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本橋君へ
ポンピドゥセンターの評価は現在どんなかんじですか。あなたはどう思いますか。
佐々木泰樹
佐々木さん、こんにちは。
ポンピドゥセンターというと、パリにある70年代にR・ロジャースとレンゾピアノが建てた物と、メスというフランス北部にあるついこの間竣工したB氏設計の建物がありますが、どちらでしょう?恐らく最近の物の方ですよね。
美術館が開館したのが5月か6月あたりだった気がしますが、その折にはわりとテレビなどのマスメディアに取り上げられていました。その際には必ずといっていいほど、B氏の名前や写真が取り上げられていましたし、子供たちが彼にサインや写真を求めるといったことが頻繁にあったようです。フランスでの建築家の社会的地位を端的に顕している光景でした。そして少なくともあの六角形の木格子の屋根やそこから突き出したボリュームといった形態がつくるイメージ(形象)は、そのあからさまな分かり易さからある程度のポピュラリティを獲得できたと言えるかと思います。
一方で建築メディアは冷ややかだったといえるかと思います。こちらの雑誌で大々的に特集されたような記事は見ませんでしたし、恐らく新建築での掲載が一番、頁数としては多いものではないでしょうか。同時期に竣工したS氏のラーニングセンター(スイス)はかなりの建築メディアに取り上げられていました。つまりはあの建物のイメージはポピュラリティを獲得し得るものの、建築の批評性を獲得はし得ないことの表れだと、僕はみています。
あまり僕は書きたくはないのですが、佐々木さんじゃないですが、端的に言えばやはり「美しくない」のがひとつだと思います。
基本的な構成として、様々な方向に振られた細長い長方形のボリュームを積層させて、その上からふわっと六角形の木格子の膜を張るということですが、これ自体は木格子でやることを除けばとても80年代的ですね。坂本先生で言えばHOUSE F、伊東さんで言えばシルバーハット、山本理顕さんでいえばGAZEBOといったところでしょうか。決してこれが悪いとは思っていなくて、それを木の格子で曲げでつくること、六角形の幾何学を徹底させて構造、工法の単純化をしていること、そしてその覆いが作り出し得るゆるやかな領域とメスという土地、敷地に対する理解(パヴィリオン的に建つこと、シンボル性があること)は概ね良いのだと思います。だからコンペに勝てたのでしょうし。
ただ僕が感じている決定的な間違いはその構成に対する規模の問題で、覆い・建物が小さすぎると考えています。予算の問題からかなり規模が縮小されたとも聞いていますが、それにしても全体のプロポーションが大らかに水平に伸びていくべきところを、かなり下から突き上げた格好になってしまっています。アプローチ側は何とか体裁を整えようと覆いを下の方まで下ろしてきていますが、角度を変えてみると丈の短いTシャツを着せられているみたいな不恰好な風体になっています。
またボックスの外、覆いの下の中間的な領域の扱いも疑問です。ガラスのサッシを地面から大きくうねる天井まで伸ばして内外を分断してしまっていて、魅力的であるはずの領域の曖昧さがそこで一気に切り捨てられてしまっています。実質的な運営上、ある程度のそいうことはやむをえないとは思いますが、とはいえ、あまりにも前提となっている構成を捨象したもののあり方がひどく醜く感じられます。そういう意味で坂本先生風に言えば、建築家の頭の中にあるモデルとしての構成とプラグマティックなレベルで現実との対応しかたに、全く緊張感がなくなっています。
と、ここまで書いて、もしかしたらパリの方のポンピドゥセンターの話を佐々木さんはされているのかも、とも思ってきました。
パリのポンピドゥの方は建築時にはその設備むき出しの意匠がパリの風景にそぐわない、ということで随分と不評を買ったようですが、その辺りはエッフェル塔の議論と同じようなことだと思います。今はすっかりパリの代表的な風景の一部としてポジティブに捉えられているのではないでしょうか。結局はその外観の印象はさておき、建築的なことで言えば手前の広場と1階のロビーとの連続的な関係、外部エスカレーターとパリの風景の関係、内部空間のフレキシビリティとその大スパンの架構をつくる細かい部材の構成、ソフト面で言えば常設展のコレクションの充実とともに企画展のジャンルの幅の広さとその的確さ、など全体的に評価できることがかなりあるので、外観に対する批判はどこ吹く風、といった感じじゃないでしょうか。
的を得たメールになったかどうか分かりませんが、思ったことを書いてみました。
本橋良介
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