千羽鶴
私が焼物に興味を持ったきっかけは川端康成の「千羽鶴」なんです。私は2回以上読むことはほとんどなくて、5冊くらいかな。この本は何回も読みました。この小説には志野の筒茶碗が出てくるんだよ、細長い冬用の冷めにくい茶碗です。一方で夏茶碗というのは口が広い平べったいものです。
太田夫人という登場人物には愛人がいたのだけれど死んでしまって、その男の息子と円覚寺でお茶会があった時に会うんだよね。そのときに婦人の娘が締めていた帯が千羽鶴の柄なんだけれど、夫人はその息子とも関係をもって、志野の茶碗をあげるんだよ。で、男が「あなたは抱かれている時に父と私の区分けがついているのですか」と聞くと、「残酷なことをおっしゃるのね。」と言う。筒茶碗の口のところに、口紅がついたような微かな赤みが付いているんだよね。とても古い茶碗なのだけれど、どんな人がそれでお茶を飲んだんだろうとか連想するんだよ。その後、太田夫人は自殺しちゃって、その娘が「その茶碗を返してくれないか」と訪ねてくるんだよ。その理由は同じ手のもので他に良い茶碗はいくらでもある。もしより良い茶碗を持った時に、母の茶碗を思い出されたら嫌だって。
よく分かるなあと思って。それで志野に興味を持ったんだよね。