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5-8. コンクリート (17)
その力学的特性を補うように考えたのが鉄筋コンクリートでした。例えば両端を柱でさせられている梁があったとして、その中心付近に鉛直方向に力がかかったとします。地球上では当然、重力があるので鉛直方向に荷重はかかります。その時に梁が弓のようにしなることを想像すれば、梁の上側には圧縮力がかかり、下側には引張り力がかかるのがイメージ出来るかと思います。そうすると普通のコンクリートであれば下側から裂けるように梁が破壊されてしまいます。その力を補うために引張りに強い鉄筋を入れてあげることによって、引っ張られる力に対して鉄筋が耐えて、破壊が防がれます。力学的にコンクリートの弱い部分を鉄で補うということです。英語でも[Reinforced Concrete]は「補強されたコンクリート」を意味します。
ところで話が変わりますが、麻雀をするとき初めに牌を並べて積みますが、2段に積む際に両手で牌の並びの両端を押さえつけることで、つるつる滑る牌を並べたまま浮かせることが出来ます。なんとなくそんなイメージをすれば良いでしょうか。プレストレス・コンクリートという種類のコンクリートがあるのですが、バラバラになり易い(引張りに弱い)コンクリートにPC鋼線という特殊なワイヤーのようなもので力をかけて強化するというものがあります。一般的にはコンクリートの施工は型枠を組んで、配筋をしてから、コンクリートを打設しますが、その前にテンションをかけたPC鋼線を仕込ませておきます。固まった後、それらを解放するとPC鋼線が縮む方向に力が加わるのでコンクリートに圧縮力がかかります。これはプレテンション方式ですが、コンクリート打設後にテンションをかけるポストテンションという工法もあり、いずれにせよ圧縮力を加えることで例えば梁のたわみを軽減するという力学的な効果が得られるわけです。
5-8. コンクリート (16)
ここまでは主に鉄筋コンクリートについて述べてきました。
そもそもコンクリートがなぜ固まるのかをおさらいします。まずコンクリートはセメント、骨材、水を混ぜてものが時間をかけて固まります。セメントは粉末状のもので、これに水を混ぜることで糊のような役目を果たして、骨材同士を繋いで固まります。一般的に骨材は細骨材として砂、粗骨材として砂利が使用されますが、骨材そのものは必ずしもそれらのものでなくても、あるいはなくても固まりはするわけです。そのように骨材なしでセメントと水を混ぜたものはモルタルと呼ばれます。ところでセメントの成分を化学的に捉えると、ケイ酸カルシウム、アルミン酸カルシウム、鉄アルミン酸カルシウムと呼ばれるもので、水を加えた時に水と水和反応という化学反応を起こして水和物を生成し、反応が進むとセメントゲルと呼ばれる結晶を形成するようです。化学的な説明は以上のようになりますが、いわば骨材が接着剤のようなモルタルで結びついている状態がコンクリートだと単純化して考えると、その力学的特性が引張りには弱く(糊が剥がれ易い)、圧縮には強いということは何となくイメージがし易いかと思います。
5-8. コンクリート (15)
またコンクリートの構造表現としてシェル構造というものがあります。代表的なものは誰でも写真で見たことがあろうヨーン・ウッソン設計のシドニーオペラハウスです。
1955年に行われた国際コンペでエーロ・サーリネンがスケッチ程度しか描かれていないヨーン・ウッソンの作品を当選案にしたという逸話が残っています。シェル構造というのは、貝殻[shell]のように薄いけれども、そのものに加わる外力が曲面に沿うかたちで圧縮方向の軸力に作用することによって強度を保つという仕組みの構造で、そういう意味では球体、アーチなどと基本的な力の考え方は同じかも知れません。いずれにせよ、コンペ以前にサーリネンはシェル構造の構造的可能性を十分に理解していたでしょう。コンペで当選したウッソンはスケッチを完成させるのに、原案から調整を重ねて現在完成しているシェルの形にたどり着いたと言われています。
一方、コンペでウッソンを選んだサーリネンはというと、1962年のJFK空港のターミナルビルや1955年のマサチューセッツ州工科大学の音楽ホールを、シェル構造を使った屋根の架構とすることで、以前には見られなかったダイナミックな建築の屋根を実現することに成功しています。
5-8. コンクリート (14)
ブルータリズムのブルータル[brutal]の意味は「粗野な」「乱暴な」ですが、これはイギリスの建築史家レイナー・バンハムが彼の著作の中である一連の建築の傾向を指すのに[new brutalism]という言葉を使ったのがきっかけとされています。彼が念頭に置いていたのは後期のコルビュジェの作品などで、コルビュジェ自身は[béton brut]即ち「生のコンクリート」という言葉を使って、コンクリート打放しの荒々しい表現のことを指していました。例えば、彼の後期の作品であるユニテ・ダビタシオン[unité d’habitation]やインドのチャンディーガール[Chandigarh]の議事堂などを見てみればその傾向が見て取れます。
また、イギリスのアリソン&ピーター・スミッソン夫妻の作品群などもブルータリズムの流れの中で説明がなされますが、コンクリートの荒々しい質感が一定の単位が繰り返される建築の表現と結びついているという点が指摘されるかと思います。コンクリートからは離れますが、他にもブルータリズムの建築家として、ジェームス・スターリングが挙げられますが、彼もレンガや鉄、ガラスといった素材を荒々しく対峙させることで独特の世界が表現されています。
5-8. コンクリート (13)
またサヴォア邸では屋上庭園が2階まで降りてきているのがファサードの写真から分かります。外壁に穿たれた水平に長い穴は向かって左側はリビングの窓に対応していますが、中2つと右側のスパンは窓枠がなく、外部空間であることが分かります。自由な立面と屋上庭園が複合的に重なっていると考えてよいでしょう。その背後にはスロープが見えて、屋上に庭園が連続していく様が見て取れます。
コンクリートから逸れて内容が「近代建築の5原則」に偏ってしまいましたが、このように近代建築と呼べるものを達成できた技術的バックグラウンドは一重に鉄筋コンクリート技術の発展があったと言って間違いはありません。木造や鉄骨造であっても基礎は鉄筋コンクリートで造ることが殆どですし、現代の建築を建てる上での技術的な大前提です。
1920年代にコルビュジェを筆頭にその他の建築家も鉄筋コンクリート造の建築物がより一般化されていますが、第二次世界大戦を挟んでその後、大きく展開したのはブルータリズムあるいは構造表現主義(ハイテク建築)などと言われている50年代以降のムーブメントでしょう。