1-1. 都心/オフィスビル (5)

郊外の住宅がたびたび建築家や社会学者のテーマに扱われて、都心のオフィスビルにはその機会が少ないというのは幾つか理由があるかと思います。
住宅の場合はオーナーが自分自身のために建てることが多いですので、没個性的な商品化住宅で満足できないとなれば(商品化住宅なりに個性を出そうとはしているようですが。)建築家に設計を依頼することもあるでしょう。特に日本では若い建築家は戸建て住宅をスタートにして、そのキャリアを始めることが多いです。それが都心のオフィスビルからスタートするとはあまり想像できません。オフィスビルの多くは賃貸物件ですし、そうなると不動産市場における評価が設計を決める最大の要因となるでしょう。各建物で個別の、個性的な価値を創造しようとする建築家に依頼するというよりは、オフィスビルは商品化(パッケージ化)されていないにも関わらず、ある意味で商品化住宅のように固定された価値に向かって設計できる設計者が求められるわけです。つまりオフィスと住宅とでは逆の立場、状況から、お互いに向かうようにベクトルが向いていると見てもよいかもしれません。
この連載では以上のような文脈から、中小のオフィスビルを考察するというあまり多くはない試みだと思います。なるべくテーマの制約をつくらずに、ざっくばらんに網羅的にトピックとして取り上げて、「オフィスビル」の全体像を浮かび上がらせるような連載にしたいと考えています。

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