまうという計画上のうまさもあります。2階以上のアーチ部分(即ち窓と言っても良さそうな場所)は、そういう意味ではあまり関係がないかもしれませんが、外からアイレベルで見た時にアーチを通して空を見えたりするあたりで、建物の規模や形態からくるマッシブなボリュームを解消して、外観を軽くするような意匠的な効果は感じられます。
4-14. 窓 (5)
開口部の最もプリミティブなあり方はやはり柱の上にまぐさが載るような形式で、それは古代ギリシアやそれ以前の建築物にも見られますが、古代ローマになるとアーチが出てきます。アーチそのものはメソポタミアや古代エジプトにも存在はしていたようですが、排水路や地下の構造体に使われていた程度で積極的には使われていないようです。建築にアーチを積極的に使い始めたのは、古代ローマ時代にイタリア中部に住んでいたエトルリア人がローマに伝え、ローマがそれを洗練させていったということがあります。
力学的にはまぐさで開口部をもたせようとするとその上部の荷重をそのまま鉛直方向に伝えるために、両サイドで柱が支える個所に大きなせん断力がかかります。そのためにまぐさ形式では幅の広い開口部は開けることは出来ませんでした。しかしアーチを用いることによって、上部の荷重をアーチに沿って両サイドの壁に鉛直方向の荷重として伝えることができます。石は引張りやせん断よりも圧縮力に対して強いですが、この時の石には圧縮力がかかる形で両サイドに力を伝えています。またどうしてもこういった場合にはアーチが外側に開くような力が働きますが、それはギリシア建築のように柱で受けるのではなくて、壁で受けることによって開く方向の力にも耐えられるように考えられていることが多いです。
4-14. 窓 (4)
窓と扉の差異を考えてみましたが、窓や扉と壁の差異も考えてみましょう。まず始めに思いつく要因は開閉が可能かどうかです。材料がなにであれ、開閉が可能であればそれは窓なり扉なりと考えられるでしょう。しかしここで思いつく反例として嵌め殺し窓やカーテンウォールが考えられます。カーテンウォールがPCやALCで出来ている場合、それは明らかに壁なのですが、ガラスとなると法的にもカーテンウォール(壁)と言いつつ開口部として扱われます。はめ殺し窓も透明な素材、あるいは半透明でも透光性があればそれは開口部として位置づけられるでしょう。つまり開閉が可能であるか、あるいは視線の内外を視線の関係を何らかの形で連続していることが壁ではなく、窓あるいは扉の条件であると考えて良いかもしれません。(実は大理石などは光を通す素材なので、大理石の壁を考えるとこの考え方もかなり際どいところではあります。)
さて先に例に出したピラミッドを思い返してもそうですが、窓は必ずしも建築になくてはならないということはありません。逆に扉は外部空間から内部空間に入っていくためには必ず必要なものです。ギリシアのパルテノン神殿を思い返してもそうですが、列柱の奥には壁で囲まれた内部空間があるのですが、そこには出入りの扉はあるものの窓は設えられていません。
よりプリミティブな例で竪穴式住居を思い出しても同様で、出入りをする部分以外には開口部はなく、窓を作るようになるのはもう少し後になってからということが考えられます。