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8-5. 地区計画・総合設計制度 (19)

また総合設計においては公開空地以外にも有効空地、住宅、環境性能、防災施設といった内容が多角的に評価されます。有効空地というのは、敷地内に歴史的価値のある保存するべき建築物がある場合に、そこについては空地として評価しましょうといったこと、あるいはある程度低い位置にある屋根面は一定の係数をかけて空地として評価するといったことです。ただ建物が建っていなければ空地とするだけでなくて、弾力的に空地あるいはその上に空いているスペース(空所、といっても良いでしょう)を評価しようという方向性です。
また環境性能は再生可能エネルギー利用や環境負荷の低減を推奨する試みで、住宅用途または非住宅用途に分けてそれぞれの条件が定められています。防災設備についても、防災備蓄庫の有無、自家発電施設などの内容を評価するものです。このように総合設計では建築基準法が評価しないような内容についても包括的、多角的に建築物を評価しようという試みです。この制度が都市的にインパクトの大きい一定規模以上の開発に限っているのは実際の運用上仕方がないことかもしれませんが(許認可の手続きが一般の確認申請に比べて煩雑になるので)、規模の大小に関わらずこのような多様な評価を建築物に与えていくというのは良い試みだと思われます。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (18)

さて繰り返しになりますが、総合設計では容積率と形態の制限(斜線制限)の緩和が一定以上の空地を確保することにより得られるということになっていますが、要綱の章立てとしては緩和の具体的な運用は後回しにして(4章および5章)、まずはそれ以前の計画の条件が定められています。2章の計画要件と3章の計画基準がそれにあたります。
先に挙げた総合設計の種類に応じて細かい条件が違ってきますが、まずは2章で共通の要件として羅列されているのが、適用区域(すなわち都市計画区域内であること)、空地率の最低限度、接道の長さ、公開空地の最低限度、歩道状空地および広場状空地、外壁のセットバックといった内容です。以上は共通の条件が定められていますが、それ以外に総合設計の種類ごとに適用区域、敷地面積の最低限度、全面道路の幅員などがそれぞれの内容に応じて定められています。
続いて第3章では2章で挙げられた項目ごとに具体的な内容が基準として書かれています。例えば、公開空地には歩道状空地、貫通道路、アトリウム、水辺状空地、広場状空地などがあり、歩道状空地ならば幅員が3m以上なくてはならない、あるいはアトリウムは幅が30m以上あり、地上から天井までも30m以上なければならない(!)といった内容です。また総合設計においては、これら公開空地に対する質を定量的に評価する内容も含まれており、例えば歩道状空地は長ければ長いほど歩道として有効であると判断されて、それに応じた係数が評価される面積に対して乗算されるというのも注目すべきポイントです。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (17)

「共同住宅建替誘導型」は「良質な住宅ストックの形成に資することを目的として、…、建築後30年を経過した…共同住宅である建築物を建て替える計画…」とあります。「良質な住宅ストック」と「建築後30年を経過し」ていることの価値がどのように相反するのかが明らかにされることなく、暗黙の了解のうちに位置づけられているものと筆者は感じてなりません。これはかなり不動産的な資産価値を念頭においた枠組みと言えるもので、基本目標の内容を顧みているようには思えないものです。
「都心居住型」は地区計画でもありましたが、都心部における夜間人口の減少に対する策であることは明白です。
「業務商業育成型」は「新しい都市づくりのための都市開発諸制度活用方針」という都市整備局が策定した指針の中で位置づけられたものと連動した枠組みのようです。これまたこの指針が非常に込み入ったものなのでここでは割愛します。
何はともあれ、このように5つのタイプの総合設計の型が示されてはいるのですが、地区計画のように地域の特性に合わせて個別に対応するのではなく、相対的に大上段に構えたテーマを基本目標で羅列しているせいで、それぞれのタイプの特色がはっきりと見えてきていないのが残念なところです。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (16)

とはいえ、容積率と斜線の制限緩和はあくまでもご褒美であり、総合設計の目的はというと大きくは都市環境を整備することにある訳です。1章1−2の基本目標には市街地環境の整備改善、良好な建築・住宅ストックの形成、防災強化、福祉のまちづくり、職住バランス、少子高齢化対応、緑化、低炭素社会など、大雑把にどう転んでも悪くはなさそうな目標が羅列されています。これらの対応策を総合設計の要件の中に盛り込む代わりに、ご褒美である容積率、斜線制限緩和を許可するという理解で良いかと思われます。
引き続いて要綱の中には用語集があり、その中で総合設計の種類が位置づけられています。それらは「一般型総合設計」、「市街地住宅型総合設計」、「共同住宅建替誘導型総合設計」、「都心居住型総合設計」、「業務商業育成型総合設計」の5種類となっています。「一般型総合設計」については特に何かしらのテーマに特化したものではありません。
「市街地住宅型」は「市街地住宅の供給の促進に資することを目的として、…」とありますが、具体的にどのような事例が想定されているのかはここではよくわかりません。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (15)

それでは総合設計制度の具体的な枠組みを俯瞰していきたいと思います。法的な根拠は先述の通り建築基準法に由来し、それに即して国土交通省(旧建設省)から運用についての通達が出ているものの、実際的な業務は東京都内の案件については東京都の管轄となっています。ここでは東京都都市整備局が発行している「東京都総合設計許可要綱」を参考にします。
ところで地区計画は東京都内では市区町村単位で枠組みが決められており、その内容は概ねA3用紙で1〜2枚でまとめられていることが多く、とても簡潔で理解しやすいものがほとんどです。一方でこの「東京都総合設計許可要綱」については、東京都都市整備局のホームページからダウンロードできますがA4用紙で43枚にわたるもので、その枚数に比例してか内容も複雑で一瞥しただけでは性格にフォローするのは難しいものです。ここではその内容を断片的にかい摘んでいきます。

まずは目次を眺めると、
1章、 総則
2章、 計画要件
3章、 計画基準
4章、 容積率制限の緩和
5章、 斜線制限の緩和
6章、 雑則
となっており、一見したところ容積率制限と斜線制限の緩和を目的とした制度であるというのは理解できるかと思います。