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8-5. 地区計画・総合設計制度 (17)
「共同住宅建替誘導型」は「良質な住宅ストックの形成に資することを目的として、…、建築後30年を経過した…共同住宅である建築物を建て替える計画…」とあります。「良質な住宅ストック」と「建築後30年を経過し」ていることの価値がどのように相反するのかが明らかにされることなく、暗黙の了解のうちに位置づけられているものと筆者は感じてなりません。これはかなり不動産的な資産価値を念頭においた枠組みと言えるもので、基本目標の内容を顧みているようには思えないものです。
「都心居住型」は地区計画でもありましたが、都心部における夜間人口の減少に対する策であることは明白です。
「業務商業育成型」は「新しい都市づくりのための都市開発諸制度活用方針」という都市整備局が策定した指針の中で位置づけられたものと連動した枠組みのようです。これまたこの指針が非常に込み入ったものなのでここでは割愛します。
何はともあれ、このように5つのタイプの総合設計の型が示されてはいるのですが、地区計画のように地域の特性に合わせて個別に対応するのではなく、相対的に大上段に構えたテーマを基本目標で羅列しているせいで、それぞれのタイプの特色がはっきりと見えてきていないのが残念なところです。
8-5. 地区計画・総合設計制度 (16)
とはいえ、容積率と斜線の制限緩和はあくまでもご褒美であり、総合設計の目的はというと大きくは都市環境を整備することにある訳です。1章1−2の基本目標には市街地環境の整備改善、良好な建築・住宅ストックの形成、防災強化、福祉のまちづくり、職住バランス、少子高齢化対応、緑化、低炭素社会など、大雑把にどう転んでも悪くはなさそうな目標が羅列されています。これらの対応策を総合設計の要件の中に盛り込む代わりに、ご褒美である容積率、斜線制限緩和を許可するという理解で良いかと思われます。
引き続いて要綱の中には用語集があり、その中で総合設計の種類が位置づけられています。それらは「一般型総合設計」、「市街地住宅型総合設計」、「共同住宅建替誘導型総合設計」、「都心居住型総合設計」、「業務商業育成型総合設計」の5種類となっています。「一般型総合設計」については特に何かしらのテーマに特化したものではありません。
「市街地住宅型」は「市街地住宅の供給の促進に資することを目的として、…」とありますが、具体的にどのような事例が想定されているのかはここではよくわかりません。
8-5. 地区計画・総合設計制度 (15)
それでは総合設計制度の具体的な枠組みを俯瞰していきたいと思います。法的な根拠は先述の通り建築基準法に由来し、それに即して国土交通省(旧建設省)から運用についての通達が出ているものの、実際的な業務は東京都内の案件については東京都の管轄となっています。ここでは東京都都市整備局が発行している「東京都総合設計許可要綱」を参考にします。
ところで地区計画は東京都内では市区町村単位で枠組みが決められており、その内容は概ねA3用紙で1〜2枚でまとめられていることが多く、とても簡潔で理解しやすいものがほとんどです。一方でこの「東京都総合設計許可要綱」については、東京都都市整備局のホームページからダウンロードできますがA4用紙で43枚にわたるもので、その枚数に比例してか内容も複雑で一瞥しただけでは性格にフォローするのは難しいものです。ここではその内容を断片的にかい摘んでいきます。
まずは目次を眺めると、
1章、 総則
2章、 計画要件
3章、 計画基準
4章、 容積率制限の緩和
5章、 斜線制限の緩和
6章、 雑則
となっており、一見したところ容積率制限と斜線制限の緩和を目的とした制度であるというのは理解できるかと思います。
8-5. 地区計画・総合設計制度 (14)
総合設計制度の走りの時分は先述のような団地の開発で絶対高さ制限を緩和するためだけの利用例がいくつかみられていましたが、一方でやはりメインは都心における大規模な超高層ビルの建設のために制度が利用されている例がほとんどです。先の日野の団地が最初の例でしたが、2番目の例は内幸町にある現在のみずほ銀行、当時の第一勧銀の本店ビルで利用されたものでした。ここでは容積率緩和、道路斜線の緩和、隣地斜線の緩和、高度地区の緩和をしており、総合設計制度をフル活用した例と言えるでしょう。
東京とのホームページによると平成26年度4月のまでの累計で709件の総合設計制度利用の建物があるそうです。近年では事務所ビルのみならず、いわゆる高層マンションのための利用がみられますが、事務所ビルを含めて緩和されているのは容積率についてがほとんどです。土地の高度利用を図って収益性をあげていくという開発側の姿勢が現れるシーンです。
8-5. 地区計画・総合設計制度 (13)
さてここでいう「土地の共同化及び大規模化による」合理的な利用というのは現在の総合設計を想定するといまいちピンときませんが、東京都がインターネット上で公開している総合設計プロジェクト一覧の一つ目をみるとその意味が少し分かるような気がします。ちなみにこの条項は1970年に建築基準法に制定されているようです。そして東京都における一つ目のプロジェクトは意外にも都心の再開発ではなくて、昭和51年(1975)11月15日に許可された「日野大久保団地」という日野市における共同住宅のプロジェクトでした。とてもゆったりとした敷地の中にぽつぽつと住棟が並んでいるような典型的な郊外の団地です。ここでは建築基準法の第55条が緩和されているのですが、その内容は第一種低層住居専用地域と第2種低層住居専用地域における絶対高さ制限についてでした。つまり一般的に一種住専の地域では10mの最高高さを超える建物を建ててはならないのですが、ここでは当時の公団の仕様に従って4階建てを建てたいがためだけにこの総合設計制度を利用したとのことです。これが「土地の共同化及び大規模化による」合理的な土地利用ということで、公団モデルの団地を想定していたことが分かります。ただし、そのことによってどの程度メリットがあったのかというと、疑問が残るところですね。誰にも迷惑をかけてはいなさそうなので別に良いのですが…。