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4-14. 窓 (13)

ここまで開き方や素材から窓のタイプを考えてきましたが、ここで位置について考えてみたいと思います。
まずは位置についての概論的なことを考えると、一枚の壁の真ん中に窓が取り付いていることを想像してみて、窓の両脇の壁は「袖壁」、窓の上は「下がり壁」あるいは「垂れ壁」、窓の下は「立上がり」などと呼びます。ごく一般的な窓は壁に穿つという意味では、周囲に壁の部分を伴います。ここでいくつかの例を考えると、立ち上がりのない窓が考えられますが、これを「掃き出し窓」と呼びます。箒などで清掃をする際に室内のチリを外に掃き出せてしまうのでそのような呼称が付いたのでしょう。天井高の高い部屋などで垂れ壁をつくらずに高い位置に付いている窓は「ハイサイドライト」で、排煙窓はいわゆるこのハイサイドライトであることが多いでしょう。また視界が空の方向に向くので、周囲の風景が限定されている時などに使われています。袖壁のない状態、即ち窓が水平に連続していくような窓は「水平連窓」といいます。ル・コルビュジェが近代5原則の1つとして提案していますが、その1つ「自由な立面」と表裏一体の格言です。先にも言及しましたが、西欧では壁構造が構造形式として主流でした。それが近代化のプロセスの中で柱梁の鉄筋コンクリート造が発明されたことで、壁に建物の荷重を負担させない形式が出現して、自由に立面がつくれるようになりました。水平連窓が技術的に可能になったことで、室内から水平に広がるパノラミックな景観が享受できるようになりました。

4-14. 窓 (12)

ここまで「引き違い」と「開き」の差を中心に開き方を考えてきましたが、その他の窓の開き方も基本的にはこれらスライド系と回転系の2つに分類されると概ね考えてよいかと思います。いくつか引き続き例を考えていきます。
「引き違い」が2枚の障子が相互にスライドする形式でしたが、1枚はスライドしてもう1枚はフィックスの「方引き」[single-hung sash]があります。スライドする1枚が戸袋を兼ねたようなフィックス側に動くというものです。水平連窓に対して部分的に開口部をつくりたい時などは、引き違いにする意味がないので方引きにしてしまうということがあります。
またスライド方向が水平ではなく鉛直方向の「上げ下げ窓」があります。上下に並んだ2枚の障子が互いにワイヤーで繋がれていて、一方を上げるともう一方は下がるという構造になっています。窓の荷重を受けながら上げ下げするのであまり操作性は良くないです。
また回転系で考えると、軸が下にあり内側に開く「内倒し窓」や外側にひらく「外倒し窓」があります。火災時の排煙の際に開かせる排煙窓には度々「外倒し窓」が使われています。
また、「ジャロジー」というのも回転系の窓として考えられるでしょう。ベネチアンブラインドのように羽を回転させることによって開閉するものです。特に気密性は良くないので気候の良い場所で元々使われていたものですが、浴室の換気のためなどに使用する例も見られます。

図4-14-10:ジャロジー

図4-14-10:ジャロジー

その他、内倒しと内開きを使い分けられる「ドレーキップ」や軸を上枠に付けて外開きの「突き出し窓」、スライド系と回転系を合わせたような「滑り出し窓」など開閉の仕方によるタイプは考えられます。

4-14. 窓 (11)

ここまで引き違い窓=日本の対立項として、開き窓=西欧として位置づけていました。開き窓の場合は英語では[casement]あるいは[hinged window](=蝶番付き窓)になります。ここで想定していたのはいわゆるフレンチウィンドウです。いわゆる観音開きの窓と考えれば良いでしょうか。

図4-14-9:フレンチウィンドウ

図4-14-9:フレンチウィンドウ

引き違いと同じく2枚の障子から成りますが、両サイド鉛直方向に軸があり、軸を中心として内側に開く構造です。西洋の古くからの街並ではほとんどがこのタイプの窓ですので、街並のリズムをつくる最たる要素だと言っても良いかと思います。この開き方の場合、引き違いに比べると気密性が高く、つまりすきま風が少ない作りです。窓の作り方としては、水の浸入を防ぐための返しをつくれない内開きは不利に思えますが、水密性ももちろん引き違いに比べると高いので、障子にかかった水が外に出るように、障子が当たる下枠の上に枠の外に水を流す部材を付けているだけで、水の処理をしているものが多いです。もちろん日本に比べて雨が少ないので、雨漏りに対してシビアではないという部分もあります。(あるいは古い建物が多いので雨漏りはするものだと割り切っていて、そこまで雨漏りに厳しくないというところも一方の事実としてあるように思います。)

4-14. 窓 (10)

少し話が逸れるかもしれませんが、引き違い窓に関して言えば、その障子の動き方が開き系の窓とはずいぶん違った挙動だと考えられます。伝統的な日本建築の場合、ガラスが建具に使われるようになったのは近代前後のことだと思われます。それまでは、障子(この場合は伝統的な日本建築で言うところの障子)や襖に使われるような紙や雨戸に使われるような木がグレージング部において主たる材料となっていました。特に西欧と違うのは紙を使うことで、現代的な感覚で言えば断熱性能が極めて低く、冬のことを思えばとても寒々しい素材です。意匠的にはうっすらと外光を取り入れることはできるので、デメリットだけの素材という訳ではありませんが。いずれにせよ、そのような極めて軽い素材を建具に使用するということは、建具が軽くなるということです。一方で西欧は古代から窓にガラスを使用していましたが、それは単純に紙と比較してしまえばとても重い素材です。ここで引き違い窓の開き方を考えた際に、もし障子に分厚いガラスが嵌められていて思いものだとしたらスライドして開けるということが、それほど容易ではないということは想像に難くありません。よくよく思い出してみると、普通に使われている木と比べて、障子に使われている木は何となく柔らかくて軽いものだったと思えないでしょうか。一方で西欧的な回転系の開き方を考えると、多少障子が重かろうが軸を中心として容易に回転できます。さらにこの場合、高さ方向が長く幅が狭いとモーメントが小さくなるので開き易く、一方で幅が広いものはモーメントが大きくなるので開けるのが大変になるということも想像していただけると思います。つまり西欧的な間口が狭くて高い建具(窓、扉)は回転系の開き方に対してはとても有効で、一方で日本的な間口が広く、軽い建具は回転系というよりもスライド系の開きをした方が有効であるということが力学的にも理解できます。

4-14. 窓 (9)

また別の水準での窓の分類を考えると、開き方ということがあります。この開き方に関しては、扉と重複することが多いです。
まずは開く窓に対して、開かない窓である「嵌め殺し窓」[fixed window]が考えられます。えらい物騒な名称に聞こえますが、建築の言い回しで「殺す」というのに「動かない」という意味があります。嵌めて動かなくした窓だから嵌め殺し窓という訳です。開かないので当然通風は期待できませんが、採光や眺望は期待できます。高層ビルなどで窓からモノを落としてしまったりすると危険なので嵌め殺しにしている場合やホテルなどでは飛び降り自殺防止のために嵌め殺し(あるいは少ししか開かない窓)にしている、という理由も現実的にはあったりします。
また「引き違い窓」[double-hung window]は日本では住宅などでもよく用いられるよくみる開き方のパタンです。というのは、欧米の建築では日本ほど一般的に引き違い窓が流通していません。はっきりとした理由は分かりませんが、恐らく歴史的に木造で在来構造が主流で、1間(長さの単位、1間=6尺)を単位としたスパンで柱が並ぶので、その距離を全て建具としてつくれるのに対して、西欧の建築では石を積んだ壁構造が主流で、開口部の上はその上の荷重を受けるマグサのスパンで開口部の幅が決まりました。当然、石の壁の荷重を受けるマグサは長い距離を飛ばすことが出来ずに、必然的に縦長の窓になりました。引き違い窓にする場合には左右に障子を動かして、障子を互いに重ねる形で開けることになるので、スパンの半分しか実質は開きません。こういったことで西欧の近代以前の建築には引き違い窓が向いていなかったという事実があるかと思われます。逆に日本建築では十分にスパンが取れているので、引き違いにして半分しか開口部として利用できなくても、それで十分であったと考えられます。あくまでも想像ですが、そんな建築のバックグラウンドが未だに窓の開き方のスタンダードとして息づいているのかもしれません。