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8-5. 地区計画・総合設計制度 (9)

一方で721地区中119の地区が「特例的な活用」と呼ばれている法第12条の6〜11の枠組みによるものです。面積にすると3,591haとなり地区計画の区域の20%弱の面積になっています。繰り返しになりますが、これらの地区計画を活用すると容積率の緩和や道路斜線制限の緩和を受けられるので土地の高度利用を考えている事業者、地主などにはありがたい制度と言えるでしょう。一方で、ただ事業者等にメリットがあるのではなく、例えば都心部で居住者人口が減っているエリアに住宅を誘致する代わりに容積率の緩和を受けられる。その結果、夜間人口が増えて治安の維持に貢献するといったことや行政側が住民税を確保できるといったその地域にとってのメリットも同時にある、というのがここでの地区計画の考え方です。
ところで地区計画については行政側の姿勢も活用するかどうかははっきりと分かれそうです。東京都の23区に限ってみてみると、世田谷区が62地区、1214.7haを地区計画地域と指定していて、次いで足立区が40地区、1112.7haを地区計画としています。世田谷区の広さは5800haなので20%強のエリアは地区計画に指定されている計算です。また62地区中3地区のみを特例的な活用を取り入れており、ほとんどの場合は防災や良好な住環境を形成するために定められたものです。一方で足立区の地区計画40の内、23は特例的な活用で、その中でも20が誘導容積型です。これは下町で狭隘道路が多い地域なので防災上の観点から、建物の道路境界からのセットバックを促してなるべく道路を広げようとするものです。この方向性をより効果的に促すために容積誘導をして、セットバック後のみなしの道路を基準に容積率を換算するというものです。例えば指定容積率が300%あったとしても、全面道路が4mだと240%(4×0.6×100%)しか建てられませんが、6mを前提として道路境界から1mをセットバックすることによって指定容積率の300%(<6x0.6x100%=360%)まで建てられるようにしましょう、というものです。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (8)

以上の都市計画法第12条の5を基本的な枠組みとして、法第12条の6〜11において先述した地区計画の特例的な活用というものが位置づけられています。法的な枠組みとしては大雑把には以上のような感じです。
では実際のところ、地区計画はどの程度活用されているのでしょうか。東京都都市計画局のHPをみてみると、これまで述べてきた地区計画については都内において、地区数が793地区、地区の面積としては15,924haとなっています。東京都全体の面積が219,000haなので実に7%の割合で地区計画がかかっている計算になります。都内に住んでいる方は自宅が地区計画区域内である可能性も十分にある訳です。
一方、この793地区の内訳を見てみると、721地区が地区計画、72地区が「再開発等促進区を定める地区計画」で、721のいわゆる普通の地区計画の中でも602が「一般的な活用」と呼ばれる法第12条の5で位置づけられている地区で、11,000haを占めています。この枠組みは建物を建築する際には建築基準法の規制(集団規定について)からさらに条件を厳しくすることで、その地区の都市環境を良好な状態に保とうというものです。そういう意味ではディベロッパーなど、経済的に不動産の活用をしようとしている方にとってはありがたくない規制でしょうが、実際にそこに住む住人にとっては環境が保持されるということで地区計画をうまく活用できるようにするとよいでしょう。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (7)

地区計画については、都市計画法12条の四において、
「第12条の四 都市計画区域については、都市計画に、次に掲げる計画を定めることができる。
一  地区計画
…(中略)…
2 地区計画等については、都市計画に、地区計画等の種類、名称、位置及び区域を定めるものとするとともに、区域の面積その他の政令で定める事項を定めるよう努めるものとする。 」
というように、地区計画が都市計画区域の1種であることが位置づけられています。上記で中略としたものは、防災整備地区、歴史的風致維持向上地区、沿道地区といったものです。
続いて、第12条の五を地区計画として、「建築物の建築形態、公共施設その他の施設の配置等からみて、一体としてそれぞれの区域の特性にふさわしい態様を備えた良好な環境の各街区を整備し、開発し、及び保全するための計画」を策定するための文言が並んでいます。1項から8項まであるのでこの場で全てをフォローはしませんが、建築については「地区整備計画」の位置づけの下で7項において、配置、規模、用途制限、容積率、建蔽率、敷地面積の最低限度、壁面位置の制限、工作物、高さの最高限度又は最低限度、形態または色彩その他意匠の制限、緑化率の最低限度を定める異が出来るとしています。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (6)

ここまで紹介してきた地区計画の法的要件を整理したいと思います。まず地区計画が法的に位置づけられているのは建築基準法ではなくて、都市計画法となっています。元々、建築基準法では与えられた用途地域、その中で位置づけられる建ぺい率や容積率、建物の高さなどについてどのような形でフォローしなければならないかを示しているのであり、それぞれの数値等を具体的に示す内容は建築基準法内では述べられていません。実際には都市計画法を基にして、都市計画区域が行政によって策定されています。そういう意味で地区計画は建築基準法の内容を読み替えるようなものではなくて、各用途地域内で位置づけられている数値をある一定の条件にします、あるいは一定の条件を緩和します、といった内容が示されています。
建築基準法では建物自身の安全性や衛生についての規定と当該建物を含めた周辺の建物や場所との関係の中で定められている規定があります。前者が単体規定と呼ばれるもので、構造、採光・通風といった居住性能、防火、避難といった内容がそれにあたります。一方で用途規制、斜線や絶対高さなどの高さ制限、容積や建蔽率といった建物規模に関する制限や接道義務などの道路と敷地の関係に関する規定など、建物とそれ以外の関係から規定される制限があり、それらを集団規定と呼びます。後者の集団規定に関しては都市計画法との兼ね合いもあり、具体的には地区計画は都市計画法の中で謳われて、その関連の中で基準法をベースにして実際の運用がなされるということになっています。

初めに選ばれる建築設計Ⅰ 建築設計業務の内容⑥

基本計画の実例紹介①

基本計画の具体例として、渋谷駅正面、センター街に面する敷地での商業施設の例を挙げてみましょう。当然ですが、渋谷のセンター街は商業施設としては日本でもトップレベルの価値を有する立地です。その経済的効果を最大限発揮できるよう、空間を最大限利用できる基本計画が求められます。

現地調査、法的調査を行うと、用途地は南側に凹凸があり南北に長い敷地で、間口の狭い形状です。
指定容積率を調べると800%ありましたが、前面道路が10mでしたので許容容積率は600%となってしまいます。用途地域は商業地域なので隣地斜線は厳しくありませんが、10m幅の前面道路からの斜線で建物高さが決まってしまうからです。
矩形に近い敷地形状から、天空率による斜線制限の緩和は使えないと判断して、セットバック距離と建物高さ、それによって活用出来る容積率を最大化するように検討します。
この結果、商業地であることから地下1階も活用しつつ、3.5mのセットバックをとることによって地上7階まで建てられることを確認しました。
この段階での検討資料は次のようなものになります。

基本計画の実例紹介①