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3-4. 近代日本のオフィスビル (2)
このように日本にも近代化の流れの中で明治期からオフィスビルがつくられ始めましたが、以前のビルディングタイプの項でも述べましたが、当初はオフィスビルというビルディングタイプそのものが成立していなかったので、欧米諸国と同様にそれ以前の建築の様式をリプロダクトするという歴史主義的な意匠としていました。
上図は明治37年、1904年に竣工したといわれる旧横浜正金銀行本店の建物です。銀行ということなので窓口業務などもあったことでしょうし、純粋なオフィスビルとは言い難いところもありますが、それにしても現在から見るとネオバロックの様式の特徴がとても強く出ている建物です。角地を隅きりしてそこにメインエントランスを配し、ジャイアントオーダーで3層に渡る建物の外観を力強くまとめています。この建物をネオバロック足らしめている要素として最も強い要素はドームの屋根でしょうか。正確な半球ではなくて少し高さを取ることで、周囲からも銅板で葺かれた屋根が見えるようになっています。八角形の辺それぞれに丸窓が配置されており、屋根の重さを軽やかに見せる意匠になっています。
3-4. 近代日本のオフィスビル (1)
19世紀の中頃以降、幕末から明治期にかけて欧米からの少なからぬ影響によって近代化が進んだ日本ですが、建築も同様に一気に近代の道を歩み、現在建てられている建築物のルーツは伝統的な日本の建築というよりも、その当時を源流と考えた方が良いでしょう。以前にも書きましたが、欧米も同様に産業革命以降は近代化の道を歩み始め、19世紀には新しいビルディングタイプが数多く生まれています。以前に取り上げた例として、駅舎というビルディングタイプは汽車が使われるようになって必要となった建物で、技術の革新がもたらしたタイプだといえます。また、工場は資本家が多くの労働者を一ヶ所に集めて商品を製造する場所として、その目的に最適化した建物が工場というビルディングタイプが出来たかと思われますが、この労働者を集めて生産活動を行うということが産業革命以降の経済のあり方をバックグラウンドとしたものです。そのように考えると、会社がオフィスのみを用途とするようなオフィスビルも恐らくその時代の産物で(というのは、オフィスでされるようなデスクワークをすること自体はそれ以前にもあったので)、それも会社組織が生産活動をするようになってのことです。
4-14. 窓 (16)
窓の位置を考えた時に壁や天井ではなくて、こんなところに!というのがアトリエワン設計の「ガエハウス」です。
大きくせり出した屋根の裏側、軒天に水平連窓が取り付いています。軒天窓とでも呼べば良いでしょうか。太陽光が直接入ってくることは当然ありませんが、建物周囲の緑などから反射した光が室内に入ってきます。ここにはインテリアの写真はありませんが、天井にあたる個所はシルバーの鋼板なので、室内に廻ってきた光はさらに反射するので、外観上は閉じたようにみえるところですが、じつに程よく外の環境が室内に入ってきています。またインテリア側からみると腰壁の高さにこの軒天窓があるので、周辺の住宅地の建て込んだ環境に対して直接対峙するのではなくて、足下廻りを見るような風景の取り込み方をしています。隣地側の植栽や前面道路などが見えてきますが、ちょっと不思議な距離感が魅力的な窓のつくり方です。
このように素材、開き方、位置などによって窓についていくつものパタンのあり方が考えられることがわかります。そしてそれらがとりもつ内外の関係のあり方は多様であることも分かります。引き続いて、具体的な建築物を通して窓のあり方を考えていきたいと思います。
4-14. 窓 (15)
窓の位置について話が戻ります。
普通の壁に穿たれた窓ではなくて、壁から飛び出した窓というものも考えられます。日本語で「出窓」と呼ばれますが、弓[bow]や湾[bay]のような平面から[bow window][bay window]と呼ばれます。
壁構造の間口を小さくしか取れない窓に対してより広い面で開口部を取れるようにということで、壁から平面的に突出することによって外部への接触面積を増やしています。
また、壁ではなくて天井(あるいは屋根)に窓が取り付くものを「天窓」といいます。採光を取るという意味では太陽の位置を考えると天窓は壁に取り付く窓よりも効率的です。
上の写真の例はローマにあるパンテオンですが、窓というよりもガラスが入っていないのでただの穴なのですが、全体のボリュームに対してドームの頂部に小振りな穴があいているだけで柔らかい光が建物のインテリア全体に廻っています。先述の内容と関係しますが、ドームの頂部にぽつんと穿たれた穴は、それこそある種の象徴性を感じざるを得ません。キリスト教が入る前のローマの神々を祭るために建てられた神殿なので、人ではなくて神の居場所としてつくられたことを考えると、その象徴性も納得です。
4-14. 窓 (14)
ここでまた話が脱線しますが、水平と鉛直の違いを考えておきます。鉛直方向とは即ち重力の方向をさします。水平はその方向から直行する面が考えられます。この鉛直方向に対抗して建物を建てる、つまり高い建物を建てるということについて、ある種の象徴性を帯びたものになるということは、古今東西を問わず私たちが感ずるところです。「天には神が存在する」といった類いのアレゴリーは世界中の地域に関わらず語られるようなことですし、現在でも超高層ビルの高さの世界一を競うということは、このある種の象徴に近づいていこうとする姿勢の現れのように思います。一方で水平方向は象徴性というよりも、より人間的なものを感じるように思います。鉛直方向は重力があるのでいくらジャンプをしても届かない高さはあるし、すぐに地面のレベルに戻されてしまいますが、水平方向は自らの足で移動して自分の手の届く範囲とすることが出来ます。
ここで水平連窓に戻るとして、視線を水平方向に連続できるというのは、周辺にある建物やランドスケープの要素を連続的に捉えることができるということです。基本的には私たちの世界は水平方向に広がっているものです。いくら鉛直方向に連続する窓をつくっても、すぐに天を見上げることになります。
水平連窓はこのような意味で、ヒューマニスティックな建築の言語だといえると思います。近代5原則の中で「自由な立面」の中でフォローできている範疇の内容のように思えますが、そこから切り離して1つの項目としているのはそのような強い意味があるからだと考えられます。