5-4. カーペット (6)

このように権威を象徴するような使われ方をしていたカーペットあるいはタペストリーですが、抽象的な文様から離れて具体的に物語を示すような織物になると、床に使われる[tapis]というよりも壁にかけて室内を装飾する[tapisterie]として作られたものが多いような気がします。多くの場合、当時の絵画のモチーフといえば、キリスト教の聖人や高貴な人の肖像だったりするので、それらを床に敷いて踏みつけるということが適切でないと考えられたのかも知れません。
あるいはただ使い方の差から、現存するものが壁にかけるものの方が状態が良いということもあるかも知れません。

図5-4-5:貴婦人と一角獣「私の唯一の願い」

図5-4-5:貴婦人と一角獣「私の唯一の願い」

何はともあれ、世界中で最も有名なタペストリーは上図の作品だと思われます。2013年の春から夏にかけて国立新美術館に展示されていた「貴婦人と一角獣」(正式には[La dame à la licorne])は、普段はパリのクリュニー中世美術館に展示されているものです。6枚のタペストリーの連作として織られていて、それぞれ「味覚」「嗅覚」「聴覚」「視覚」「触覚」という5感を5枚で象徴していて、残りの1枚は「私の唯一の願い」というタイトルがつけられています。(その「願い」の解釈が定まっていなくて、この作品の議論となるのですが、ここでは割愛。)

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