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8-5. 地区計画・総合設計制度 (12)

ここまで議論してきた地区計画のように、建築基準法の規制の一部を緩和できる制度がもう一つあります。それが総合設計制度です。地区計画が都市計画法で定められているのに対して、総合設計は建築基準法第59条の2で定められています。法律には各法文に入る前にその内容が示されているのですが、この第59条の2については(敷地内に広い空地を有する建築物の容積率等の特例)となっていて、要するに空地を十分にとれば容積率などが緩和される特例があるということが一目瞭然です。この条項については、「敷地内に政令で定める空地を有し、…(中略)…市街地の環境の整備改善に資すると認めて許可したもの…(後略)」と本項の目的は地区計画ほどには明確には書いていません。一方で東京都が発行している「東京都総合設計許可要綱」という東京都における実際のこの制度の運用を示している資料には、趣旨として「一定規模以上の敷地面積及び一定割合以上の空地を有する建築計画について、…統一的な基準を設けることにより、建築敷地の共同化及び大規模化による土地の有効かつ合理的な利用の促進並びに公共的な空地空間の確保による市街地環境の整備改善等を図ること目的として創設されたものである。」とあり、ここでは大きく2つの方向性「土地の有効かつ合理的な利用」と「公共的な空地空間の確保」という具体的な内容が示されています。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (11)

数でいえば江戸川区に次いで4番目の33地区を設定しているのが千代田区です。面積としては488.2haです。例えば、中央区は地区計画数が16に対して、面積は626.1haあるので、千代田区は細かくエリアを区分して地区を設定しているといえるのですが、その一方で地区計画の内容は互いに大きくは変わらなかったりもします。千代田区の場合は一般型と特例的なもので自ら千代田区型と呼称している街並誘導型+用途別容積型のものがあります。先に述べた容積緩和することによって住宅を誘致する用途別容積型と建物をセットバックさせることによって道路の歩行空間を確保する街並誘導型を併せたものです。これらの多くは神田周辺に設定されていて、江戸時代以来の町人街だったために道路空間が十分に取れていなかったことが現代まで続いており、これに対応する策として地区計画が策定されています。防災などの観点も分かるのですが、昔からの都市の骨格をズラしてしまう枠組みなので、本来は慎重に議論されるべき議題ではあろうかと思います。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (10)

もう少し地区計画の多い区を俯瞰してみます。世田谷区と足立区に次いで、江戸川区では35地区、659.6haがあります。世田谷区と同様にどちらかといえば業務地区というよりも住宅地としての環境を配慮するような地区計画が散見されます。特に都営新宿線沿線の駅周辺に地区計画が設定されていますが、これらの地名をみてみると一之江、瑞江、船堀といった水に関するものが多いことが分かります。江戸川区は西に荒川、東は江戸川に挟まれ、区内にも中川やいくつかの水路が通っており、その特徴を活かした地区計画を策定することを地区計画の目標として定めている例が多くみられます。街区割り、街路の通り方は地図で見てみると時々不可解な曲がり方をしていたりするのですが、それも河川や水路の影響でしょう。
ちなみに現在も河川が多くあることからある程度は想像出来ますが、昔は江戸川区の区域はほとんどが湿地帯だったそうです。近世になり江戸に徳川家が入城した後に、御鷹場として直轄領となり、また江戸への野菜を供給する農地として開発されました。一方でかなり水害には苦労していたようで、昭和5年に荒川放水路が造成されるまで度々被害にあっていたとのことです。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (9)

一方で721地区中119の地区が「特例的な活用」と呼ばれている法第12条の6〜11の枠組みによるものです。面積にすると3,591haとなり地区計画の区域の20%弱の面積になっています。繰り返しになりますが、これらの地区計画を活用すると容積率の緩和や道路斜線制限の緩和を受けられるので土地の高度利用を考えている事業者、地主などにはありがたい制度と言えるでしょう。一方で、ただ事業者等にメリットがあるのではなく、例えば都心部で居住者人口が減っているエリアに住宅を誘致する代わりに容積率の緩和を受けられる。その結果、夜間人口が増えて治安の維持に貢献するといったことや行政側が住民税を確保できるといったその地域にとってのメリットも同時にある、というのがここでの地区計画の考え方です。
ところで地区計画については行政側の姿勢も活用するかどうかははっきりと分かれそうです。東京都の23区に限ってみてみると、世田谷区が62地区、1214.7haを地区計画地域と指定していて、次いで足立区が40地区、1112.7haを地区計画としています。世田谷区の広さは5800haなので20%強のエリアは地区計画に指定されている計算です。また62地区中3地区のみを特例的な活用を取り入れており、ほとんどの場合は防災や良好な住環境を形成するために定められたものです。一方で足立区の地区計画40の内、23は特例的な活用で、その中でも20が誘導容積型です。これは下町で狭隘道路が多い地域なので防災上の観点から、建物の道路境界からのセットバックを促してなるべく道路を広げようとするものです。この方向性をより効果的に促すために容積誘導をして、セットバック後のみなしの道路を基準に容積率を換算するというものです。例えば指定容積率が300%あったとしても、全面道路が4mだと240%(4×0.6×100%)しか建てられませんが、6mを前提として道路境界から1mをセットバックすることによって指定容積率の300%(<6x0.6x100%=360%)まで建てられるようにしましょう、というものです。

8-5. 地区計画・総合設計制度 (8)

以上の都市計画法第12条の5を基本的な枠組みとして、法第12条の6〜11において先述した地区計画の特例的な活用というものが位置づけられています。法的な枠組みとしては大雑把には以上のような感じです。
では実際のところ、地区計画はどの程度活用されているのでしょうか。東京都都市計画局のHPをみてみると、これまで述べてきた地区計画については都内において、地区数が793地区、地区の面積としては15,924haとなっています。東京都全体の面積が219,000haなので実に7%の割合で地区計画がかかっている計算になります。都内に住んでいる方は自宅が地区計画区域内である可能性も十分にある訳です。
一方、この793地区の内訳を見てみると、721地区が地区計画、72地区が「再開発等促進区を定める地区計画」で、721のいわゆる普通の地区計画の中でも602が「一般的な活用」と呼ばれる法第12条の5で位置づけられている地区で、11,000haを占めています。この枠組みは建物を建築する際には建築基準法の規制(集団規定について)からさらに条件を厳しくすることで、その地区の都市環境を良好な状態に保とうというものです。そういう意味ではディベロッパーなど、経済的に不動産の活用をしようとしている方にとってはありがたくない規制でしょうが、実際にそこに住む住人にとっては環境が保持されるということで地区計画をうまく活用できるようにするとよいでしょう。