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年に数百棟の貸ビルを見に行く。貸ビルとしての出来不出来を査定するためである。貸せるのか貸せないのか。いくらなら貸せるのか。ぱっと観て設計の好きな設計士が建築した建物だとわかるビルがある。建築士だけが満足する自己撞着のような建物は貸ビルとして失格である。
建築士がひとり楽しむのではなく、テナントの目的が充足される建物が良い貸ビルである。
テナントがビルを借りる目的は何なのか、考えたことがない建築士はビルを設計してはいけない。
昔、ヒサエダさんという弁護士さんに、大手設計事務所の責任者に会ってくれと頼まれたことがある。ヒサエダさんが貸ビルを建てるという。設計を頼んだ事務所の責任者にわたしの考えを教えてほしいと言う。
責任者はわたしの言うとおりに図面を修正しようとしない。大口論である。
あなたはこの設計ブランで、いくらで貸せるのか、テナントが何の目的でビルを借りるのか、1度でも考えたことがありますか。
さあ言ってみて下さい、何も言えないのなら、わたしの言うとおりに設計しなさい。
設計事務所の責任者とは喧嘩別れしてしまったけれと、ビルが完成し見に行ったところ、わたしの指摘したとおりに設計されていたのであった。
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数十年モデルチェンジをしない、ルノー4という車があった。白黒映画のジャンギャバンふんする若いヤクザが、パリの裏道をすっとばしていく安っぽい車である。映画を見てからわたしはルノー4を好きになった。
ルノー4は、お金の無い建築士が、安い土地を借り、才能が無いにしても、自分なりの建築士事務所を建てた、という感じの車である。けれど、貸ビルには合わない。
昔、ジャガーというめちゃくちゃデザインの素敵な車があった。自社ビルには合う。けれど貸ビルには合わない。
自社ビルの素敵な設計は、素敵であればあるほど、他の会社には合わないから、本来なら銀行の担保価値は無い。銀行員にそんなことは分からない。けれど、やはり貸ビルには合わない。
自社ビルのようにダントツに好きになられる必要は無いけれど、少なくともどんなテナントにもイヤだなと思われてはならない。これが貸ビルである。
*名人
名人も
心が充実する日と
しない日があります
受ける人は
違いをつよくかんじます
名人は
わかられていることを
気が付くときもあり
気が付かないときも
あります
料理も
指圧も
ほんとうは
技術ではなく
生きかたであり
心なのだ
とおもいます
心が
技術を産む
とおもいます