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模型

「屋根の家」をつくった手塚さんの「森の学校・キョロロ」に行きました。錆びる鉄板を外装材に使っている建物です。その建物を設計して完成するまで、模型を100個以上つくったそうです。建築家は論理からすべてを積み上げていって、あるいはそれを崩して、色々なものを作ってみて。そういうプロセスでやっていくので、当然その時間のかけ方だと、仕上がるものは違います。かなり時間をかけてやっていますよね。

我々の場合だと決断はすごく早いです。貸しビルの設計だとプランニングで善し悪しがすぐに判るんですね。1週間、1ヶ月かけることも、寝ている時に考えることもありません。良い、悪い、それだけです。なので、商売用では模型を1個も作ったことがありません。マンションとビル、合計で150棟くらい作っていますが1つも作ったことはないです。

模型を作るのは趣味の時だけですね。

老人のための家

高峰秀子さんという名優がいます、もうおばあちゃんですが。すごく好きな映画で成瀬巳喜男監督の「浮雲」に出ていました。

その彼女は家を壊して、家財道具の殆どを捨てて、集めていた食器類も普段使うものを除いて処分して、小さい家をつくったという記事を読んだことがあります。ワンルームの部屋に老夫婦2人です。例えば美しい茶碗や食器を人の雰囲気や料理に合わせて取っ替え引っ替えして、それも作家がつくった食器だったりすれば、老夫婦には管理するのには大変な労力がいるわけです。食器によって扱い方が違うし、収納する棚がいっぱい必要だし。ちゃんと管理しようとすると莫大な手間がかかるので、体力が無いとできません。すべてがそういう風にして体力気力がないとできないし、歳をとると余計なものはいっさいいらなくなるわけです。趣味でも、将棋もしなくなるし、焼き物もしなくなるかもしれないし。そもそも、必要なものがなくなってくるんですね。

そう考えると、老人が本当に居心地良く住める面積というのは20坪もいらなくなるのではないでしょうか。寝室があって食卓があって、使いやすい風呂があって。本棚もたくさんはいらないよね。それに健康のためには気温の変化がないほうが良いから、居室と寝室を廊下で結ぶのではなくて、ワンルームにした方が良いでしょうね。安全上はお互いにいつも見えていた方が良いし。転んで骨折したときにも、声を出せばすぐに伝わるように。

そういう老人のための家をやってみたいという気持ちはありますね。需要は絶対あるはずなんですよね、お金持ちで老夫婦になって子供がみんな独立しちゃってね。

ル・コルビュジェの「母の家」

1年に1戸くらい住宅を作ったら楽しいだろうね。

特に住宅は建築主の年齢と健康、意欲によって大きく変わるよね。コルビュジェの「母の家」がありますよね。住宅の基本形はあれだな、と私は思っています。住む人が主人公。コルビュジェのお母さんの動きを、何時頃はなにをすると行った具合に克明に追って。座った時の高さや身長に合った階段、ゴミを捨てる場所。何から何までをお母さんの一日の仕事の流れに応じて配置をして、一番景色が見えやすいようにお母さんの高さから窓を切り取ってね。中村好文さんのコルビュジェの「母の家」の解説でしたが、良かったですね。

やっぱり住人の好み、体質、人間関係が表現されないと、私は家だとは思えません。それがないとプロダクトデザインみたいなものです。