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5-7. 鉄 (5)

以上が古代までの鉄の精錬法でしたが、中世に入ると空気を送るふいごについて、人力ではなくて水力による、つまり水車によるふいごが考案され、それに伴って炉のサイズも大きくなりました。シュトゥック炉と呼ばれる中世の炉は8世紀頃から登場し、高さが3〜4mほどもあったと言います。当然、生産される鉄の量も数百キロということなので、ふいごとともに生産した鉄を移動させたり、不純物を取り除くために打つ作業も水力を利用したそうです。ちなみにこれまでの炉は製鉄の度に炉を破壊しなければ、炉中で精錬した鉄を取り出すことは出来なかったそうです。大量の鉄を生産するためには、その都度、炉を破壊しなくても良い方法を考える必要がありました。
中世が終わり、西ヨーロッパがルネサンスを迎える頃、鉄の精錬法にもひとつの発明がありました。精錬の度に壊さなくても良い高炉が発明されました。大きな違いは鉄が溶けるほどの高温状態に温度を上げ、炉の中で溶融したものを収集して使うということとなり、炉を破壊しなくても鉄を精錬できる工程になりました。そして、それまではマキを燃料としていたものを木炭に変えたということで、このような高温の炉を実現するに至りました。
ところでこの場合の還元は高温状態でなされるので、鉄にかなり炭素が混じることとなりますが、それを銑鉄と呼びます。先述の通り、炭素の少ない錬鉄は固くてもろい一方、炭素の多い銑鉄は柔軟性はあるけれど柔らかいというデメリットがあります。基本的にはその中間の鋼程度の材性が色々な製品に使い易いということで、銑鉄の場合はさらに1工程を経て、炭素を除去して鋼をつくるという流れになります。

5-7. 鉄 (4)

古代における鉄の精錬法はルッペやレン炉と呼ばれる低シャフト炉(直径0.4〜0.5m、高さ1m程度の炉)を利用したもので、1日に数キロ程度しか精錬できなかったようです。バーベキューなどを想像すれば分かりますが、このような炉に十分な火を得るためにはいかに酸素を送って燃料を燃焼させるかが重要になってきます。当初は風の強い場所に炉を作るというパッシブな考え方をしていたようですが、そのうちにふいごを使って炉に空気を送るようになります。当初は手、その後足踏みによるふいごが考えられました。

図5-7-1:ふいご

図5-7-1:ふいご

足踏みのふいごに関しては、映画「もののけ姫」のたたらばで女性たちがロープにぶら下がりながら踏んでいた板を思い出せるでしょうか。
さて、このように精錬された鉄は溶融するまでの温度には達せずに、還元のみなされるので、塊のままの海綿状の鉄(海綿鉄)が残るそうです。それがルッペと呼ばれます。

図5-7-2:海綿鉄

図5-7-2:海綿鉄

このままだと炉内の温度で溶け出さない物質は不純物として残るので、改めてルッペを加熱してハンマーなどで叩くことでスラグなどの不純物を取り除くと同時に、道具の形に成型していきます。古代の遺跡で発見された鉄製品がいつもボコボコの印象があるのは、製造過程においてハンマーで叩かれて成型するという成型のプロセスによるところが大きいように思われます。

5-7. 鉄 (3)

まず隕鉄についていえば、紀元前3500年のエジプトにおいてビーズとして使われた記録があります。隕鉄は天国から賜ったものと見なされて、教会で祭られることもありましたが、道具としてとりわけ鋳造されて兵器として使われたと考えられています。エジプト以外にもヒッタイト(トルコ)やメソポタミア、インドにおいても同様の記録が残っているようです。
時期的には石器時代の後、青銅器時代の半ばあたりから以上の文明において鉄器の生産が始められたようで、次の時代の鉄器時代を迎えるという流れが考えられます。ちなみに意外にも中国に鉄が見つかったのは紀元前700から500年頃のようで、中央アジア地域から比べるとかなり後になります。日本には中国を経由して既に鉄となっているものを輸入していたので、鉄を自らつくれるようになるのはさらに後の時代となります。
これらの時代に製造されていた鉄の種類は錬鉄と呼ばれる、炭素の含有量が少ないものです。鉄鉱石としての鉄は酸化鉄としてしか地球上には存在せずに、鉄にするには還元して酸素を取り除く必要があります。還元の化学反応を起こすには高温状態にしなければならず、鉄鉱石を炉に入れて加熱することになります。炉を加熱する際に昔は木を炊いていたので、二酸化炭素、一酸化炭素が生成され、その炭素成分が酸化鉄の酸素を吸着して純粋な鉄を取り出すことになります。その温度が元々はあまり高くなかったので、炭素成分が鉄にあまり混じっていない錬鉄が作り出されることになります。炭素が混じっていない錬鉄が良いように思えますが、炭素量が少ないと固いけれど脆い鉄になってしまいます。

5-7. 鉄 (2)

さて、建築一般に使われる鉄については、鉄鋼や鋼材などと言われますが、これは鉄の種類を示しています。鋼(はがね)の元来の語源は刃金から来ており、読んで時の如くカタナをつくる鉄を指して刃金と読んでいました。刀をつくる際には鉄を熱して叩くことを繰り返して、刀の中にある炭素の量を調整し、不純物を取り除くことによって現在の意味での鋼に近い炭素量の鉄をつくったようです。その現在で言う鋼は0.3〜2.0%の炭素を含んだものを指しており、多かれ少なかれ炭素が含有することから合金の1つであると考えられます。実際に建築物で使われる鉄骨にはこの鋼材を用いますが、クロムやニッケルなどの添加物を加えることによって、特殊な材性を持たせるようなこともできるので、幅広い用途に使われています。ちなみに英語で考えてみると[iron]と[steel]という言い方がありますが、これは日本語において鉄=[iron]、鋼=[steel]と対応しています。
さてここで一旦歴史を振り返ります。このような現在使われている鉄鋼が工業的に生産できるようになったのは19世紀中頃の話で、一方で先述の隕鉄のように先史時代から人類は鉄を生活の中で様々な形で利用してきました。その流れはひとつには鉄の種類と製鉄の仕方を追えば良いでしょう。

5-7. 鉄 (1)

5.オフィスビルの素材

建築物を構成する素材として、一番始めに思いつくものは構造材料です。日本では主に木造、鉄骨造、鉄筋コンクリート造があります。(それ以外にも一般的にコンクリートブロック造などもありますし、実験的なものとしてアルミニウム造、竹造というのもつくられたことはあります。)これまででは2-3.「近代/ビルディングタイプ」の稿で僅かながら鉄について書きましたが、今回改めてオフィスビルを構成する素材としての「鉄」にスポットを当ててみたいと思います。
化学記号で言えば言わずもがな「Fe」の鉄ですが、現代においてはありとあらゆるところで使われています。金属の中でも最も身近なもので、例えば金属を種別するのに非鉄金属という言い方がありますが、鉄か鉄でないかが金属の分類の1つの考え方となるほどです。地殻の5%を占めるそうなので、相当量の鉄が現実的に身近に存在していると考えても良いでしょう。また地球に限ったことではなくて、宇宙にも鉄は存在し、隕石として地表に落下して来る隕鉄と呼ばれるものもあります。もちろん純度が高いものではないですが、製鉄技術がまだなかった先史時代では道具として使われたり、宇宙から落ちてきた異物であると分かると宗教的な意味合いを付与されて重宝されたようなこともあったようです。特にロシアやインドのムガール帝国などには流星刀と呼ばれる、隕鉄を材料とした刀剣がつくられて皇帝に献上されたりしたようです。実際には不純物も多く含み、刀にするには不適当な成分なようですが、やはりどちらかと言えば魔刀的な特別な意味合いがあったようです。