7-1. 熱環境 (5)

エアーコンディショニングの技術の始まりは18世紀あたりから、気化熱を利用したものでアルコールやアンモニアなどを気化させるものでした。20世紀初頭に温度とともに湿度も調整できる技術が開発されましたが、鉄などの他の技術と同様に、印刷工場の製造過程を改善するために設計されていました。その後、徐々に建築や自動車などの熱環境を調整するために普及していったようです。先の谷崎潤一郎の文章は1935年のものですから、発明から約30年後には日本の公共空間にも一部は登場していたようです。

図7-1-1:エアコン普及率

図7-1-1:エアコン普及率

とは言え、実際にエアコンが一般家庭への普及が始まったのは1960年代に入ってからのようで、80年代にかけて約半数の世帯がエアコンを使用する程度のペースです。黒澤明の1963年の映画「天国と地獄」では、金持ち社長がエアコンを所有しており、それがある意味で富を象徴しており、それほど家庭には稀なものだったのでしょう。またその頃の映画の夏のシーンを見てみると、ネクタイをせずに開襟シャツを着ていることが多いです。現在では夏場のクールビズの動きが進んでいますが、そもそも夏までネクタイを着用するのは冷房装置の普及がしていった60年代以降ということで、その時分にはエアコンがかなりオフィスの風景を変えたものだと思われます。

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