5-7. 鉄 (11)

このように18世紀鋼板から当時では建築とは言い難い構造物に使われてきた鉄ですが、19世紀中頃になるころには徐々に建築物にも使われるようになってきています。性格にどの建物が始めに鉄が構造体として使われたというのは筆者には断定できませんが、建築として鉄を使うことによってそれまでの建物では出来なかった空間を獲得できたという意味でエポックメイキングな作品として、いつも真っ先に思いつくのはパリで1851年に竣工したアンリ・ラブルースト[Henri Labrouste]設計のサント・ジュヌヴィエーヴ図書館[Bibliotèque Sainte-Genevieve]です。

図5-7-8:サント・ジュヌヴィエーヴ図書館

図5-7-8:サント・ジュヌヴィエーヴ図書館

パリ5区のパンテオンの広場の一角に建てられているので、観光でパンテオンを訪れたことのある人ならばきっと目の脇の方で視界には一度は入っているはずの建物です。サント・ジュヌヴィエーヴはパリの守護聖人の一人として位置づけられている聖人で、この建物が建つ敷地はセーヌ川から坂を上った丘の上に位置しています。今では建物が建て込ん90でいるので見る影もありませんが、もとは[Montagne Sainte-Genevieve]サント・ジュヌヴィエーヴ山と呼ばれているような場所で、パリを見下ろす周辺よりも高い場所になっています。現在でもパリ市内の比較的見通しの良いところからパンテオンのドームの上部が見えるのは、この位置関係によるものです。
ちなみにパンテオンは1790年頃に竣工していますが、元々はサント・ジュヌヴィエーヴに献堂するためにスフロによって設計されたものです。その後、フランス革命を経て偉人を埋葬する墓所として位置づけられた後、ナポレオン時代に用途の変更があったものの、現在でも霊廟として位置づけられています。本人の意思は定かではないですが、ビクトル・ユゴーやエミール・ゾラ、アレクサンドル・デュマといったフランスを代表する作家、キュリー夫妻のような科学者、軍人、政治家などの墓所となっています。

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