死体

初めて見た死体は
おじいさんの死体
六才の時
唇に水をあげた
父と母と弟がいた

二度目は親友の死体
二十五才の時
築地警察地下一階
会う約束だったけれど
ビルの屋上から飛び降り
電線にバウンド
体操のように着地した
飛び降りなのに
きれいな死体だと言われた
学生結婚の
奥さんが来ていた
家に帰るのは惰性だ
何の意味もない
と親友は言っていた

三度目はおばあさんの死体
三十九才の時
老人ホーム近くの旅館
観音さんのように
きれいな顔をしていた

四度目はおやじの死体
四十九才の時
岩手の実家
罪人のように
針金で
手首を縛られていた

五度目は部下の奥さんの死体
六十才の時 葬儀場

弟が十一年前に死んだけれど
死体は見ていない

死体は
動かなかった
手も顔も
冷たく
動かなかった
ひとではなかった
未練が消えたように
きれいな顔だった

わたしは
いま七十四才